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「来て」
岐阜さんを見ること無く部屋を出る。
私と岐阜さんの間に言葉は無い。そんな関係性では無いから。
私はいっそ、タチの悪い家政婦だと思う事にした。
1階へ降りてリビングを素通りして浴室へ向かう。
何を考えたか目を丸くしている岐阜さんにあえて何も言わない。
何かしらリアクションをすれば多少場が和むかも知れないけど、そんなことはしてやらない。
する意味も無い。
「風呂、洗って」
「……分かった」
ガッカリするように了承した岐阜さんの何を考えていたか分かるのが嫌だ。
そんなことする訳ない。
仮に誰だとするのだとしても、絶対にコイツとは有り得ないから。
「そこのバスブーツ履いて。スポンジはそこ」
説明はそれだけ。丁寧にとかここまではやってとかは一切言わない。
背中を押して浴室に放り込んでサッサと扉を閉めて浴室に閉じ込める。
何か言う前に私はその場を後にしてリビングに来た。
落ち着かない。
何時だったか、本当に何時だったか。
幼い頃の記憶の父親に憧れて珈琲を飲んでみたことがあった。
美味しくなかったけど、今も何故か珈琲に縋り付くように飲んでいる。
冷蔵庫の缶コーヒーを取り出してプルタブを開けてひと口煽る。
「苦い」




