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ツンのときもデレのときも永遠に愛することを誓いますか? 13/19 2日目、20時から21時にかけての30分間(転)




「ミユは、愛するより愛されるほうがいいんだ。相手から愛されて、それに報いる――そういうほうがいい。あの子は誰かを支えようとしているときが、一番シャキッとしてるからな。」


「そう、だから、ミユにとっても実幸くんにとっても、離れているのが一番いい。今日もなにか言われたかもしれないけど、実幸くんはなにも気にしなくていいの。……婚約破棄がトラウマになったとか男性不信になったから責任とってとか言われたかもしれないけど、一切、気にしなくていいから。実幸くんはなんにも悪くない。そもそもミユが、それからミユをとめられなかったわたしたちが悪いんだから。だから、逃げて。」


 今日のミユの言動についてアヤは何か杞憂しているようだがそれを探るのは一旦おいておくにして、……やはり夕濵夫妻は完全に勘違いしている。

 実幸を“いい子”のままだと思い込んでいる。

 これは大変都合がいい。


 実幸は眉間に深く皺を入れ、大きく何度も首を横に振った。


「そんなこと……、言わないでほしい。だってここで逃げたら、もう二人とも会えないってことでしょ? そんなの寂しいよ。俺は二人のこと親だって思ってる。二人はどう? 俺たちはたしかに家族だったよね?」


 彼の悲嘆の表情は、憐れみを誘うには充分だった。

 そして健気に微笑む。


「久しぶりに会ってさ、二人の感じすごく懐かしくて、だから嬉しい。それに、いままでここから離れてたのをすごく後悔した。……ごめんこれは、また甘えたいって言ってるのと変わらないね。」


 これは紛れもない本心だ。


「しかし、……実幸その…、離婚したんだろ? いま独り身で、(うち)との付き合いを続けるとなると、ミユに狙われるんじゃないか。」


(離婚も知ってたか、……話が早くていい。)


「ミユとは、……まぁいろいろあったけど、でも久しぶりに会って話してみて、すごく大人になってるって思ったよ。二人の子供だもんね、当然か。もちろん俺も大人になったし、ミユとはちゃんと対等に話せたよ。昔のことも謝ってくれた。」


 罪滅ぼしにコスプレさせてパンチラを強要したが、結局は同意したんだから対等だ、というのは実幸個人の見解であって一般論ではない。


「……それでその、……正直好印象です。」


 実幸は頬をぽっと染めて、勢い余って言ってしまっている。


「でも実幸、……よく考えたほうが良い。いまはいいかもしれないが、ミユは、……愛せば愛すほど狂うぞ。たとえば夫婦になったあと尻にでも敷かれてみろ。それでおまえ、幸せか?」


 実幸は元来、頭よりも舌の回転が速い。

 話し下手のくせに話し好きで、軽率なほどの正直者である。

 もちろん彼も大人になって多少はわきまえるようになったが、残念ながらいまは夕濵夫妻の前だ。“大人”の仮面などはがれてしまった。

 そしてその内側の、ただの“いい子”ではなくなった自分を隠すのも忘れて、ますます口を滑らせていく。


「俺ね、結婚とか恋愛とかって向いてないのかなって思ってたんですよ。親父がああだから、俺もそういうの無理なのかなって。世間のまねごとで恋愛してるだけなんじゃないかって。でも久しぶりにミユと話してみて、なんていうか、……自分らしくいられるって気がした。弱くいられる、というか。弱くいたいってわけじゃないけど、でもほんとは弱いってことが、ミユにはバレてて、認めてくれて、見ない振りしないし、はっきり言ってくれる。治すなりフォローするなり許すなりしてくれるって、そんな感じがしていて。」


 考えるまでもなく言葉が出ている。


「こういう感覚って俺は初めてなんだけど、頼りたいというか、……そういう関係っていいなって、ずっと一緒にいてもらえたら助かるって、思って。じゃあたぶんそれって、結婚っていう形じゃないかと思って。俺はやっぱり結婚とか恋愛には向いてないのかもしれないけど、けど、ミユと一緒にいるのには向いてるんじゃないか、とか……。」


 自分でも脈絡を失いはじめているのはわかるが、ちゃんと聴いてくれると信頼しているから、実幸は続ける。


「俺は俺のために結婚したいと思ってる。幸せになるために。それにミユを付き合わせようとしてる。」


 実幸は話すのに集中して伏していた視線を持ち上げて、夕濵夫妻に定めた。


「それから、二人も。ミユがまた酷くなったら、今度こそ二人がとめてよ。そうしてくれるって信じてる。俺は二人を、完璧じゃなくても、親としてすごく好き。大人としてすごく好きです。だからそばにいてほしい。」


 目が潤む。口元には笑みが浮かぶ。


「会えなくて寂しかったよ。ここに帰ってくる理由が見つかってよかった。」


「実幸……なに言ってんだ、ミユと結婚しなくたって、実幸も、下の子たちもみんな、俺たちは家族だ。」


 これは時の流れや、当然の成り行きや、必要/不必要ごときの理由で途切れてしまうような、細い縁ではなかったのだ。

 ミユと実幸のために、親心のために、彼らはやむなく離れたのだ。

 その理由を知れてよかった。


 実幸の頬に涙が流れて、たちまちノブがもらい泣きする。


「ごめんなさい。俺鈍感で、……ごめん。許してくれるならなんでもします。」


 感極まって口走っている実幸である。


「ミユを一生幸せにしろ。」


 ノブが逡巡なく言った。


「もしまたミユがおまえに酷いことをするようなら、俺たちが必ず止める。俺たちが守る。……でも、ミユにも、守ってくれる人が必要なんだ。実幸には酷いことをしたこともあった。でもあの子は本当は、自分の身を挺して人を助けてしまうような子なんだ。だからミユと一緒にいるつもりなら、ミユを守ってほしい。あの子が人のために頑張りすぎないように、守ってやってほしい。それから孫は二人はほしい。最初は女の子で、つぎが男の子でよろしく。」


「はい!」


 実幸は逡巡なく返答した。




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