ブラコンの妹が兄(おれ)と結婚するために世界を再構成しちゃった件 1/4
●義妹(牡丹)エンド
【本編のあらすじ】
主人公――三善実幸(高二)は下に六人の義理の妹・弟をもつ三善家の長男である。
そんな兄が大好きな末っ子――牡丹(小一)は、祖母が雪女のせいもあり霊感がすこぶる強く、“みち”という独自の亜空間に迷い込むような不思議チャン。
実幸はひょんなことから半年のあいだ意識不明になっていたが、いろいろあって病院で目覚める。
――というのが、本編までのお話。
【御注意】
ほかのエンディングとは齟齬があります。
もしほかを読まれるようならお気をつけて。
退院しても迎えはなかった。
牡丹がまたセルフ神隠しにあったせいだ。
夕濵夫妻が下の子たちを連れて迎えに来るはずだったが、三々五々に別れて捜索しているそうである。
電話で牡丹が彷徨っていそうな場所を問われたので、近場の薄暗い所や、水辺、橋などの何かと何かを繋ぐ場所を、具体的に地名で伝えた。
実幸も家に真っ直ぐに帰らずに、近くの山の小川へ行ってみようか、と、病院の敷地を出た。
「おにいちゃん。」
バス停のベンチに牡丹が座っていた。
「牡丹ッ!」
実幸は叫ぶなり小走りに近づいて、牡丹を持ち上げて、お腹に頭を入れるように高い位置で抱きしめる。
牡丹はくすぐったそうに高い声でキャッキャと笑う。
実幸は頭を離した。
「心配したでしょうが!」
「なんで?」
「牡丹がいなくなったから! みんな探し回ってるんだぞ!」
「……ごめんなさい。」
牡丹がしょんぼりして、小声で早口に謝る。
牡丹を地面に立たせると、手を繋いだ。
「ちょっと待ってて。」
実幸は夕濵ミユの父に連絡して、捜索をやめるように伝える。
「迎えは大丈夫、歩いて帰るから。家族を家に集めてくれると助かります。」
と頼むと、すこし話してから電話を切った。
「さ、帰ろうか。」
二人で歩きはじめる。
「あのね、ぼたんのことつれて行ってくれないって言われたの。みのねーちゃんとろっかねーちゃんがむかえに行くって。お家でまってなさいって、だから、来たの。」
電話のあいだに考えていたらしい、牡丹は拙い言い訳をした。
「待てなかったの?」
牡丹はこくんと頷く。
「病院あんまり来ちゃいけないって決めてただろ? 変なの見ちゃうから。」
「なかには入ってないよ。」
「でも、小さい子がひとりで来たら危ないだろ?」
「うーん。」
それは肯定なのかなんなのか。
「また、“みち”、つかったの?」
牡丹は悲しそうな顔をする。
「駄目だって言っただろ、危険だから。もし帰ってこれなかったらどうするんだよ。」
「帰ってこれるよ。」
「わかんないよ?」
「帰ってこれる。おにいちゃんが、ぼたんのことずーっと思って、探してくれたら、ぜったい、帰ってこれるよ。」
そんなこと満面の笑みで言われても困っちゃうよ。
「おにいちゃん探してくれないの?」
兄が顔を困らせているから、牡丹も顔を曇らせた。
実幸は膝を折って、牡丹に視線を合わせる。
「もし、また牡丹がいなくなったら、絶対探す。」
実幸は真剣に言う。
「でも、約束しなさい。もう“みち”は使わないこと。危険なマネはしないこと。できる?」
「できる。」
「よし、えらいぞ牡丹。」
にこっと笑って、牡丹の頭をなでる。
牡丹が小さな両手を伸ばして近づいてきて、ぎゅっと抱きしめられる。
「おにいちゃんもういなくならないでね。」
実幸はまず眉を上げて驚き、それから微笑む。
たったいま牡丹がいなくなったことを叱ったが、言われてみれば、いなくなっていたのは自分のほうだったと気付く。
それも半年間も家を空けてしまった。
牡丹の寂しげな声に実幸は気が咎める半面、喜びを隠せない。
自分が家族を心配するのと同じように、家族から自分が心配されていたのだと知って、素直に嬉しい。
「うん。ごめんな。もういなくならないよ。」
「ずっといっしょにいてね。」
くぁわうぃうぃ(>>>可愛い)。
その威力は凄まじく、実幸の表情筋は甚だ緩んだ。
「んーどうする? 大きくなったら兄ちゃんと結婚するかぁ?」
牡丹が頭を離して、不思議そうな、限りなく澄んだ眼で見つめてくる。
「きょうだいはけっこんできないんだよ。おにいちゃん知らないの?」
実幸はさっと悲しげな微笑みを浮かべ、その顔のままおもむろに立ち上がる。
「すみません知ってました。調子乗りました。」
「へんなおにいちゃん。」
牡丹はうふふと笑った。
そう、お兄ちゃんは変なのだった。
牡丹を好き、となると、有無を言わさずシスコンでロリコンということになるのだ。
そんな思いは、胸にしまっておくのが正解。
(そうでないと逮捕される。)
家族として牡丹の幸せを、全力で応援するだけである。
だから、いつまでも夜に布団に入って来られるのは、気が気でない。




