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飛び蹴り女の恋物語  作者: 花奈よりこ
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『今』の私達。


「ギャーーーーーーーッ」


ガシャガシャ!


ドタン!



私は脚立から足を踏み外してすっ転び、見事に床に尻もちをついた。


私の叫び声と激しい物音を聞きつけて、奥の物置から谷崎が慌てて飛び出してきた。


「おいっ。なんだ?大丈夫かっ?」


「いたい……」


半分泣きながらお尻をさすっている私を見た谷崎が、ぶっと吹き出した。


「ちょっと。なに笑ってんの?人が転んで痛がってんのにっ。もうっ」


と言いながらも、大笑いしている谷崎を見て思わず私も笑ってしまった。





12月ーーーー。


粉雪がチラチラ舞っている。


気がつけば季節は秋から冬へと変わり、街はすっかりクリスマスムード一色。


もうすぐ今年も終わりかー。


なんか、ホントいろんなことがあったな。


いっぺんに。


今は、そんな風にちょっと前までのことを振り返れる私がいる。


谷崎を好きになってから、ずっと楓さんのことで悩んで落ち込んでいた私だったけど。


今は、私の目の前で楽しそうに笑ってる谷崎を見ているだけで、それだけですごく嬉しくなるんだ。


そして、そんな谷崎の目の前で嬉しくて楽しくて心から笑っている私がいる。


それでいい。


これが、今の私達なんだーーーーって。


素直にそう思えるようになったんだ。




谷崎のお父さんの術後の経過も順調らしい。


あの日、倒れて病院に入院したお父さんが、私のことを『楓さん』と何度も呼んだこと。


後日お見舞いに行った私に、お母さんがそのことについて優しく話してくれたんだ。


『あの時主人は、思い出と現実がゴチャゴチャになって、春姫さんを『楓さん』と呼んでしまったみたいだけど。今は、しょっちゅう春姫さんのことを話すのよ。あなたのことがとっても好きみたい』って。


それと、谷崎が私に対してウソをついたことも、こう話してくれたんだ。


『自分の好きな人、大切な人に対してウソをついたり、隠し事をしたりするのはよくないことだわ。

だけど、許してあげて。あれは、あの子が春姫さんに心配かけたくないと思ってしたことだと思うの。あなたを不安にさせたくなかったんだと思うの。元々竜は真っ直ぐで素直な優しい子だからーーー。だから、あの子を信じてあげて』って。



私は、嬉しかった。


心配して親身に話してくれるお母さんの気持ちも、谷崎の気持ちも。


そして、今なら私もちゃんとわかるんだ。


谷崎が私に心配かけまいとして、ああいう風に言ったんだって。


決して楓さんへの想いを悟られたくなかったからではない。


忘れられない人だからではない。


そんな理由で隠そうとしたわけじゃない。


純粋に、私を不安にさせたくなかったんだ。


自分が抱えてきた大きな悲しみを、あえて私に見せないように、感じないようにしてくれていたんだ。


それは谷崎の優しさでもあったんだ。


生と死。


それは、言葉だけでは埋められないとても大きな出来事だから。


今なら素直にそう思えるんだ。



今年のクリスマスは、谷崎と2人で迎える初めてのクリスマス。


仕事に追われる忙しい谷崎は、私と一緒にゆっくり過ごせる時間もあまりない状態で、いまだにデートらしきものはしていない。


でも、クリスマスの日は必ずデートしようって約束してるんだ。


今からすごく楽しみ。


だけど……。


ひとつだけ、いまだに気がかりなことがある。


それは、蘭太郎のことだーーー。


蘭太郎とはあれ以来もうずっと連絡を取っていない。


まだあの女とつき合ってるんだろうか。


元気にやってるんだろうか………。



そんなことを考えながら。


私は再び脚立に上がり、店内のクリスマスツリーの飾

り付けをしていく。


「店長ー。ちゃんと持っててよー?」


私は脚立を支えている谷崎に声をかける。


「おー。持ってる持ってる」


「って、思いっ切り手ェ離してるじゃん!ギャー!落ちる落ちるっ」


「あ、こらっ。バカ、騒ぐなって!危ねー!」


ギャースカ、ギャースカ。


相変わらず騒がしい私達。


だけど。


私はこんな毎日が、とても楽しくて愛おしい。


今週の日曜日、私は谷崎へのクリスマスプレゼントを買いに行く予定だ。


クリスマスツリーにキラキラの飾りをつけながら、どんなプレゼントにしようかと考えてワクワクする私。


ところが、その日曜日。


思いもよらぬ……というか、例のごとくというか。


私は、久々にちょっとした事件に関わってしまうことになり。


更にはそこである意外な人物と遭遇することになる。


そんなこととはつゆ知らず。




冬晴れの日曜日の午後ーーー。


私は元気に街へと出かけて行ったんだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






キラキラ、ピカピカ。


街路樹、お店のショーウィンドウ。


街は、いたるところがクリスマスのネオンで綺麗に彩られている。


あちこちから流れてくるクリスマスソング。



いいね、いいね。


この雰囲気大好き。


私はウキウキしながら大通りを歩く。


行き交う人々もなんだか楽しげに見える。


谷崎のプレゼント、なにがいいかな。


やっぱり服?それとも帽子?手袋?


いや、ここは王道でマフラー?


うーーーむ。


考え込みながら歩いていたその時だった。




「うぉらっ。どこ見て歩いてやがんだよ。ばばあ!」



巻き舌のドスの効いた怒鳴り声が、前方から聞こえてきたんだ。


なんだ?


私は小走りで駆け寄った。


すると。


高校生くらいのガラの悪そうな2人組の男が、自分よりもはるかに小さいお年寄りのおばあさん相手に因縁をつけてやがったんだ。


おばあさんを見ると、可哀想にブルブル震えながら曲がった腰の体で必死にペコペコ頭を下げて謝っている。


そして、おばあさんの足元には、きっと今さっき買ってきたばかりだと思われる品物が、くたりと落ちてる買い物袋から出て数点散らばっていた。



あんの野郎。


頭くるくるパーだな。


荷物をたくさん持った体の弱いおばあさん相手に、なにしてくれてんだよ。


ブチ。


私の中で何かが切れた。


私は、遠巻きに通り過ぎていく人達をかき分け、あのムカつく2人組の男の目の前に立ちはだかったんだ。



「おいっ。あんたら、か弱いおばあさん相手になにダサいことやってんだよ。早く荷物拾って、とっととおばあさんに謝りなっ!」


私がタンカを切ると、周りがザワザワとどよめき出した。


「あん?なんだてめー」


男が上から私を睨みつけながら、ずいずいと歩み寄ってくる。


「あんたら。自分より弱いおばあさんいびって楽しいわけ?みっともないことするなよっ」


おばあさんが、ワナワナしながら私の後ろに隠れる。


「おめぇ、誰だよ。ちょっとカワイイからってイキがってんじゃねーぞ、こら。あん?」


ぐいっ。


男の1人が、私の襟首をつかんだ。


ザワザワーーーー。


いつの間にかできている人だかり。


ちっ。


ドイツもコイツも、ただの野次馬かよ。


私のイラ立ちが更にフツフツと込み上げてくる。



「ーーー聞こえないの?早く荷物拾いな」



私がギッと睨みつけると、襟首をつかんでいた男が更にぐぐっと強くつかんできた。


「てめぇ、なめるのもいい加減にしろよ」


今にも殴りかかってきそうな勢い。


最悪だな。


ふん、くるならきやがれっ。


悪いけどね、こっちだってそれなりに強いんだよ。


空手三段、剣道二段にプロレス技少々。


女だからって、なめんなよっ!


ポキ、ポキ。


私がこっそり指を鳴らしながら、男を睨みつけていたその時だった。



「お、おまわりさんっ!こっちですっ!」



そんな声が、どこからともなく遠くの方から聞こえてきたんだ。


「?」


辺りを見回すと、野次馬をかき分けながら誰かがおまわりさんの腕を引っ張ってこっちに向かってくるではないか。


誰だ?


そして私は、必死になってこっちに走ってくるその人物を見てぶったまげたんだ。




げっ!!


マ、マザコン男ぉーーーーーー⁉︎








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