育成期間0年2ヵ月3週間
昼下り。ヴィングル従魔士育成学校から少し離れた平原。
野を駆ける白球は、確実に獲物との距離を縮めている。
白球から逃れようとする獲物。
徐々に埋まる獲物との空間。
そして、獲物を捕らえようと突き出された黄色い嘴は。
・・・獲物を捕らえること無く空を突いた。
そのまま勢い余って豪快に転び、転がる白球。
言うまでも無く、俺の魔獣コッコである。
情けないな・・・・。
ため息交じりに、斧の素振りを再開する。
手に持つ斧は、蒼髪の少女に選んでもらった物だ。
実際の所、「適性判断」のスキルがうまく発動していたのかは分からないが、
あれも何かの縁ということでとりあえず買ってみた。
今は、手に馴染ませるために練習の最中だ。
コッコはというと、いつの間にか取得していた能力「疾走」を使いこなすために、
その辺をうろつく蜥蜴相手に目下、奮闘中である。
能力「疾走」は、発動と同時に発動者の体力値と引き換えに俊敏性を飛躍的に高める。
その際、発動者自身の俊敏性は加味されない。
発動者へ、本来持ち得ない加速を与える能力。
使いこなせれば、俊敏性において他の魔獣に大きく劣るコッコには、
切り札足り得る手札ではある。
だが、自身に過ぎた力は持て余してしまうのが世の常なのだ。
今のコッコを見れば一目瞭然。
能力が与える速さについていけていない。
能力を発動するために消費される体力値の減少に体が持たない。
能力の持ち味を生かし切れていない。
当たり前と言えば当たり前である。
魔物としてのコッコは「疾走」の能力をその身に宿すことなど無いのだから。
これが魔獣故の利点であり、欠点でもある。
生前では覚えることのない能力を貪欲に修得する。
それが、自分にとって得手不得手など関係ない。
修得した能力が強力なものであれば万々歳だろうが、
万一にも常時発動型の悪性能力だった日には・・・。
考えたくもない。一度覚えた能力は基本的に消えることは無い。
ただでさえ、素の能力が低いコッコが悪性能力を覚えでもしたら絶望的である。
いや、今のままでも充分絶望的なのに変わりないが・・・・。
遠くを見遣るとまた野を転がるコッコが見える。
全身は土に塗れ、白から茶色に変色している。
せめて、今日は蜥蜴一匹ぐらい、捕らえてもらいたいものだ。




