第6話 柔軟・ストレッチする話 1
ボクがそんな変な事を思っている間に、八木先生は手をパンパンと打って、
「じゃ、恒例の一式ストレッチするわね。これは本来、入門とかテディクラスの子の為のプログラムでジュニア・ユースクラスの人は事前に各自ウォームアップしてもらっているのだけど、折角だから一緒にやりましょう」
八木先生は、そう言いながら、ぐるっと皆の顔を覗き込むように見る。
ああ、何人かは露骨に嫌そうな顔している。
今更って思っているのか、苦手って思っているのか。
「でも、やっていて痛いと思ったり苦手なものあったら、今後はそれを重点的に自分のプログラムに入れてね。それと、レッスンない日も絶対に毎日・各自でストレッチは欠かさない様に。柔軟̪しない日あったら、どんどん身体は固くなりますからね」
ああなんか、耳が痛いなぁ。
ここは日曜教室だから、人によってはこの日しかしない子だっているかも。
ボクも一応毎日の習慣はあるけど、すっかり忘れている日もあるからなぁ。
さて、全員が先生の前で、キチンと4列になって運動できるくらいに間を取って並んでいく。特に学年別とかではないが、仲良し同志は並んでいる様な感じか?。横とおしゃべりしているし。
「それじゃみんな、床に座って」
その合図と共に、みんなペタンと床に座り込んだ。
ボクも皆に遅れながらも、床に座った。
向こうの方にヘルプかな?、真ん中の先生と同様に、Tシャツの大学生くらいの若いお姉さんが補助で見回ってくれている。
分からなくなったら聞きたいな、と思うけどちょっと遠いなと思っていたら、ボクのすぐ横にさっきの中学生のお姉さんが来てくれた。
でも、そのお姉さんも生徒だから今、練習じゃなかったっけ?
「あれ? ちょっと」
「へへ、今日はヘルプが少ないから志願しちゃった」
「そういうのアリなの?」
「どうせ中学卒業したら、ここへはヘルプで来るつもりだから、ちょっとフライング。でも今回ヘルプするのは柔軟とバーレッスンだけで、センターレッスンはちゃんと受けるよ」
ベテランだからそういうのアリなのかな?。
「だからヘルプ代と相殺して、今日のチケットは無しで良いって」
「あーなるほど」
ベテランだと、そういうのアリなんだ。
今、習う柔軟体操なんかも、お手のものなんだろうし。
中央で、八木先生がパンパンと手を叩いた。
「じゃ、始めましょう。って、もう始めちゃっている人もいますね。みんな、いっしょに、足を前に揃えて」
先生が手本で、身体をL字にして座って、腕は少し後ろについて支え、足を揃えて前に伸ばした。他の人は、その指示待たずに始めている。でもボクは初めてだから、先生とか他の子の動きを見て真似る。座って、足を伸ばす。
「まずはそのまま、つま先を前に伸ばーす。戻ーす。伸ばーす。戻ーす。」
足首からつま先だけの運動。足の筋肉がほぐれていく。
耳元からお姉さんからのアドバイス。
「つま先はピンと伸ばす。足の指も。広げたり、折り曲げちゃ駄目よ」
あ、力んでいたせいか足先が変に曲がっている。ピンと伸ばす。こうかな? 隣の子の足先を見ながら真似てみた。
「次は、左足のつま先を左手で持って」
そう言いながら一旦左足を曲げて左手で先の方を掴む。
「でもって膝を伸ばしながら、もち上げ―る」
えと、膝を伸ばす! あ、ちょっと痛い。何か背筋も引っ張られる。
「アキレス腱もストレッチね」
そう八木先生は言いながら膝をちょっと曲げたり伸ばしたり。
言われた通りやってみると、足首からつま先まで筋が良い感じで伸びる。
これ、体操のストレッチでも良いかも。
「じゃ、反対。右ぃーっ」
持つ手と足を入れ替える。やる事は一緒。
ついでに肩から背筋も何か伸びそう。気持ちが良い。
「次行くよ~。手を放して~」
そして八木先生、次の動作へ。座って元のL字へ。そこから両腕を横から上に上げていく。
「手は横から上、アンオーね」
えと、L字になったまま腕を水平にしてからの、アンオー?
「アンオーは腕のポジション。真上にピン! じゃなくて、卵みたいに丸く曲げて」
お姉さんが、後ろから手を取ってサポートしてくれる。
「えと、こうかな?」
腕を上げて、大きく丸を作る様にする。
「手のひら同士を内側に向けて、背筋を伸ばして」
あ、身体がL字だから、ちょっと不安定。腹筋に力入る。
「はい、そのまま前の方に、ペタンと倒ーす!」
号令と共に皆、前屈する。腹筋が楽になった。
「膝は曲げないよー。前屈は無理しなくていいから」
みんなの行動を真似て、前にペタンと倒してみる。
あ、膝を伸ばした途端に身体が全然前に行かない子もいる。腕だけ必死に伸ばしている。
膝は曲げない様にだよね。ボクはとりあえず大丈夫だけど……あ、この時もつま先はピンと伸ばした方が格好いいね。みんなやっている。出来ない子もいる。まぁちょっと厳しいよね。
そう思って倒したままでいたら、ふと後ろの方から視線が。
あれ、お姉さんが背中を押そうとする体勢のまま固まっている。
「あら、意外と柔らかいのね。」
「ひょっとして、背中をギュっと押そうと思っていました?」
「だって初めてって聞いたからね」
バレエは初めてだけど、こういう柔軟運動は初めてじゃない。
なんかお姉さん、その反応が不満っぽい表情見せる。
「じゃもう一回行くよ。よーこ、うーえ、前にペタン」
腕を真横に伸ばして、上にアンオーにして、前へ、と。
「横に伸ばすのは、アラスゴンドっていうの。まっすぐ横ね」
柔軟の方はアドバイス不要だが、不安な腕の動きを補助してくれるのは嬉しい。
「そこから、まっすぐ上に持っていきながら、アンオーにね。そこから前屈!」
号令に合わせて前に倒す。
「はい、そのまま10秒。いーち、にーい……」
八木先生が号令、折りたたんだまま、しばらく我慢。
「うーん、やっぱり、柔らかいのね」
お姉さんが、腕を組んで観ている。
こっちは大丈夫と思ってか、隣の膝が曲がっている子を注意しに行った。
「次、足の裏合わせて~」
同じ座った状態から胡坐をかくように膝を曲げて、足の裏を合わせた。
「膝は、出来るだけ開いて床につけられたら」
八木先生は、綺麗に両方の膝が床にペタンとついて、両足が綺麗に開いている。
同じように、足を合わせて開いて、両手でつま先を掴む。
「そこから、また前にぺたーん!」
上体をまた前に曲げる。
頭を足に近づけようとすれば、自然と膝が床から離れてしまう。
開く、開く。でもって身体は前へ。
見ると、さっきのお姉さんが、出来ていない子に手取り足取りして、背中を前に抑え込もうとしている。
ああ、アレをボクにやりたかったんだな。
「開脚~。そのまま足を横に開いて」
次のプログラムになった。
八木先生の手本通り、またみんなの真似をして、両足を左右に開く。
「数字の1になる様にー」
まっすぐ伸ばす。180度!
さすがに180度は出来ない子が多い。120度位だったり、膝が曲がっていたり。
でもボクも、膝は曲げない様に注意と、つま先はピンと伸ばして、180度に。
「そのまま右に倒―す。はい、今度は左に倒―す」
あ、そこからさらに柔軟なんだ。しかも横?
みんなと一緒に右に、左に。
反対側の手は前について身体を支え、伸ばす方の手はつま先の方へ。
見ていたら、普通に柔軟運動の筈なのに、とても優雅な動きをする子がいる。身体を横に倒す時、まるで柳の様に手と身体が波を打つようにしなる。柔軟体操なのにバレエの動きなんだね。まだ小さい子なのに、やっぱ経験は長いのかな?
「はい。フラフラしなーい」
体勢が厳しいのか、フラフラとブレる子が多い。
やっぱりバレエって優雅に見えて、結構キツい。
「今度は、そのまま前にペターンと」
開脚して、前に倒れる。足は左右一直線に伸ばしたまま。
これは、よくする。
「膝は曲げないよ。はいそのまま10秒、いーち、にーい……」
手は、前に伸ばすのか。ピンと伸ばして。
「次はそのまま、足を後ろに。カエルさんをしようか?」
後ろに足を伸ばして、そこで足のうら同士を合わせる。
「ダイヤモンドよ。ダイヤモンドを作って」
ダイヤって、トランプのダイヤね。
脚をくの字に曲げて、綺麗な菱形を作る。曲がらない様に、床にくっつける。
態勢はキツイけど、演目がカエルさんって……。




