103 地震
年の瀬もいよいよ押し迫ったある明け方、一希は強い揺れで目を覚ました。地震だ。かなり大きい。
揺れが収まるのを待ってテレビを点けると、古峨江市内で震度五強。家の中は細かいものが少し落ちたぐらいで、とりあえず無事だ。
年明けまでのサラナはまだここには運び込んでいないから、軍の施設で安全に保管されているはず。もっとも、揺れ方によっては防護扉の中でいくつかが爆発した可能性はあるが。
一希があさって担当するデトンは百瀬海岸なので、速報によると震度三で済んでいる。周囲は開けているし津波の心配もないそうだから問題ないだろう。念のため埜岩に電話すると、現場を確認した軍員からちょうど異常なしの報告が入ったところだという。
「他に露出済みの案件は?」
〈実はまずいのが一つ。幸谷市のザンピードです。震度六弱にやられまして〉
場所は住宅街のど真ん中の工事現場だという。安全化を二週間後の年明けに控え、深さ五メートルほどの穴の底に水平に布置されていたのだが、爆弾を支えていた鎖が切れ、支柱も崩れてしまっている。まだ爆発はしていないが、爆弾自体も土嚢で組んだ台座ごと傾き、先端が底の土にめり込んだ状態とのこと。
これは危ない。現時点でもう固定できていないとなると、この後の余震などで衝撃を受ければ爆発する可能性は十分ある。埜岩からは、安全化の際に避難する予定だった半径五百メートルに緊急避難命令を出したところだそうだ。
地震による避難者が加わって多少混乱するかもしれないが、とりあえず半径五百メートルの範囲から出ていてくれさえすれば、爆発しても怪我をすることはない。しかし、いつどうやって爆発するかわからないままでは、いつまで経っても避難指示を解除できない。
一希は、今から現場に向かうと告げて電話を切った。急いで作業服に着替え、はやる気持ちを抑えて車を飛ばす。
現場が近付いてくると、立ち入り禁止区域との境目に陸軍のトラックが停まっていた。不発弾警護担当のジープとは違う。おそらく地震の後に来たものだろう。
そばに立っていた迷彩服姿の若い男が両腕で×を作り、通行を遮ろうとする。一希が窓を開けて腕を突き出し、オレンジ色の袖を見せると、
「失礼しました!」
と彼は直立し、敬礼で応えた。
「不発弾処理士の冴島です。ザンピードは?」
「ああ、ご苦労様です。まだ変わった様子はないですが」
との返事。しかし、何も変化がないところから変わり果てた姿へと吹き飛ぶまではほんの一瞬だ。油断はできない。
「この先ですね」
「はい、突き当たり右折です」
その通りに車を進めると、今度こそいつもの不発弾担当のジープが見える。周囲に迷彩服が数人。その中に見覚えのある顔を見付けた。
「沼田さん」
以前一希が他のザンピードの安全化で世話になった沼田軍曹だ。
「あ、どうもご苦労さんです。いや、担当の処理士に連絡がつかなくて……もしかしたら向かっとるかもしれないですが」
一希は車を端に寄せて停めた。
「避難はどうなってます?」
尋ねながら外に出て、荷台のケースから懐中電灯と爆破処理用のセットを取り出す。
「今急いどりますが、年寄りが多いんで手間取りそうですわ」
「いずれにしても人為爆破に切り替えないといけません。セットさせてください」
ここへの道すがら出した結論だった。
「いやしかし、セットしとる間に爆発したら……」
「次の揺れが来るまではもつと思いますから、少しでも早い方が」
沼田軍曹は一希の勢いに気圧されたようだったが、遠慮がちに抵抗を試みた。
「このまま埋めちまうわけには……?」
「後でまた掘り出すことになった時に却って危険です」
爆発に備えて土を被せてしまえば確かに衝撃は大幅に和らぐが、結局爆発しなかった場合、改めて安全化もしくは爆破処理を行うには一触即発の状態でまた掘り出すことになる。
「爆破のセットをしてから埋めます」
埋めてみて自然に爆発しなかった場合、セットした起爆装置で爆破すれば処理は完了だ。
「わかりました。じゃあ……」
沼田はようやく折れ、待機していた三人の軍員を呼び寄せた。
「補助が必要でしたら、うちのを使ってください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
白み始めた東側の空に報道のものらしきヘリコプターが飛んでいる。爆風域ギリギリのように見えるが、軍から注意がいっているはずだから、あとは自己責任だ。




