↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/46

育成期間0年7ヵ月3週間

誰もが寝静まった頃。

魔道機技術が生み出した空翔る船。

魔道飛翔船が一隻、静寂に包まれた夜空を奔る。


今夜の月光は弱く、魔道飛翔船に至っては少しの明かりも外に漏らしていない。

となれば、その巨体は闇に溶け込み、誰の目にも映るはずは無かった。


しかし、今その船は闇に隠されていた全貌を曝け出している。

予期せぬ灯りが、船体を照らしているためだ。


そして不運なことに、その灯りは唯の光では無く、全てを焼き尽くす炎だった。


炎は火属性への耐性強化を施した船体を易々と燃え上がらせていく。

船上では悲鳴と怒声が飛び交い、船員達は混乱の渦中だ。


場の混乱は治まらない。それどころか、悪化の一途を辿る。

原因は炎ではない。混乱を引き起こしている元凶がそこにはいた。


元凶は、遠方の地で人間の身勝手な理由によって捕らわれ、船の積み荷となった。

強者としてこの世に生を受けたそれにとって、

弱者による束縛など到底耐えられるものではなく、

日を追う毎に憎しみを募らせていく。


憎悪は徐々に体を侵食し、全身が燃え滾る憎悪に染まった瞬間。


存在変異エンティティー・シフトが起こった。


変貌する姿形。圧倒的な力。

その力を押さえ付けておくには、檻と鎖では荷が重すぎた。

尋常ならぬ膂力を使い、力任せに振り抜いた腕は鎖を引き千切り、

勢いそのままに檻を切り裂く。


檻を出ると同時に体中からは炎が溢れ出し、周囲の物を瞬く間に燃え上がらせる。

その灯りによって浮かび上がった顔は、憎悪による存在変異の代償の現れであった。


火の手は一気に広がり、船員達の知るところとなる。

だが、船員が異常に気付いた時には、全てが手遅れだった。

自由を手にし、それが次に行った事は自分を閉じ込めた存在への復讐。


狂乱は一晩続き、事が済んだ時、船を照らしていたのは朝日だった。



-------------------------------------------------------------


今日は朝から金策のため、再びカナマラの冒険者ギルド支部を訪れた。

前回のような危険なクエストは懲り懲りなので、

今回は多少賃金が低くても安全第一で行くことにする。

・・・まあ、どの道コッコの傷が完治していないので、無理はできないんだが。


さっそくクエストの受注するため、受付嬢に話し掛けようとしたところ。



『兄ちゃん。もし、決まったクエストが無いんなら俺等のクエスト受けてくんねえか?』



振り返ると、そこにはやたらと体格のいい男が一人立っていた。

厚手の固定具付きジャケットに、腰にはカットラスとハーケンワイヤー。

額にはゴーグルを装備している。


男は自分がグロール商会の所有する魔道飛翔船「エンタール号」の乗組員であること。

至急まとまった数の人手が必要なので片っ端から勧誘中だということを俺に告げた。

男が提示したクエストの内容は、着陸した魔道飛翔船の警備と船内の貨物の荷下ろし。


支払われる金額は中々魅力的だ。

内容も俺にできる範囲だったこともあり、二つ返事で引き受けた。

ギルドから正式に承認を受けたクエストらしいのでおそらく大丈夫だろう。


・・・安全第一?金のためなら多少の危険は冒さないとな。


勧誘はあの男以外にも何人か来ていたため、大した時間も掛からずに頭数は揃った。

中には半ば強引にクエストを受注させられた連中もいたが、俺には何ら関係の無いことだ。

気にしないようにしておく。


魔道飛翔船は、カナマラから程近い魔道飛翔船発着場に

投錨しているらしく、徒歩にて目的地へ向かう。

場所は以前、魔石を(勝手に)頂戴した死体を発見した場所からそう遠くない。


・・・・そういえば生まれて此の方、

魔道飛翔船を見たことは1度も無い。本で得た知識だけだ。

なんでも馬鹿でかい帆船風の形状で、風の魔石を使った魔道機によって風に乗り、

空を自由自在に飛び回れるそうな。


翼の無い巨大な人工物が飛ぶ姿を拝めるいい機会と、内心わくわくしていたんだが、

魔道飛翔船発着場に着くと同時にそのわくわくは鳴りを潜めてしまった。


というのも、肝心の船がな・・・・。

船体は半分以上が燃え尽き、マストは途中から圧し折れている。

ここまで辿り着く直前で着陸、いや墜落したんだろう。

船底はその衝撃に耐えきれず無残に砕け、

発着場まで臓腑を撒き散らすかのごとく船内の貨物をばら撒いていた。


投錨とはよく言ったもんだ。擱座の間違いじゃないのか?

これでは空を飛ぶ瞬間を見ることなどできそうにない。少し、残念だな。


船に到着後、俺を含む日雇い達に必要な説明を行った後、

俺を誘った船員はハーケンワイヤーを構え、船体上部に向け撃ち出す。

先端が撃ち込まれると同時にワイヤーが巻き上げられ、男は器用に船体を登っていった。


ハーケンワイヤーは先端が魔術処理された特殊な金属を打ち込み、

取り付けられたワイヤーを巻き取りながら壁面を登る昇降機だ。


魔術が絡む品は総じて値が張る。

あの船員を含め、見える範囲の全員がハーケンワイヤーを装備しているのは、

さすが国内でも1~2位を争うグロール商会といったところか。


俺は非戦闘員なので貨物の荷下ろしを行うことにした。

船員からは、魔道飛翔船発着場の一画にテントを設営し、

船内から引っ張り出してきた収納ボックス(大)に

品分けしながら詰め込んでいけとのお達しだ。


さっそく搬入口から貨物室へ入り、中の貨物を運び出していく。

貨物はばらばらに飛び散り、おまけに炎に巻かれて焦げ付いていたため

判別は難しくなっている。


現に、アイテムの仕分けに四苦八苦している奴がちらほらいるみたいだ。

・・・・「鑑定」のスキルがある俺には大した問題じゃないけどな。


しかしこの船。

運んでいたものが、少々物騒だったんじゃないか?


ずらりと並んだ巨大な檻の数々。

中の入っていたものは全て死んでしまっているが、

どいつもこいつも上級クラスの魔物・・・もしくは魔獣だ。


これだけの数を1度に運ぶなんて、危険な気がするんだが。


それに、この檻・・・・。


まさか、中の奴を逃がしたりしていないだろうな・・・・?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。