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ブラコンの妹が兄(おれ)と結婚するために世界を再構成しちゃった件 3/4

【前回までのあらすじ】

 養父の実子と養子との婚姻が有効だと知った牡丹は、実幸にプロポーズする。

 しかし実幸は二の足を踏んでしまい、牡丹は怒って家出してしまった。




 牡丹が消えてからもう数年が経ったが、いまだ見つかっていない。


 幼馴染――夕濵ミユとの結婚の約束は反故になった。

 牡丹がいつまでも帰ってこないのだから「家族みんなが大人になったら結婚する」という条件は達成できなかったし、なにより、実幸にとって牡丹の存在があまりに大きく越えられないとミユが悟ったからだ。

 彼女は二番目に好きな男と結婚して、幸せに暮らしている。


 三十歳、実幸の休日の過ごし方は決まっている。

 

 警察に行って、牡丹の手掛かりはないか訊く。

 興信所に行って、牡丹の手掛かりはないか訊く。

 それから、むかし牡丹がよく突然に現れた場所を一通り回ってみる。

 都合がつけば様々な霊能力者と面会して、牡丹の手掛かりはないか訊く。


 金曜日の夜、明日こそ、と思いながら仏間で眠る。

 ひとりで眠るのには、もう慣れていた。




 その夜はひどく冷え込んで、三月だというのに雪が降った。

 季節外れの牡丹雪が、世界を白く染めるように降りしきった。




 朝起きて、肩に頭が乗っている。

 

 牡丹だ。


 驚きは声にならない。


 そしてなぜか、実幸は上半身に何も着ていない。


 障子の向こうは晴天で、スズメがチュンチュン鳴いている。


 実幸は青ざめて、そろそろと布団から抜け出して正座を作る。


 よかった、パンツは履いている。


 三月の下旬で朝の空気は冷たいが、実幸はそれを感じられないほど動転していた。


 牡丹の寝顔を見つめる。


 間違いなく牡丹だ。


 しかし、十六のままの牡丹ではない。

 二十の、大人の女性になっている。


「ぅん」


 牡丹が唸る。


 ふと、実幸は自分自身を疑う。


――なぜ驚く? 昨日の夜も一緒に寝たんだから、当然、隣で眠っているに決まっているじゃないか。――


 実幸はそれを思い出して、しかし、眉間にしわを寄せる。


(え? 昨日? 一緒に寝た?)


「おにいちゃんどうしたの?」


 呼びかけられてハッと顔を上げた。

 起き抜けの牡丹の、覚束ない声の、なんと愛しい――。


「コラ牡丹、もう『おにいちゃん』って呼ぶなって言ってるだろ、夫婦なんだから。」


 ごく自然に実幸は爽やかな笑顔で言って、一瞬の間のあと、自分の言ったことに驚愕して口をふさぐ。


(『夫婦』? は? なに言ってんのおれ?)


 記憶が混濁している。


 この口を含め、体はこの状況に納得しているし連続した記憶もある。

 牡丹と近所のスーパーに行った折、手を恋人つなぎしているのに『おにいちゃん』と呼ぶから白い眼で視られたのもはっきりと覚えている。


 なのに、いまここで、意識だけが追いつかない。


「寒い。早く戻ってきて。」


(なんだよ自分は戻ってこなかったくせに……)


 四年前、牡丹は神隠しにあって、そして戻ってこなかったのではなかったか?

 だから、ずっと捜しつづけてきたのではなかったか?

 そう今日も、これから捜しに行く予定で――。


――いや、……違う。違う違う。――違うだろ!


 四年前、牡丹の告白を拒絶した。

 それから牡丹は神隠しにあった。

 そこまでは間違いない。

 だが、四日後に戻って来たのだ。


――小鬼と一緒に。――




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