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36.自分のお見舞いをする

【前回までのあらすじ】

 生霊vs.雪女+青鬼の構図かと思いきや三つ巴――、かと思いきや、雪女は生霊を守ろうとしていたし、生霊はお尻ぺんぺんされた。




 白い、消毒液のにおいのする部屋だ。


「出られた? のね、よかった。」


 雪女にしがみついて身を屈(かが)めていたおれは、慌てて身を引いた。


「ここは…そうか、やっぱり病院ね。よかった。」


 雪女も立ち上がり、制服のスカートを軽くはたく。


 ついさっき鬼にボロボロにされていたが、雪女の体はすっかり元通りになっていた。

 彼女もそれに気付いて驚いているようだ。


「なんだ大丈夫だったのか。さすがに鬼の己界ね。合界と完全に隔絶してる。……先生には悪いことしちゃった。」


 などと首をかしげてこっちを見てくるが、おれは遠ざかろうと片足を引く。


 後頭部がなにかに当たって、振り返って見ると、2メートルくらいの銀のカプセルがある。いわゆる近未来的なアレ。

 正面はガラス張りになっていて、中が見えた。


 液体のなかに浮いているのは、――おれだ。


「裸(ら)!」


 全裸だ。


「そういうことよ。」


「どういうこと!?」


 バッと振り返って見た雪女は、おれの疑問を不思議がっている。


「なによ、見てのとおりよ。」


「見ないでよ!」


 おれはガラス部分に背中をぴったりと合わせて隠した。


「こんなのひどいよ! こんなことって……。え? ちょっと待って? 家族とか友達とかクラスメイトとか不特定多数に見られたってこと? ううう嘘だ。 …無理! もう学校行けないよ! 不登校だよ!!」


「立派なモンよ! 胸を張りな!」


 ……なにこの人。痴女?


「よくもそんな……。おれに恥かかせやがって。全部あんたのせいだ! あんたがおれを殺しさえしなければ……ッ!」


 奥歯を噛みしめるくらい悔しい。

 負のエネルギーで悪霊になる可能性すらある。


「違うのよ。死なせるはずじゃなかった。」


 雪女が切羽詰まった様子で否定した。


「じゃあ、いったいなんで……」


「狐の嫁入りの日、バス停で、隣に座ったでしょ? そのとき、……臭ったから。」


 ぅぇえ?

 たしかに結構走ったあとでしたし? そりゃ臭ったかも知らんけど? こちとら思春期だぞ察して。


「死の臭いがした。ガンだったの。」


 ガン?

 ……おれ、ガンで倒れたの?

 いや、たしか束本くんは原因不明って……


「で、あたし、出来ると思ったの、凍結治療。」


「……とぅけつ? ……なんて?」


「凍結治療。細胞を凍らせて壊死させるの。」


 へぇ。……へ?


「お医者さんは、それについては成功してるって言ってた。けど、あんたはなんでか目覚めなかった。」


 おれは結構な時間をかけて考えた。

 多分、右上にも右下にも左下にも左上にも、視線は泳いだ。

 そして最後に彼女を見る。


「つまり君は、おれを助けようとした…って?」


 でもどうして?

 もしかしてだけど、……おれを、好き……とか?

 そういえばバス停で待ち伏せていた理由も訊かなくちゃならん!


「どうして?」


 彼女はしなりと首を傾ける。


「これくらいさせてちょうだい。あたし、」


 中途半端なところで、言葉を切った。

 切なそうにキレイな顔を歪めるから、おれはなにも言えずに待つ。


「曲がりなりにも、あたし、あんたの母親なんだからさ。」


 ……………………………………………………………………………………は?


_人人人人人人人_

> 経 産 婦 <

 ̄^Y^Y^Y^Y^ ̄


 …………たしかに高校1年生でも産めないってわけじゃないし大人っぽい見た目だからもしかしたら実年齢はもっと上かもしれないしだとしたら母親ってもの不思議じゃないけどそれにしたってお(・)れ(・)の母親って年齢的に無理じゃない?っていうか母親? え? ははおや? おれの… は は  お   や    ?


 真っ白になった頭のなかに、母親の面影を探す。


 おれに実母の記憶はない、から、…………


 ふいに、眼前の雪女の辛そうな表情を透かして、義母が視えた。

 彼女が出で行った夜の、閉まっていく玄関の向こうにあった顔だ。


 それを皮切りに、彼女にまつわる記憶が次々と蘇ってくる。


 義父とのひどい喧嘩を聞かせまいと、幼い妹の耳を塞いで眠らせた夜。夫婦喧嘩の翌朝の申し訳なさそうな空元気。洗濯機を回したから干しといてって頼んだのに忘れられてたときのガッカリ。料理下手の挙句の鍋の焦げ付き。金曜日のカレー。牡丹が生れたとき、六花が生れたとき、結と晶が生れたとき。

 初めて家にやって来たときのこと。

 父さんを取られるようで、すこし嫌だなとも思ったけど、美典と真吉にはまだ見てくれる人が必要だったから、すごく助かるなと思った。お腹に赤ちゃんが2人いるって教えられて、人体の神秘を感じた。実年齢は父よりもずいぶん上だと知って驚いて、雪女の血を半分引いていると知って納得した。

 とてもきれいな人だと思った。

 そのときと変わらない顔が、いまも目の前にある。


「……なんで?」


 自分でも、なにを訊きたいかわからない。

 疑問があまりにも多い。




【次回予告】

 お母さん、質問に答える。


【9話次回予告 解答】

Q.放課後、バス停、土砂降りの雨に閉じ込められて、高校生男女が2人きり。

  さて、なにが起こるでしょうか?


A.雪女(女子高校生)が義理の息子(男子高校生)のために凍結治療を施したが、息子は心肺停止、のちに蘇生するが目覚めず、生霊となる。

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