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第5話 みんなに自己紹介する話

「それじゃ、今日も元気にレッスンを始めましょう。今日から始める子もいるんですが……あ、いたわね」

 先生と目が合った。


「じゃ、磯崎《いそざき》さん、前に来て」

 呼ばれた。仕方ない。先生の横に並ぶ。


「まず、私から自己紹介しますね。講師の八木《やぎ》です。普段は由良木バレエ教室の本部にいますが、日曜教室のメイン担当です」

 そう言いながら、お辞儀をした。両腕を広げ、片足を後ろに下げ、腰と頭を下げる。とてもエレガントだ。バレエのお辞儀なのだろう。


「それと」

 そう言いながら八木先生は、全員の方を振り返った。


「今日、体験で来ました磯崎さんです。じゃ、ちょっと挨拶して」

 あ、やっぱ自己紹介しないといけないんだ。

 一番前から、その一団をぐるっと見渡す。全員から見られている。


 一瞬、ギクッと身体がこわばるのが分かった。

 ちょっと前に、体操教室で総スカン食らった時の事。誰もボクの事を庇ってくれなかった。嫌な目で見られていた。

 でも、いい。辞めて清々《せいせい》しているから。


 あれ? 見渡した中にさっきのお姉ちゃんがいた。ニコっと笑って手を振ってくれた。

 すっと落ち着いてみると、そこにいる人の目は、体操教室の人達のそれではない。

 戸惑っている感じの子もいるけど、大半は暖かい目だ。暖かな笑顔を向けてくれて……ボクは歓迎されている?


 すっと息を飲んだ。落ち着いてきた。

 俯《うつむ》いた顔を上げる。


「い、磯崎アユミです。今度中学生になります。バレエは初めてです。よろしくお願いします!」

 そう言って、大きくお辞儀をした。


 とたんに大きな拍手が沸き起こった。

「よろしく~」「よろしくねぇ」「よろしくするのだ!」

 あちこちから、まばらに声も聞こえた。


 良かった。やっぱりボクは歓迎されている。

 騙されて此処に来たけど、何かこれだけでも今日来てよかったと思った。


「さて、本当はここで各クラスに分かれてレッスンするんだけど、せっかくだから今日はまず全員で、柔軟をしましょう」


 そう言われて「よし!」とガッツポーズ取る子、「え~っ」って不満そうな顔を見せる子。

 得意、不得意あるのかな?


 後ろを見ると、ママはもう他の保護者達に交じっておしゃべりしている。

 ふと、そっちを向いたのが分かったのか、大きくこっちに向かって手を振った。


「ふん!」

 気付かないふりして、先生の方を向いた。


 とりあえず体験コース、さっさと終わらそう。

 皆のやる事を見ながら、それぞれ間をとって、先生の方を向いた。    


 改めて全体を見る。教室の子達は下は幼稚園の年少さん位から、上は中学生って言っていたっけ。格好もボクみたいにレオタードもいれば、そうでない子もいる。でも年齢が高いから上手という訳ではないんだろうな。だってボクはこの中で、かなり年齢は上の方だと思うけど、初めてなんだし。小さいのに、ピシっと綺麗に立ってクルクル回っている子もいる。あの子も白タイツに緑のレオタード着ていて、足に履いているのはトウシューズ? バレエシューズ? ちょっと分からない。この集団の中でレオタードを着ている子は、ほぼ半数以上ってところかな。


 そういえば、さっきここは月謝でなくチケット制って言っていたっけ。月謝じゃないから必ず毎回来るって訳じゃないって事かな。でもまぁ多分は体操着の子よりはレオタードの子の方が上手いのかも。


 えと、女の子ばっかりじゃなくて、いる男の子は幼稚園ぐらいで、タイツは履いているけどベルト吊っての短パンだ。でも小学生以上の男の子はいなさそう。

 多分その男の子も単独ではなく、そのお姉ちゃんとかと一緒に来ているパターンとかかな?。

 偏見だけど、バレエやっている男子って、それだけで揶揄《からか》われそう。


 それにアレだな、バレエの男子って……。

 この教室の入り口にも飾ってあった公演のポスター。白鳥の湖だったか、その王子様は上半身は凄く綺麗な衣装だが、下半身はズボンでなくピッチリの白タイツで、お尻のラインもくっきり出て、股間はこんもりしている。

 あれは……何か……嫌っ。


「あれ? 磯崎さん。どうしたの? 顔を赤くして」

「え゛‘!?」


 さっきのお姉さんに話しかけられた。


「え、いや。あの……」

 まさかバレエ男子のお尻の形や股間のこんもりを想像して顔を赤くしていたなんか言えない!


「分からない事あったら、何でも聞いてね」

 そう言って、少し後ろに下がった。


 え……誤魔化せたのかな?

 そんな事考えていた何か、絶対知られたくない。

 顔をブンブン振って、気持ちを切り替えた。

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