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その次の四回戦は、三回戦とは対照的に二○分を超える激闘の末の決着となった。勝った方が準決勝に進出するという大事な試合にふさわしい内容だったと、後になって考えればそう思える。
結論から言えば、この四回戦は創たちの惜敗だった。対戦相手となったのは、実力派ぞろいと言われている隣町の有名な班だった。彼らは個の力も強く、班員同士の連携もよく取れていた。
そんな強敵を相手に、創たちも必死に策を巡らせて対応したが、徐々に押し切られ、やがて敗北を喫した。
隣町まで噂の届く実力者を相手に、良く善戦をしたと労われたところで結果は変わらない。その時点で修也と涼子の最後の大会が終わりを告げた。
着替えを終えて、帰り支度を済ませると、競技場の入り口へ向かった。準備に時間のかかる女子二人を、男子三人で待つ。その半端な待ち時間に、誰一人口を開くことをしない。
そうやってただじっと立って待っていると、やがて支度を終えた優花と涼子の二人がやってきた。
「おまたせ」
「じゃあ、帰ろうか」
修也のその声で、創たちは歩き始める。その足取りはひどく慎重で緩やかだ。ここでもまた、誰も口を開くことをしない。
誰もが皆、修也の言葉を待っていた。いつだって、何かを始めるのは修也だった。この班は、そういう班なのだ。
少しの間歩いて、その時はようやく訪れた。
不意に、修也が口を開く。
「終わっちゃったね」
その声は、言葉が持つ意味とは裏腹に、とても穏やかな響きを持っていた。終わりなんて、本当はまだ訪れていなくって、まだこの後も試合が控えていると言われても信じてしまいそうだ。
「うん、そうだね。けどなんでかな、まだ全然実感がわかないや」
優花もまた、落ち着いた声で言葉を返した。
「俺も優花に同意だな。間違いなく俺たちの大会は終わったんだろうけど、不思議なほどに落ち着いてる」
創は思ったままを口にする。その言葉に続いたのは涼子だ。
「たぶんちょうどいい順位だったんじゃない?去年は二回戦敗退だったのに、そこから二つも進めたわけだし。出来過ぎっていう順位でもないし、納得のいく順位だったんだよ。きっと」
「満足なんてするかよ。優勝以外じゃあ、納得なんてできるわけもない」
竜司が強い口調で反論をした。この班の中で、いつだって竜司は勝負事には強いこだわりを持っていた。けれど、今回の大会で結果を求めた理由は、負けず嫌いなその性格だけではないはずだ。修也のことを慕っていた竜司にとって、今回の大会は大きな意味を持っていたはずだった。
その修也が、なだめるような口調で言う。
「そうだね。満足なんてしていいわけがない。だけどあれだけの数の班がある中で一六番以内なんだ。そこは誇っていいと思うよ」
さすがの修也の言葉でもすぐには認められないのか、しばらく葛藤するようなそぶりを見せた後、やがて言った。
「そうだな。けど、来年はもっと上に行く。たとえ、修也や涼子がいなくたってな」
それは、覚悟を決めるための宣言にも聞こえた。
いけるだろうか。修也もいなくなって、涼子もいなくなって、新しく入ってくる名前も知らないメンバーと今のこの三人で。思ったが、そんな言葉は二人に聞かせられるわけもない。胸の中に押しとどめて黙る。
「うん、私も頑張るから。だから、もしも大丈夫そうなら二人も応援に来てね」
「ああ、もちろんだよ。大人の暮らしがどんなものかは分からないけど、もしも許されるなら、絶対に応援に行くから」
修也のその言葉に優花は微笑んだ。
なんだってこんな話題になってしまったのだろう。いかにもな終わりの雰囲気に、胸の奥がざわめくのを鎮めることはできなかった。
明日には修也は誕生日を迎えて大人になる。大会が終わって、いよいよその事実が迫ってきているように感じた。
創はこの班の最古参のため、この四人以外のかつてのメンバーを知らない。それでも、今とはまるで違い、班員同士が干渉することもない冷めた班だったと言うことは、知識として知っている。
今のこの班の雰囲気を作り上げた本人である修也がいなくなれば、再びこの班も大きく変わるだろう。修也が抜けた隙間に新しいメンバーが入り、涼子が抜けた隙間を埋めるように、また新しいメンバーが来る。きっと、そんな事を繰り返して行くのだろう。
この班は、この生活は変わって行く。もはやそれは、予感を通り越して確信へと変わっていた。
変わらないものなんてないと、そんな言葉が胸の奥にこびりついた。
ゆっくりと歩く。なるべく歩幅を小さくして、少しでも長くこの五人でいられるように。この帰り道は一生忘れられないものになると、そんな確信があった。この景色を、この感覚を胸に焼き付けようと目を凝らし続けた。
けれど、どれだけ緩やかに歩いても、前に進んでいる限り終わりは来る。やがて、五人がそれぞれの家に向かうための、分かれ道に差し掛かる。そこで、自然と立ち止まる。
「これは僕のわがままなんだけどさ、今夜僕の家まで見送りに来てくれないかい?」
修也が言った。
「もちろん」とか「当たり前だ」とか「最初からそのつもり」だとか、修也の言葉を受けて、誰もがそんなことを口々にする。一斉に言われて、修也は苦笑した。
「ありがとう。みんなならきっとそう言ってくれると思ってたけど、実際にそう言ってもらえて安心したよ」
「当たり前でしょ?あんたが作った班は、そんな薄情なやつの集まりじゃないよ」
修也がこの班にきたばかりの時は、最後の時の見送りすらなかったと言っていた。
じゃあ、みんなはいったん家に帰って、二三時半ごろに僕の家の前で集合でいいかな?」
「ああ、大丈夫だよ」
創が答えると、他の三人もうなずいて見せた。
「それじゃあ、また後で」
五人はそれぞれの家へと向かい、散り散りになった。今の時刻はおよそ一八時。五時間ほどの、しばしの別れとなった。




