第一話:ピンクの泡と内なる絶叫
【作者より】
この作品は二つの視点で語られます。
「著者の原稿」パート——これは意図的に素朴な文体で書かれた、十四歳の少女が書く物語です。
「現実確認」パート——これが本当の主人公、転生した漫画家の視点です。
最初のパートが「下手」に見えても、それは意図的です。そのまま読み進めてください。
【作者の原稿】
むかしむかし、魔法に満ちたラブラブハーツ王国という、美しい国がありました……。
クリスタル宮殿の彼方から、きらめく桃色の光のシャワーを浴びて、太陽が昇りました。それは単なる夜明けではありませんでした——ひとつの「主張」だったのです。まるで、どこからともなく優美なBGMが流れ、秋であるにもかかわらず、不思議な桜の花びらがひらひらと舞い散るような、そんな朝でした。
姫サクラ・アリアはバルコニーに立ち、そよ風が吹き抜けるたび、その髪色をパステルローズから希望に満ちたピーチへと変化させていました。その瞳は——まるで陽光を浴びてきらめくタピオカパールのようで——切なげに城門を見つめていました。
「ああ……」
彼女はため息をつき、髪に飾られた魔法のリボンに指を這わせました。それはなんと、三百万ゴールドもの大金を投じ、月光しか食べないという伝説の蚕によって織り上げられた、極上の逸品だったのです。
「ハルト卿、今日こそこれに気づいてくださるかしら……」
眼下を、気高き駿馬にまたがった美しき騎士が通り過ぎていきました。それは一本の水晶の角を持ち、その蹄は、まるで夜勤のスタッフが徹夜でデコったかのように、石畳の上でピカピカと輝く白馬でした。
ハルト卿はバルコニーを見上げました。その顎のラインは、ガラスをも切り裂きそうなほどシャープでした。彼の瞳には、千通りの語られぬ感情が宿っていました(あるいは、一通りの感情が千回繰り返されているだけかもしれませんが、それを判別するのは困難でした)。
一瞬、世界が息を呑みました。
姫の心臓は、キラキラなドラムみたいにドキドキと高鳴りました。
時間そのものが——
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【現実確認】
——止まれ。
待て。
待て、待て、待て。
なんだこれ!?
俺は今、この神に見放されたバルコニーの真下に直立不動で立っている。身にまとっている鎧は、スプレーでシルバーに塗っただけの段ボール製のような安っぽい感触だ。そして俺は、すべての人間にこれだけは理解してもらいたい。
こんなの、どう考えても正常じゃない。
俺の名前は——未だに咀嚼しきれない宇宙規模の悪ふざけによれば——「トビー」というらしい。
ただの、トビーだ。
苗字はない。設定もない。俺は、この世界において植木鉢と同程度の物語的重力しか持たずに存在している。
俺が死んだのは三日前だ。
……いや、三分前だったか? 死んでから、最も理不尽な形で突然に「生還」させられると、時間の感覚がバグるらしい。
俺の本名は嶋崎新。二十二歳だった。ゴールデンペン賞の新人賞を二年連続で受賞したプロの漫画家だ。俺のダークファンタジー作品『アッシュ・スローン』は、月刊青年誌『アビス』で連載され、ちょうど単行本五巻が出たところだった。俺が四年間かけて積み上げてきた物語は、完結まであと三話のところまで迫っていたのだ。
あと、三話、だった。
だが、その最後の一歩を踏み出す前に、俺はマンガ・ハブのデジタルストアで最新のレビューをチェックするという、致命的なミスを犯してしまった。ほとんどはいつもの絶賛だったが、一つのレビューが、最上部で俺を嘲笑うかのように居座っていた。
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ユーザー:Sakura_Dreams_14
評価:⭐⭐☆☆☆☆☆☆☆☆
「評判の意味がわかりません。画力は技術的に高いと思いますが、プロットが……底意地が悪いというか?
暗い上に、全員が悲惨です。キラキラはどこですか?光はどこですか?
物語というのは読者を幸せにするためのものでしょう。読むと頭痛くなったので2点です。」
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俺はそのコメントを一時間も見つめていた。「光はどこですか?」だと? 俺はプロだ! 賞だって獲った! 父親からは「お前なんか何者にもなれない」と言われ続け、俺はこれまでのキャリアすべてを懸けて、構造的に最も完成された、最も硬派なダークファンタジーを創り上げることで、奴が間違っていることを証明するために生涯を捧げてきた。それなのに、どこかのガキが、ただ「キラキラ」が足りないというだけの理由で俺のすべてを否定したのだ。
物語に「光」などなくとも傑作は創れるのだと——見返してやりたい一心で、俺はペンを握り、死の瞬間を迎えた。俺は、ドラゴンの翼の肩関節の構造がどうしても気に入らず、このまま妥協するわけにはいかないと、液タブの上でペンを走らせながら机の上で息絶えたのだ。胸が締め付けられ、視界が回り、画面が暗転した。
そして、目が覚めたらここだった。
鎧を着て、自分のもののような、しかし他人のサイズぴったりの服を着せられているような、奇妙に不快な肉体の中で。
死んだ後のことなら、いろいろと想像していた。閻魔大王の裁きを受けるとか。あるいは虫に転生するとか。あるいは、いつか読もうと溜め込んでいた本をすべて読める、無限の図書館に行けるとか。
だが実際に用意されていたのは、これまでに遭遇した中で最悪の、あまりにも拙劣なファンタジー小説の特等席だった。
俺はバルコニーを見上げた。彼女を。
姫サクラ・アリア。この……これを物語と呼んでいいのかは躊躇するが、その主人公だ。
彼女の髪は、今しがたハトが羽ばたいた音に驚いたという理由だけで、ピンクから青へと変色した。
リボンに、三百万ゴールド。
この国の経済は文字通り崩壊している。昨夜、俺は三人の領民が夕食に一個の石ころを分け合っているのを見た。どうやらこのシーンには「食料」というアセットは用意されていなかったらしい。
ハルト卿が乗っているユニコーンは、三歩ごとに石畳にめり込んでいる。右の後ろ脚の一本にいたっては、バグったゲームのレンダリングのように細かく振動し続けている。
「大惨事だな」と俺はこめかみを押さえながら呟いた。
周囲の世界は、あまりにも……薄かった。まるで、中身が空っぽのハリボテの上に、一枚の塗料を塗りたくっただけのようだ。俺には、この物語の構造が、それ自身の論理性の欠如によって歪み、今にも崩壊しかけているのが肌で感じられた。
新人アシスタントが持ってきた初稿を読んだときと同じ感覚。脳裏で本能が叫ぶのだ——「ここを修正しろ」と。
ただ、今の俺にとって、その本能だけが、俺をこの世界に繋ぎ止める唯一の錨だった。
骨の髄まで理解できる。この物語が拙劣な記述によって自己崩壊すれば、俺も一緒に消えてなくなる。
世界は薄い。それは分かった。だが、その根底にある前提には、奇妙な、どこか馴染みのある痛みがあった。まだ理解できてはいない。だが、深夜三時にペンを走らせていたあの頃と、同じ感情の周波数が、この世界から漏れ出しているような気がした。
「……そうか」と俺は、ハルト卿の白馬が何の理由もなく突然ムーンウォークで逆行し始めるのを眺めながら呟いた。「つまり俺は死んで、自分の未完の作品への未練に引っ張られた結果……これに辿り着いたわけか」
これほどまでに未熟で、必死で、死の淵を越えてまで助けを求めていた物語。さくらの夢14がレビューでほざいていた「キラキラ」だけで構築された世界だ。
「ツイてるな、俺は」
そのとき、空がひび割れた。
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【最初の危機】
最初は音ではなかった。感覚だった。
気圧が急激に十気圧ほど下がったかのように、耳の奥がツンとした。夜明けの光が、調光器をいじられたかのように怪しく点滅する。
物語の紡ぎ糸——俺が今や肌で感知できるようになった不可視の構造が、ピンと張り詰め、そしてほつれ始めた。
見上げると、現実が焦げたフィルムのようにめくれ上がっていた。
そして、今まさに何が書き足されようとしているのかが、俺の頭の中に流れ込んできた。目で見ているのではない。深夜の三時に、ドラゴンの関節の描き直しに執念を燃やしていたあの編集本能が、頭の中に文字を投影してくるのだ。
脳裏に浮かんだのは、原稿の余白に走り書きされたような、幼い筆跡の文章だった。
それから、一番最悪で最も最低な大っきくて怖いドラゴンが、姫のりぼんを羨ましがって誘拐しにやってきた!!!
ドラゴンは史上最凶に悪いやつで、体育の授業の後の体操服みたいな(ハルトのロッカーにあるやつみたいな笑)臭い火を吐いた。
俺は目を閉じ、深く息を吸い、整理してから目を開けた。文字は、まだそこにあり、現実へと焼き付き続けていた。
「……ない」
俺は静かに言った。
「……ない、ない、絶対に——」
空が裂け、重苦しい質量がその裂け目から無理やり這い出してきた。鱗は構造を持たず、ただ形の定まらない肉塊にテクスチャとして貼り付けられただけのようだ。翼は、俺が自分の漫画のために何年も研究した空気力学の基本原則をことごとく無視した、あり得ない角度で接合されている。
怪物が顎を開いたが、咆哮は聞こえなかった。ただ、壊れたスピーカーから流れる破損した音声ファイルのような、不快なノイズだけが響き渡る。
そして、臭いが鼻を突いた。硫黄ではない。煙でもない。体操服だ。汗と泥にまみれて数日間放置された、あの不快極まりない体操服の臭い。
ドラゴン——いや、この肉塊をそう呼べるならだが——スクールバスほどの巨体だった。
色は、自然界に存在してはいけない毒々しい紫緑色。
見ているだけで吐き気がする。
目は異様に大きく、コミカルなカートゥーンキャラクターのように左右逆方向にぐるぐると回転していた。
これはモンスターではない。
初稿だ。
そして、この初稿は、ここにいる全員を殺す気だ。
俺自身の存在が明滅するのを感じた。
物語の論理が、このドラゴンを拒絶している。
物語が内容を拒絶するとき、その中にいるすべてが道連れになる。
俺も、例外ではない。
俺の鎧が、実体と透過の間で激しくまたたく。世界が、俺という存在を、印刷直前の原稿から消しゴムで消し去ろうとしている。
「ふざけるな」
俺は低く唸った。
手は本能的に動き、宙へと伸びていた。考えるまでもなかった。俺は知っていたのだ。どのコマを描き直すべきか、どのセリフが長すぎるか、どの背景の描き込みが構図のバランスを崩しているのか、その答えを。俺の人生を定義してきた、あの編集者としての本能を。
それはまだ、ここにある。俺の中に。
そしてこの世界において、その本能は物理的な質量を持っていた。
俺の指の間に、半透明の赤ペンが実体化した。
しっくりきた。馴染み深い。俺の意志の延長線が形を成したかのように。
ドラゴンが咆哮した——正確には、リバーブをかけたおならクッションのような音がした。口からよだれが滴り落ち、地面に触れる前にキラキラとしたエフェクトとなって消滅する。
兵士たちが悲鳴を上げ、民衆が逃げ惑い、ハルト卿のユニコーン馬はショックで気絶した。
考えている時間はなかった。
俺は赤ペンを握りしめ、宙に一筋の線を引いた。ペン先から、鮮烈な真紅の光が軌跡を描く。
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【編集発動】
システム的な通知などではなかった。
ゲームのメカニクスでもなかった。
記憶だった。
俺がこれまでの人生で描いてきた、あらゆるドラゴンの記憶。解剖学的なスケッチ。参考写真の数々。「まあまあマシ」では決して満足できず、翼の筋肉の付き方や鱗の重なりを完璧にするために徹夜を重ねた、あの執念の夜の記憶。
四年間磨き上げてきた技術のすべてが、その一閃に凝縮される。
赤ペンの光がドラゴンに触れた瞬間、現実が書き換えられた。
ボタンをクリックしたような感覚ではない。生み出す感覚だ。下書きの線の歪みを、正しい一本の線でなぞり直すときのような感覚。
ドラゴンの歪んだ背骨が、骨のきしむ音を立てて真っ直ぐに矯正される。翼の薄膜が、正しい関節構造に従ってピンと張り詰める。不快な紫緑色は洗い流され、まるで水面に浮いた油のように怪しく光を反射する、漆黒の黒曜石の鱗へと変貌を遂げた。
ぐるぐると回転していた目は、知性と凶暴性を宿した、燃えるような琥珀色の鋭い眼光へと焦点を結んだ。
体操服の臭いは、一瞬で消え去った。
代わりに満ちたのは、より恐ろしい香りだった。オゾンと硫黄、そして超高温に熱せられた空気が放つ、焦げ付くような金属臭。
本物の熱波が周囲へと押し寄せ、ドラゴンの足元の石畳にピキピキと亀裂を走らせる。
冗談は終わりだ。
これは、本物の脅威だ。
ドラゴンが息を吸い込んだ。溶鉱炉が空気を吸い込むような、深く、冷徹な金属音が響く。
その顎から、激しい炎が放たれた。漫画のようなキラキラした火花ではない。本物の、白熱するプラズマの奔流が朝の空をオレンジ色に染め上げ、兵士たちは盾を放り出して遮蔽物へと飛び込んだ。
遥か彼方、この世界の天井の向こうから、戸惑うような少女の声がかすかに響き渡った。
「えっ……なんでドラゴンが急にこんなにかっこよくなってるの?」
間。
「あっ! 私、もしかして表現力がアップしたのかも! 描写がどんどん上手くなってる!」
俺は、その声が聞こえてきた虚空を冷ややかに見上げた。
作者、だ。
どこか別の世界に存在する十四歳の少女が、数学の授業中にノートへとこの物語を書き綴っている。自分の生煮えのアイデアが、ここでは確固たる現実として結実しているとは、露ほども気づかずに。
「お前が上手くなったわけじゃない」
俺は赤ペンを握りしめたまま、声を殺して呟いた。
「俺がお前の失敗作を修正したんだ」
だが、俺の手は震えていた。
一つ、極めて重要なルールを理解してしまったからだ。
俺はこの物語を編集できる。より良くすることはできる。だが、より良くすることが、生存を容易にすることを意味するとは限らない。
ドラゴンの首が、ゆっくりと俺の方を向いた。
その目は、もはやアニメ的なギャグではない。捕食者の冷徹さを宿した琥珀色の眼光が、まっすぐに俺を射抜いた。
奴は、理解している。
敵としてではない。自分に形を、知性を、正しい解剖学的構造を与え、この世に本物として産み落とした存在として。
俺がうっかり永続的なインクを入れ、完璧な生態系を完成させてしまった、本物の、最強の捕食者。
ドラゴンは頭を低く下げ、濡れた鼻腔をひくつかせながら、大気の匂いを嗅いだ。
探しているのだ。俺を。
「……そうか」と俺は呟いた。黒曜石の鱗の下で、強靭な筋肉がしなやかに収縮するのを凝視しながら。「修正はできる。世界を良くすることもできる。だが——」
ドラゴンの影が、俺を覆うように通り過ぎた。
「——良くなった世界で、俺が生き残れるとは限らないわけだ」
手の中の赤ペンが、脈打つように熱を帯びる。さらなる修正を求めて、飢えたように疼いている。だが、それと同時に、俺は別の感覚に襲われていた。
疲労だ。
修羅場の修羅場で徹夜を重ねたときのような、泥のように重い疲労。
編集は、俺の何かを削り取った。HPや魔力じゃない。もっと根源的な何かだ。
月刊連載を四年間、肉体をすり減らして維持してきた、あの創造のエネルギー。
たった一匹のドラゴンを修正しただけで、一日の容量の三分の一を消費した。
そして、俺の一日は、まだ始まったばかりだった。
ドラゴンが広場の中心に着地し、石畳を粉砕した。
頭を下げ、執拗に匂いを嗅ぎながら、こちらへ近づいてくる。
俺は噴水の影からそっと様子を窺った。琥珀色の瞳が、広場をスキャンしている。ランダムな威嚇じゃない。戦術的な索敵だ。
俺が正しい知能を書き込んでしまったから。
「完璧な世界なんて求めてない」
俺は黒曜石の鱗の下で躍動する筋肉を見つめながら、声を殺して呟いた。
「俺はただ、この物語が、それ自身の拙さに殺されるのを防ぎたいだけだ」
ドラゴンの顔が、俺の隠れている方向へと一瞬で固定された。
目が合った。
俺——死んだ漫画家。モブ兵士の段ボール鎧を着せられた、な。
奴——俺の手によって生物学的に完璧な殺戮兵器へとアップグレードされた、恨みがましき絶対王者。
俺は噴水の影から踏み出した。
ドラゴンの唇が引き、きっちりと並んだ牙が剥き出しになった。一本一本が、最大限のダメージを与えるべく設計されている。
俺自身の編集が、俺を睨み返していた。
「殺される前に、これを修正できるか——試してみるか」
俺は赤ペンを剣のように掲げた。
ドラゴンが吠えた。今度は本物の、骨の髄まで響き渡る、鼓膜を引き裂くような恐るべき咆哮。その音波が、俺の胸郭を激しく震わせる。
俺は走った。
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【同時刻、別の世界で】
十四歳の日村さくらは、数学の授業の一番後ろの席で、教科書の下にノートを隠し、猛然とペンを走らせていた。
ドラゴンのシーンの執筆は、最高にノっていた。退屈な展開になるんじゃないかと心配していたけれど、どういうわけか、素晴らしい描写が次から次へとあふれ出てくる。黒曜石の鱗、知性的な瞳、戦術的な索敵行動。そんな難しい表現を使った覚えはなかったけれど、ノートにはしっかりと自分の筆跡で書き込まれている。
「ふーん」
彼女は首を傾げ、書き直した箇所を読み返した。
やっぱり、私って才能あるかも。書けば書くほど上手くなってる。
そして彼女は、次のシーンの執筆に取りかかった。お姫様がバルコニーから、自分を守るために必死で戦う謎の衛兵の姿を健気に、かつ勇敢に見守るという、超お気に入りのシチュエーションだ。まだそのキャラクターの名前は決めていなかった。ただ、ノートにこう書き添えた。
——【名前はあとで考える、お姫様を守る勇敢な衛兵】
異世界において、嶋崎新は自分の輪郭がわずかに、しかし確実に強固になるのを感じた。一時的なものではあったが、物語上の役割が与えられたのだ。
お姫様を守る勇敢な衛兵として。
大した設定ではない。だが、消滅を免れるには十分だった。
俺は、ハルト卿が乗り捨てた荷馬車の影に滑り込み、さっきまで自分が立っていた場所をオレンジ色の超高温の業火が焼き尽くすのを眺めた。
「意地でも編集しきって、生き延びてやる。さもなきゃ死ぬだけだ」
俺は熱風に喘ぎながら、赤ペンをぎゅっと握りしめた。
俺は一瞬、動きを止めた。
「……二回目、だけどな」
【第一話 終】
まあ。
もう少しうまくやれたかもしれない。
編集要約:
【編集発動:語彙強化——適用済み】
【編集発動:構造調整(竜体解剖学)——適用済み】
ボスの難易度を自ら上げてしまった。
編集容量残量:約60%
作者認知度:ゼロ
生存確率:低下中
次からは、倒し方を思いついてから解剖学を修正してみてはどうだ?
ただの独り言だが。
——編集本能
(別名:完璧を求めて死んだ、お前自身の一部)




