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第16話 四天王、一堂に会する。

「先輩は私のインスピレーションの源ですから。これより部室にて隔離……いえ、保護させていただきます」


 シミズの宣言に、俺は反射的なツッコミを返す。


「人を天然記念物みたいに言うな」


「トーマは天然記念物ってか天然ジゴロだよね」


 コハルがさらりと乗ってくる。

 ギャルとは思えぬ語彙力だ。


「天然ジゴロってきょうび聞かないけども……」


 そして俺にそんな属性はないけども。


「ってかアタシも行く!」


 コハルが反対側の腕を掴む。

 仲が良いのか悪いのか。少なくとも、俺を取り合うという点では完全にライバル関係だ。


 夢の大岡裁きに俺は少し嬉しくなってしまった。

 とはいえ、トラブルになる前に仲裁すべきだろう。


 ここはビシッと決めさせてもらおう。


「ケンカはやめてよぅ、俺のために争わないでよぅ」


「先輩鼻の下伸びてますよ」


「うわっはー、だらしないカオ……」


 二人してドン引きしている。が、俺の腕を離そうとはしない。


 俺が再び言葉を発しようとした瞬間、廊下からもう一人の人物が現れた。


「あら、奇遇ね。皆さんお揃いで」


 月澄つきずみ・フユミ・エインズワース。


 俺の幼なじみである。


 手には可愛らしい弁当箱を持っている。

 彼女は俺の両腕を抱えたコハルとシミズを見ると、優雅に微笑んだ。


 碧眼だけは全く笑っていないが。


「でも残念。トーマは私と先約があるの。ね、《《あなた》》?」


 フユミは俺の正面に立ち、笑顔でプレッシャーをかけてくる。


「えぇ〜? フユちゃん、トーマと急に仲直りした系?」


 問い返すコハルの視線は、どこか鋭さを帯びている。ヤバい、一軍女子同士の視殺戦だ!


 一方シミズはと言うと、無言かつ無表情でフユミを見つめていた。こいつ、こんな冷たい目つきも出来たのか……。


 三方向からの完全包囲。

 クラスメイトたちは遠巻きに見守っている。事の異常性を悟ったらしく、誰も彼も静かにしている。小声で読経する奴がいる。十字を切る奴もいる。


 俺は処刑台に立つ罪人の気分である。


「皆様」


 そこへ、救世主……もとい、真打ちが登場した。

 生徒会の腕章をつけた女子生徒が、うやうやしく頭を下げる。


「生徒会長がお呼びです。日村様、月澄様、冷水様、火伏様。皆様ご一緒に、第二会議室へお越しください」


 その言葉に、三人の動きが止まった。


 生徒会長による直々の呼び出し。

 滅多にないそれは、この学園において絶対的な召喚命令である。


「えー、アタシなんかやらかしたかな?」


「権力の濫用ですね」


「……また、あの女」


 三者三様の感想を漏らしつつ、彼女たちは俺を解放した。


 俺は深く息を吐き、先導する生徒会役員についていく。


 背後からついてくる三人の美少女が放つプレッシャーで、胃に穴が開きそうだ。 




 ◆◆◆




 第二会議室のドアが開かれる。

 そこには、俺の予想以上の光景が広がっていた。


 会議室の長机には真っ白なクロスがかけられ、中央には色とりどりのスイーツタワー。


 そして、芳醇な香りを漂わせるティーセット。

 まるで英国貴族のお茶会だ。


「ようこそ、皆様。お待ちしておりました」


 上座に座る木南きなみ 秋葉あきはが、優雅に微笑んで出迎えた。


 彼女は立ち上がり、手招きをする。


「さあ、お座りください。今日は美味しい紅茶とお菓子を用意させてもらいました」


 俺たちは戸惑いながらも、指定された席に着く。


 配置はこうだ。

 上座にアキハ先輩。

 右側にフユミとコハル。

 左側にシミズと俺。


 俺が一番入口に近い。つまり下座だ。


 なんで俺が最低席次なんだ。


 と思ったところで、木南先輩が視線で問うてくる。


『みなまで言わねばわかりませんか?』


 もちろんわかります!

 わたくしめが最低だからです!

 私めの色狂いの収拾をつける場だからです!


 大変失礼いたしました!


 俺が視線で応えると、アキハ先輩は『わかればよろしい』とばかりに小さくうなずく。


 そして、静かに口を開いた。


「さて。本日お集まりいただいたのは、他でもありません」


 彼女はティーカップを置き、全員の顔を見渡した。


「二ヶ月後に開催予定の『七曜祭』について、皆様にご協力いただきたいのです」


「「「「はい?」」」」


 俺たち五人の声が重なった。


 七曜祭しちようさいは、我が七曜学園の文化祭。伝統的に、一学期の締めくくりとして催される。


 その規模は凄まじく、近隣住民から他校の生徒、さらには業界関係者までもが押し寄せる。狂乱と混沌の三日間だ。


 去年なにやったのか思い出せない。思い出すのが怖い。準備が大変だったことだけ思い出せる。


「七曜祭は、生徒主導の一大イベント。その成功のためには、各界のカリスマである皆様の力が不可欠なのです」


 アキハ先輩は流暢に語り出した。


「文武両道、ファンも多い特進クラスの月澄さん。

 感受性と言語能力に長けた神童の冷水さん。

 スポーツ万能でインフルエンサーの火伏さん。

 みなさんにご協力いただければ、かつてない体育祭にできます」


「え、ちょ、アタシも?」


 コハルが自分を指をさして驚く。


「ええ。あなたの発信力と企画力、そして何より、その『華やかさ』には期待しています。」


 アキハ先輩に褒められ、コハルはまんざらでもなさそうに「マジすか? えへへ」と頭に手をやった。チョロい。


「私は……喧騒も集団行動も苦手なのですが」


 シミズが難色を示すと、アキハ先輩はすかさず切り返す。


「パンフレットの構成と脚本監修、校内放送でのナビゲーターをお願いできればと考えております。透き通る美声と膨大なボキャブラリーを持つシミズさんには、最適なお役目かと」


「で、でも……」


「報酬と言っては何ですが、いくつかプレミア品のビジュアルノベルをお譲りできればと考えております。現状は、書淫、さよおしきずあとの箱が手元にあります」


「是が非でもお願いします」


 シミズ、即落ち。

 生徒会長がプレミアエロゲで後輩を買うなよ……。


「私には……」


 フユミが警戒心を解かずに睨む。


「私には、生徒会業務を手伝う理由はありませんね」


「そうおっしゃるかも、と思っておりました」


 アキハ先輩は涼しい顔で応じる。


「ですが月澄さん、これは日村さんのためでもあるのですよ?」


「っ!?」


 アキハ先輩は俺に、意味ありげな流し目を送る。


「日村さんには実行委員として、このプロジェクトのリーダーを務めてもらう予定です。彼一人では荷が重い……幼なじみとして、支えてあげたいとは思いませんか?」


 俺がリーダー!? 初耳だ。

 七曜祭の実行委員なんてブラック企業のデスマーチみたいになりそうだが……。


 しかし、フユミの表情が変わった。


 「支える」というキーワードが、彼女の母性本能《やる気》スイッチを強打したらしい。


 フユミが俺を見る。俺は小さく頭を下げる。


「……しょーがないわね! アンタが困るなら、手伝ってあげなくもないわ」


 フユミは口元を手で覆った。ニヤついたときの癖である。


 フユミ、陥落。


 恐ろしい。

 アキハ先輩は、たった数分で、この個性的すぎる三人をまとめてしまった。


 これが生徒会長の実力……。


「では、皆さん交渉成立ですね」


 アキハ先輩は満足げにうなずき、紅茶を一口飲んだ。


「これより、第77回七曜祭実行委員会を発足します。皆様、仲良くやっていきましょう」


 にっこりと微笑む彼女の背後に、十二枚の黒い翼が見えた気がした。


 俺は震える手でティーカップを持ち上げる。

 紅茶の味はしなかった。ただ、これから始まる地獄の味がした。


 こうして、四天王全員が集う『お茶会』の幕が上がった。


 だが、これはまだ序章に過ぎない。

 それぞれの思惑と、俺への執着が入り乱れる、カオスな日々の始まりだった。


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