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飛び蹴り女の恋物語  作者: 花奈よりこ
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飛び蹴り女、只今参上!


「ね、ね!次、ここ行こっ。ほら、見て見て、ここ教会がガラス張りですっごい綺麗なの!」


私は隣でのんびり缶コーヒーを飲んでいる谷崎の腕を引っ張った。



お互いの両親にそれぞれ挨拶をし、両家の顔合わせも無事終わり。


私達は3月30日に入籍し、めでたく結婚の運びとなった。


それから3ヶ月。


今私達は、結婚式向かって動き出していた。


入籍は私の誕生日。


だから、結婚式は谷崎の誕生日にしようと2人で決めてたんだ。


6月25日。


結果的に、女子の憧れジューンブライド。



で、私が今すっかり夢中になっているのが『ブライダルフェア』


これがまた、結婚式への夢がますます膨らむそれはそれは素敵なイベントなわけで。


もぉ、楽しくて楽しくて。


ちなみに私達。


結婚して夫婦になったわけなんだけど、一緒に暮らし出すのは結婚式が終わってからにしようってことで。


まだ今までどおりそれぞれの家で生活してるんだ。


なので、結婚式と2人の新生活とダブルで楽しみが待っている今。


もう、ワクワクが止まらない私なのだ。


今日は、日曜日の休日を使って朝からブライダルフェアのはしごをしてるところなの。


街中のいくつかのホテルや結婚式場を見学した私達は、賑やかな通りに面したベンチに座ってひと休み。


私はウキウキしながらブライダル情報誌でいろいろ調べてるんだけど。



「ちょっと。店長聞いてる?」


飲み終えた缶コーヒーの空き缶を灰皿代わりにして、ふぅーっと呑気にタバコを吸っている谷崎。


「おお、聞いてるぞー」


とか言いながら。


ボケーッと空なんか見上げながら、タバコの白い煙をふぅー。


ちょっと、ちょっと。


なんか……。


喜んで張り切ってブライダルフェア巡りをしている私と、上の空的なカンジでタバコを吸ってる谷崎。


明らかに温度差がある気がするんですけど……。


じろ……。


私は横目で谷崎を見た。


「店長……。もしかして、ホントは私と結婚したこと、後悔してる……?」


言いながら、うるうると目頭が熱くなる。


「ええ?」


ベンチの背もたれに頭をもたせかけてタバコの煙を吐いていた谷崎が、私の異変に気がついて体を起こしてこっちを向いた。


「……そんな風に、上の空でタバコとか吸って。

私の話も全然聞いてないし。……店長、ホントのこと言ってよ。今ならまだ間に合うから……。私と結婚式挙げたくないならそう言って。結婚だって……。今なら白紙に……ーーー。……う、うぇーーん」


なんだか悲しくなって涙がこぼれ。


私は思わず大声で泣き出してしまったんだ。


「お、おいっ。バカ、泣くなって!そんなことあるわけないだろーがっ」


「うぇーーーーーーーん」


大泣きする私。


そしてそれをオロオロなだめる谷崎。


そんな私達を見ながら、通りすがる人達がヒソヒソささやきながら歩いていく。


でもそんなの知ったこっちゃない。


私の涙は止まらない。


やっぱり谷崎は、私のことなんてそんなに愛してないんだぁーーー。


しょせん、これは幸せすぎる夢だったんだ……。


結婚式を目前にして、いつもより感情が高ぶっているてせいか、1人勝手な妄想でやや暴走していた私だったのだが……。


ガシッ。


そんな私の肩を、谷崎が突如しっかりつかんで自分の方にくるっと向かせたんだ。


そして。


「オレはっ。おまえが好きだっ。おまえを嫁にもらえて幸せだ!上の空なわけじゃない。いよいよ春姫と結婚式を挙げるんだなぁって。春姫の花嫁姿見れるんだなぁって。感動に浸ってたんだよ」


え・・・ーーーーーーーー。


涙も鼻水も止まって。


かぁぁぁ。


私の顔は真っ赤に熟したリンゴのように。


みるみる赤く染まっていった。


た、谷崎ってば。


こ、こんな人通りの中でいきなりなに言うんだよっ。


なんでそんな嬉しいこと言うんだよっ。



「ピュー。幸せバンザイ!」


通りかかった黒人の2人組の男の人が、流暢な日本語と指笛を鳴らしながら笑顔で去っていった。


「サンキュー」


すちゃっと手を上げ、笑顔で応える余裕な谷崎。


バクバクバク。


私の心臓は、ここを通る全ての人達に聞こえてしまうんじゃないかってくらい大音量で波打ってんのに。


ケロッと笑顔の谷崎。


結局いつも谷崎の方が1枚上手というか、なんというか……。


「……もおぉ!」


ドンッ。


「いでっ」


私は思わず思いっ切りどついて、またしても谷崎をベンチから突き落としてしまった。


「いてーよ、春姫っ。オレを殺す気か」


「なにさっ。店長がいけないんでしょっ。しらっとしてたと思ったら、今度はいきなりあんなこと言ったりするからっ」



なんだか、まるでコントのような私達。


せっかくドラマチックで感動的な雰囲気になりかけても、結局最後はコントのようなオチで。


やっぱり全然ロマンチックじゃない。


もぉぉーーー。


……って。


もしかして私が原因か?


あれ?ん?いや、でも……ん?


首をひねりながら眉をひそめて考えていると。


「でも。オレの愛を感じただろ?」


起き上がった谷崎が、ちょっとイタズラっぽく、でもすごく優しい笑顔で笑いかけてきた。


「ーーーうん」


ちょっとむぅっとしていた私だったけど。


ちろりと谷崎を見ながら、小さく……でも深くうなずく。


ホントはとんでもなく嬉しくて。


どうしようかと思ったんだから。


「それにしても……」


谷崎が言いかけて私を見る。


優しい眼差し。


ドキリと胸が鳴る。


「な、なに?」


「オレの嫁は怪力だな」


プツ。


「ちょっとっ!!」


「ジョーダンだ、ジョーダン。ホントだけど」


笑う谷崎。


「もぉぉー!」


やっぱりこうなるんだから。


だけど。


そんな谷崎の笑顔につられて、やっぱり笑ってしまうんだ。


谷崎といると、最高に楽しい私がここにいるんだ。



2人でひとしきり笑ったあと。


谷崎が穏やかな口調で言った。



「結婚式はよ、やっぱおまえが主役だから。春姫の好きなように、やりたいようにやっていいよ。おまえが喜んでくれればオレも嬉しいから。それに、男はどうもそっち方面はうとくてな。おまえに任せるよ」


「ホント?私が選んでいいのっ?決めていいのっ?」


「どうぞ。姫のお好きなように」


「嬉しい!あ、でも……。やっぱ店長とも一緒にあれこれ考えたいな……。だから、全部私が決めるんじゃなくて。私が、あっちかこっちか迷った時は、相談に乗ってね」


って言いながら。


結局最後は私が決めちゃうんだろうけど。


「わかったよ。いい結婚式にしような。2人で」


優しくほほ笑む谷崎。


「うんっ」


私も元気にうなずいた。


よーし!そうと決まれば、さっそくブライダルフェア巡り再開よ!


私は再びブライダル情報誌を開いて、結婚式場の欄を指さしながら谷崎に見せた。


「で、さっきも言ってたとこなんだけど……。ここ!ここの式場のブライダルフェアに行こう!ここね、教会はガラス張りだし、ドレスのミニファッションショーもやるのっ。えっと、えっと、何時からだっけな」


「13時からって書いてあるぞ。今何時だ?お、もうすぐ13時だ。ちょうどいいじゃん」


「ホント?じゃあ、もう行かなくちゃっ。行こう!店長っ」


「店長じゃなくて、『竜』って呼んだら行く」


えっ?


谷崎がにやっとすましながら腕を組んで空を見上げている。


「な、なに突然っ。そ、そんなのっ」


「突然ではない。オレは前から言っている」


目を閉じたまま大げさにうなずく谷崎。



えーーーっ。


いやいや、ちょっと待ってよ。


だって、ずっと店長って呼んできたし。


心の中でだってずっと谷崎って呼んでて……。


まだ竜なんて呼んだことないからっ……。


は、恥ずかしいし……。


で、でも……。


確かに、結婚したのにいまだに『店長』っていうのもなんだけど……。


ちろっと谷崎を見ると、すました顔でわざと耳に手をあて私が名前を呼ぶのを待っている。


「……わ、わかったよ!呼ぶっ。いい?ホントに呼んじゃうよっ。いくよ!」


谷崎がにやっとしながら黙って指でOKサイン。


私は、恥ずかしくて照れくさい気持ちをぐっとこらえ、ドキドキしながら小さな声で……。


「……りゅ、りゅう……」


谷崎の名前を口にした。


だけど。


「聞こえねーなぁ」


谷崎ってば、にやっとしながら再び自分の耳に手をあてる。


く、くぅぅーーー。


わ、わかったよっ!


私は大きく息を吸った。


そして、ドキドキする胸をおさえながらアイツの名前を呼ぼうとしたまさにその時。



「キャーーー!!ど、ど、ろぼーーーっ」



そんな叫び声が、向こうの方から聞こえてきたんだ。


泥棒っ?


パッと顔を合わせる。


もちろん、私の心は決まっている。


「行こう!」


「でも、おまえ。これから行きたがってた式場のブライダルフェア、始まるぞ?」


「なに言ってんの?ブライダルフェアと犯人確保とどっちが大切??そんなの決まってるでしょ。今は泥棒をとっ捕まえて被害に遭った人を助けなきゃ!犯人は放っておいたら逃げるけど、ブライダルフェアは逃げないっ。またいつでも行ける!」


私が力強く言うと、谷崎がにーっと笑った。


「それでこそ、オレが惚れた『谷崎春姫』だ」



〝谷崎春姫〟ーーーーーーーーーー。



いい響きじゃん。


なんかパワーアップした気分だ。


そうよ!


私はこれでこそ私。


悪いヤツらは見過ごせない。


困ってる人には手助けを。


必殺技は得意の飛び蹴り!!


やまとなでしことはほど遠いけど。



これが、私ーーーーー。



他の誰でもない、私。


そして、こんなありのままの私を、このままの私を好きでいてくれる、私の大好きな彼。



谷崎竜ーーーーー。



今から、この最強タッグで乗り込むよ!



「ーーー行くよ!竜!!」


「ーーーおうっ!」



谷崎が満面の笑顔で私を見た。


不思議だ。


下の名前を呼んだ途端、一気に絆が強くなった感覚が溢れ出す。


愛しさが溢れ出す。


今の私は無敵だ。


ブライダルフェア、ちょっと待っててね!


泥棒、待ってろよ!!


これから私の華麗なる飛び蹴りをお見舞いしてやるからな!


覚悟しとけよっ。



「おりゃぁぁーーーーーーっ」



谷崎春姫、只今参上!!










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