3-5
創たちの班が喜でいるその時、別の会場では周吾たちの班もまた三回戦への進出を決めていた。敗れていった対戦相手に向けて、周吾は吐き捨てる。
「けっ、ずいぶんつまんねえ相手だったな。俺らが相手じゃあ勝てないと思ったからって、あからさまに手を抜きやがって」
「だな。もう少しは楽しませて欲しいもんだって話だよ。これじゃあ、まるで潰し甲斐がない」
「まあそう言うなよ。無駄に足掻いて負けるより、潔く負けることを選んだんだろ。それに、次の相手はあいつらだ、次こそはきっと楽しい試合になるさ」
田児の言葉に、同じ班員の一人である赤西が答える。赤西の頭には、もうすでに次の戦いのことしかないのだろう。その顔には笑みが浮かべられていた。
「そうだな、いつまでも負けた連中のことを気にしてもしょうがねえ。あいつらに赤っ恥かかせてやるのが俺らの目的なんだ。肝心のあいつらが落ちてねえか、早いこと見に行こうぜ」
周吾はそう言って歩き出す。彼らの二回戦は、この試合が始まるより少し前から始まっていたはずだ。今頃は受付の建物にあるトーナメント表に、結果が張り出されている頃だろう。
あの日、田児があいつらの一人に負けて撤退を余儀なくされた時以来、復讐をする機会をずっと待っていた。
もう一度あいつらの陣地を攻めて、そこを奪い取るのは簡単だ。あいつらの隙をついて、のしてやるのはもっと簡単だ。けれど、それではつまらない。自分たちがかかされた恥に対して、まるで釣り合わない。やるのなら最高の舞台で、最高の復讐をしよう。そればかりをずっと考えていた。
この大会を復讐の舞台にしようと決めたのは、今から一ヶ月ほど前のこと。まだ班の中でも、今すぐにでも復讐に向かうべきだという意見が残っていた頃だ。偵察のつもりで、一人であいつらの陣地に行った時があった。その時に目にした光景こそが、今回の大会を復讐の舞台とすることを決定づけた。
あと一ヶ月だから。あと一ヶ月で、修也にとって最後の大会が来るからと、そう言って懸命に練習を続ける彼らの姿があった。そんな彼らの想いを砕くことが出来たのなら、それは最高の復習になる。それを確信し、周吾は復讐の舞台にこの大会を選ぶことを決めた。
だからこそ、楽しみでたまらない。一年に一度のこの大舞台で、憎きあいつらに赤っ恥をかかせてやれる。
少し歩いて、受付の建物まで着くと、嬉々としてその中へ入る。そして、真っ先に向かうのは、受付横に貼られた巨大なトーナメント表。
あいつらの名前を探し出し、そこから引かれた赤線をたどる。それは確かに、三回戦の高さまで届いてた。
思わず、口角が釣り上がった。
「へえ」
「やったな、周吾。ようやくこの時がきたな」
隣で誰かが言った。
「あいつらのことは嫌いだけど、反面、感謝しないとかもな。あいつらのおかげで、今年の大会は楽しくなりそうだ」
それは思わず口を出た言葉だった。けれど、本当にその通りだと、自分の言葉に肯定をする。いよいよあいつらに復讐をする機会がやってきた。まるで一つのイベントのようだと思いつつも、あながちそれも間違いではないのかもしれないとも思う。この昂りは、当たり前の生活の中では、決して得られることのないものだ。
「どうしたんだよ周吾。トーナメント表なんて見てニヤニヤして」
呼ぶ声がして振り向くと、後ろには同じ学校に通う高坂が立っていた。その後ろには、同じ班のメンバーであろう四人の子供が立っている。その誰もが同じ学校に通う見知った顔だった。よく話をする仲ではないが、何度か話をした記憶はある。
「いや、ちょっとな。次の試合の相手見てみろよ」
そう言ってトーナメント表を指差す。高坂はしばらくそれを目で追った後、やがて周吾の次の対戦相手を見つけたのか、「ああ」と声を漏らす。
「次の対戦相手って、あいつらかよ」
「ああ。実はあいつらとは少なからず因縁があってね。だから、あいつらと当たれるのが嬉しくってな」
「へえ」
「あいつらって明らかにおかしいだろ?何考えてるかわからない異端の集まりのくせに、一度だけ俺らのことをコケにしてくれたことがあったんだよ。だから、あいつらは俺らが粛清してやらなきゃいけないわけ」
あの日の屈辱を思い出しながら周吾は口にする。彼らとの因縁は少しでも多くの人に知っておいて欲しかった。そうすれば、彼らの敗北の演出も、より際立つだろう。
「ふうん。まあ頑張ってよ。あいつらが変な連中だっていうのには俺らも同意だし」
高坂が言うと、後ろの四人もうなずいてその言葉に同意した。その反応を見て、自分たちのやろうとしていることが正しいことなのだと確信した。何も私怨のためだけじゃない。あいつらのような異端には、お灸を据えなければいけない。これは、大義のための戦いとしての意味も持っているのだ。
「そうだ、俺らの試合の時、学校のやつらをできるだけ客席に呼んでくれよ。もう帰った奴らもいるかもだけど、あいつらの無様に負ける様を見せてやりたいんだ」
きっと、この学校中の誰もが彼らの敗北を望んでいる。異端には、罰があるべきだ。
「見かけたら誘っておくよ」
それだけ話すと、高坂たちは奥の方へと消えていった。そういえば、高坂の班はまだ生き残っているのだろうか。そう思いトーナメント表を見てみるが、あまりの名前の多さに辟易し、すぐに探すのをやめた。
受付から飲み物を受け取り、近くの椅子に座りながらそれを飲む。トーナメント表に、次々と試合結果が書き込まれるのを横目に見ながら、時間が来るのを待つ。初めは次の試合までの間隔が長かったが、ここまでくるとそう長く待つ必要もない。
あいつらとの因縁の試合。第三回戦の中では序盤に組み込まれていたこともあり、それはすぐにやってきた。
持っていたコップをゴミ箱の中に投げ込んで、立ち上がる。
「さて、そろそろ行くとしますか」
周吾のその声に、四人は「おう」と声をあげて立ち上がった。三回戦の会場となる、メインのスタジアムまで歩き出す。
たどり着くと、係の大人が入場口へと案内をした。入場口から、フィールドを見る。目の前に広がる戦場を見て、また気分が昂ぶるのを自覚する。フィールドでは何人もの大人が障害物のオブジェや地面の整備を行なっていた。
「ちっ、遅えなあ」
タラタラと働くその姿に、思わず不満が漏れる。今すぐにでもこのフィールドへ飛び出したい衝動を抑えながら、整備を続ける大人たちの姿を睨む。
やがて準備ができたのか、整備を行なっていた大人たちが一斉に引き上げる。そして、一人の大人がこちらへ駆けつけた。
「お待たせいたしました。ご入場をお願いします」
待ちに待った時が、ついにやってきた。
これから始まる爽快な復讐ショーを思い描きながら、ショーの舞台となフィールドへ向かって、一歩を踏み出した。
◆
入場口で創たちはフィールドを見つめていた。これから戦うのは因縁の相手。きっかけは単なる彼らの気まぐれだった。暇つぶしのためだけに喧嘩をふっかけられて、それを辛くも撃退した創たちが逆恨みされた形だ。彼らはどうやら、この大会を復讐の舞台と決めているらしい。くだらないきっかけから始まったこの対立も、この戦いで決着がつく。
「いよいよだな」
闘志に燃えた目をフィールドの方へ向けながら竜司が言う。「ああ」と答えて、創はうなずく。言いながらも、心は不思議と落ち着いていた。つい昨日まであった彼らに対する執着心は消え、長く続く戦いのうちの一つに過ぎないと、そう思えた。
隣で小さく息を吐く音が聞こえる。優花だった。
「大丈夫か?緊張してる?」
「ううん、大丈夫。なんだかね、不思議と落ち着いてるの。だから、私は大丈夫だよ」
そう言って、優花は強い瞳を創へ向けた。この目なら、きっと大丈夫だ。
その時、係の大人が慌てて駆けつけて告げた。
「お待たせいたしました。ご入場をお願いします」
その言葉を受けて、創たちはフィールドへ向かって行進をする。向かいでは、同じようにして周吾たちもフィールドの中へと向かって行進をしている。彼らと視線がぶつかり合うのを感じた。
やがて、フィールドの中央までたどり着くと、そこで立ち止まる。そこからは、彼らの方へと視線が向かないように意識した。
自然と五人が輪になると、修也がいつもの穏やかな口調で掛け声をかけた。
「それじゃあ、いつも通りに頑張ろう」
思い思いの言葉でそれに応えると、それぞれの持ち場へと散っていった。
いよいよ、彼らとの二回目の戦いが始まる。




