第20話 ☆美少女三人とカラオケ
俺はアキハ先輩と二人きりでの反省会を終えた。
校門へ急ぐ道すがら。
俺のスマホは、ポケットの中で《《2人》》からの通知に挟まれ、振動し続けていた。
一つはフユミからの『文房具店で待つ。遅刻厳禁』という圧力全開のメッセージ。
もう一つはコハルからの『ナツキちゃんと駅前のカラオケいまーす! トーマも早く来てー!』というスタンプ連打。
どちらを選ぶか。
フユミを選べばコハルとシミズがすねる。コハルとシミズを選べばフユミがすねる。
すねたときの対応の難しさはフユミのほうが上だが、二人をすねさせるのは一人をすねさせるより悪いかもしれない。
究極の二択か? これもうトロッコ問題だろ。
しかし、実行委員長として覚醒しつつある俺の脳細胞が、一つの解を弾き出した。
文房具店に行ってから、そのままフユミを連れてカラオケに行けばいいんじゃね?
我ながら名案だ。
七曜祭の準備にはチームワークが必要だ。「親睦を深めたい」と言えば、真面目なフユミも納得してくれるだろう。
このカラオケ会なら三人とも楽しいし、アキハ先輩の言う『公平性』も保てるし、俺も楽しい。まさに三方ヨシ!
アキハ先輩にもお誘いをかけたが、何か用があったのか、連絡がつながらず断念した。
俺は文房具店の前で仁王立ちしていたフユミに合流し、用事を済ませた後、必死のプレゼンを行った。
「親睦を深める必要がある」
「コハルとシミズが待ってる」
「久々にフユミの歌が聞きたい」
と畳み掛け、なんとかカラオケ店へと連行したのだった。
◆◆◆
「カンパーイ!!」
駅前のカラオケボックス。少し広めのパーティールーム。
コハルが音頭を取り、ドリンクバーのプラスチックグラスが掲げられた。
「いやー、まさかフユちゃんも来てくれるとはね!」
「……トーマがどうしてもって言うからよ。あくまで付き添いなんだから」
フユミは少々ツンとしているが、マイクを握る手つきは慣れたものだ。
「それでも超嬉しいよ!」
屈託なく笑うコハルに、フユミはバツが悪そうだ。
「……ありがとう、火伏さん」
「コハルでいいって!」
おお、雰囲気が明るくなってる!
ぎゃるの ちからって すげー!
そうして始まったカラオケ大会は、俺の予想を遥かに超えるレベルの高さだった。
トップバッターのコハルは、流行りのダンスナンバーを完璧な振り付けで歌い上げた。
声量お化けだ。ビブラートも完璧。タンバリン片手に煽りまで入れてくる、まさにライブ会場。
続くフユミは、打って変わって懐メロのラブソングを歌い上げた。
伸びやかで自然な高音と、情感たっぷりの表現力。普段の厳格な委員長キャラからは想像もつかないほどポップで愛らしい歌声に、コハルですら「う、ウマすぎ……」と口を開けていた。
そしてシミズ。
彼女は予告通りエロゲソングを選曲した。
コハルとフユミに比べると、音程は時たま怪しい。サビで半音ズレたりする。
だが、その声質が異次元だった。
銀の鈴を転がすような、透明感あふれるウィスパーボイス。
技術を超越した癒やしの波動に、俺の穢れた魂は浄化されかけた。
「……すごすぎる」
俺はポテトをつまみながら呆然とした。
四天王、芸達者すぎるだろ。俺だけだぞ、タンバリン叩くしか能がないのは。
歌い疲れた頃には、最初は警戒していたフユミも、コハルのハイテンションに毒気を抜かれ、楽しそうに笑っていた。
シミズもフユミの歌唱力を『セイレーンの如き魔性の魅力』と絶賛し、フユミも悪い気はしていない様子だ。
うまくいっている。
ヨシ! ヨシ!
俺は心の中で現場猫ポーズを繰り返した。
アキハ先輩との計画の通りだ。こうして少しずつ共存共栄の道を探っていけば、破滅フラグを回避できるかもしれない。
そんなことを考えていると、コハルがスッと立ち上がった。
「チョイお手洗い行ってくるわー。ナツキちゃんも行こ?」
「え、あ、はい。行きます」
コハルに手を引かれ、シミズも立ち上がる。
部屋を出て行く際、コハルは俺とフユミを見て、ニヤリと意味深長な笑みを浮かべた。
「しばらく二人きりにしてあげるからさ。……楽しんでよね?」
バタン、とドアが閉まる。
部屋には俺とフユミだけが残された。
フユミの様子をうかがう。微動だにしない。
しばらく静寂が訪れるのかと思いきや、カラオケの画面には予約されていたラブソングのイントロが流れ始めた。
聞き慣れたイントロだった。
ラブコメアニメのMADで何度も聞いたイントロだった。
テレビ画面に表示された曲名は、
【3年目の浮気】
胸が痛い!!!
「あの」
問いかける俺に一瞥もくれず、フユミはマイクを差し出した。
「デュエットだから」
「はい……」
断れない。断れるはずもない。
俺は心の中で、コーラの入ったグラスへ問いかける
この状況から入れる保険ってありますか?
もちろんグラスは何も答えず、俺と一緒に冷や汗をかくのみだった。
◆◆◆
ギャルの製造過程を見ている。
鏡の前で化粧直しをするコハルを見ながら、シミズはそう思った。
手つきが洗練されている。
アイライナーで目尻を数ミリ跳ね上げ、猫のようにいたずらな目つきを演出。
涙袋には微細なラメを乗せ、照明の下で潤んで見えるよう計算された輝きを宿す。
仕上げに、ぷるぷるつやつやの唇を作るためのリップグロスをひと塗り。
『火伏琥春』という、ポップでキャッチーなキャラクターを演出するための、緻密なエンジニアリングだった。
ギャルは一日してならず。そんな成句が頭に浮かんだ。
そんなシミズに対し、コハルは鏡越しに視線を合わせた。
完成したばかりの長い睫毛が、ぱちっと瞬く。
「ねえ、ナツキちゃん」
先ほどまでのバカ騒ぎが嘘のような、静かで落ち着いた声だった。
「アタシら二人で協力しない?」
「……はい?」
シミズの手が止まった。




