表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/72

32.一方“コチ”にて化け猫は、

【前回までのあらすじ】

 化け猫はマグロ欲しさに、ヒトを助けようとした。


【御注意】

 今回は3人称文体です。




「マグローマグロー今夜はマッグッロー。」


 三善実幸(みよしさねゆき)が忽然と姿を消したあと、コハクは楽しげに歌った。


 そんな彼女にロロは冷静な視線を向け、「うにゃあうにゃあ」と高い声で鳴く。

 人類の言葉に訳すると以下のようになる。


『さすがに今夜は無理じゃろう。そもそも導師でないコハクが“説明”など、笑止千万、上手くゆくはずもないがのぉ。すべからく精進することじゃ。』


 彼女が実幸に“説明”したのは、御路々(ゴロロ)経典第1~3、飛んで7部に当たる。

 化け猫の存在に関わる重要な内容であり誤謬を避けるため、導師と認められた者にしか“説明”は許されていない。


 御路々というのは、もとは学派である。

 しかし魔都において科学は金箱や、金回りをよくする潤滑油のように扱われるから、初めて入国した御路々の面々はその一端を担うのを嫌い、宗教という形に落ち着いたのである。

 しかしもちろん内情は変わらず、物理学も生物学も哲学も、あらゆる学問の集大成として、化け猫を含むすべての事象――真理を探究している。仮定としていたものが崩れ、真実や新たな仮説にすげ変わることがあれば、経典が訂正されることももちろんある。

 その“説明”が、生半にできるはずもない。

 数多の分野にわたる甚深な理解と、高い伝達能力がなければ、導師とは認められないのだ。


「……ロロさまへそ天してたくせに。」


 叱られた悔しまぎれにコハクがぼやく。


『コハク、よもや気づかぬとは修業が足らんのぉ。』


「え?」


『あれはよいモフリ手(奴隷)になるぞ。その才がある。……が、しかし、――』


 コハクは実幸を病院のベッドの上で目覚めさせる算段で“説明”を進めていたわけだが、しかし、残念ながらそれは叶わない。


 実幸が“説明”を理解できなかったからだ。


 無理もない。

 彼は生霊であり、加えて思春期真っ只中の童貞なのだ。

 あの状況ではなおのこと、まともに思考が働くはずもなかった。

 働いたのは思考ではなく、欲だった。

 そして意味よりも約束よりも、欲こそが彼に力を与えた。


 コハクがまったく予期しない形で、彼は目覚めることになる。




【次回予告】

 夢を見る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ