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ツンのときもデレのときも永遠に愛することを誓いますか? 12/19 2日目、20時から21時にかけての30分間(承)




 ミユは気高い女だ。

 たとえ罪悪感を引き合いにしても、好きでもない男にパンツを見せるような女では決してない。

 実幸に見せたというのは、つまりそういうことだ。

 いまでも心変わりはない。


「だから、おまえは逃げたほうがいい。」


 ノブが嘆息気味に言う。


「昔から実幸のことになると、ミユはどうにかなっちゃうからな。」


 ノブの言葉を実幸が理解し切れていないのを察して、アヤが言う。


「普段は本当にいい子なのよ。だけど、実幸くんが相手だと、なんていうか……パニックになってたでしょ。好きすぎるせいで。」


 アヤは、小さな頃のミユを頭に思い浮かべながら話している。


「だから小学生のときなんか手が出てた。好きっていう気持ちをどうしていいかわからなくなってたみたい。その頃の子供って体がどんどん変わっていって、性っていうのを意識しはじめるでしょ? だから、ミユも実幸くんにどう接していいのか混乱して、……あんな感じに……。」


 婚約の段階では、ミユはまだ素直だった。

 好きという気持ちに下心がなかった。

 しかしいくつか歳を重ねると、実幸のそばにいるとぽっと熱を上げてしまったり、実幸のことを考えるだけでぼーっとしてしまったり、心が不安定になってしまうようになって、実幸に対する種類の“好き”が怖くなったのだ。

 実幸が自分を変にするから、こんがらがった自己防衛でとっさに、手が出た。


「本当は親がやめさせないといけないことだったのに……。だから叱ってはいたんだけど、でも完全には無理だった。完璧な親にはなれなかった。ごめんなさい。」


「本当に済まなかった。」


 二人に頭を下げられて実幸はたじろぐ。


「実幸くん、高校三年生のときほかの女の子と付き合ったでしょ。わたしたちそれを知って最初はどうしてって気持ちもあったけど、でも結局それが一番よかったんじゃないかって、そう思うの。ミユから自力で逃げてくれたから。」


 アヤは辛そうに言葉を続ける。


「もしあのまま実幸くんがミユと結婚してたら、きっと二人とも幸せにはなれなかったと思う。実幸くんが自分で自分の幸せのために頑張れて本当によかった。それにミユも変われた。成長してくれた。だからミユを傷つけてくれて、ありがとう。」


 実幸は口元を手で覆い、やや俯いて考える。


 夕濵夫妻と自分とでは、どうやら認識が違っているようだ。

 彼らはなにか勘違いしている。

 いや、そもそも、――


(――そもそも、勘違いしてたのは、……俺か。)


 高校三年生当時、実幸を除いた三善家・夕濵家の全員が、ミユと実幸の婚約は有効だと思っていたのだ。

 実幸だけが、ミユはとっくに忘れちゃってるんだろうなと勘違いしていた。

 ミユから好かれていないと勘違いしていた。

 だから平然とほかの女子と付き合ったのだ。

 昨日金曜日の夜にミユからそれを聞いたときには酔っていたせいもあって深く考えなかったが、よくよく考えてみればなかなか酷い仕打ちじゃないか――と、ようやく実幸は思い当たる。

 そして平手打ちとキスの意味をようやく納得する。

 当時は、ミユのいつもの情緒不安定のせいと思っていた。

 それを境に家事の手伝いに来ることも単に話すことも学校の廊下ですれ違うことさえパタリとなくなった理由は、美典を介して『彼女がいるのにあたしと親しくしてるの、よくないでしょ。』ということだと聞かされていたし、それに納得していた。

 婚約破棄のせいだとは思いもよらなかった。

 ミユのパワハラから逃れるために自助努力で「ざまぁ」した訳ではないのだ。

 ただ単に鈍感だったのだ。

 究極的に鈍感だった。

 だから夕濵家とほぼ絶縁することになるとは、思いも寄らなかった。

 大学進学や、義母が戻ってきて助けがあまり必要なくなったのもあって当然の成り行きかと感じていたが、今の話を聞いて納得した。夕濵夫妻が娘と実幸を近づけないために身を引いた、ということだ。

 

 それにしても、この夫妻は娘のことをもうすこし信用してもよかろう。

 小学生の頃には殴られたり抓られたり、性癖の固まっていない段階でまったくご褒美でもなんでもなかったからしっかり傷ついていたが、アヤの教育の賜物か、中学に上がる頃にはミユの手は出なくなっていたし、暴れん坊はツンツンくらいに落ち着いていたのだ。

 加えて実幸もツンツン耐性を会得していた。ミユのあしらい方は早いうちに身についていて、それが社会に出たあとコンプライアンスに違反するレベルの上司と接する際に役に立ったのも事実だ。

 しかし、そんな事実をこの夫妻は知らない。

 彼らのなかではいつまでも、実幸は“かわいそうないい子”で、ミユは“バイオレンス幼馴染”なのだ。

 再会した金曜の夜に酔った勢いでサクッと抱かせてくれねーかなーなどと思っていた、すっかり汚れっちまった三十歳バツイチ独身男――実幸ことを、彼らは知らないのだ。


(これは………………チャンス。)




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