13.挙動不審になる
【前回までのあらすじ】
怪現象を体験し、自分が生霊だと知り、女子高校生に凍らされた主人公だが、ごく自然に教室で居眠りから目覚めた。――果たして夢オチなのか?
廊下を歩きながらおれは(解決していないことがまだある!)と思い当たった。
おれは黒髪ロングの美人とキスしたんだろうか?
あれは夢じゃなくて現実に起こったことの記憶だけど、口の中に息を吹きかけられてから以降、どうなったのか思い出せない。
ファーストキスを奪われた衝撃で忘れたんだろうか?
つぎ会えたら彼女になんて言おう。
付き合ったりするんだろうか?
そもそも、おれは彼女のこと好きなんだろうか?
この、もやもやっとしたのが、“好き”ってことだろうか?
この気持ちの正体を知らなくっちゃいけない。
そのためには、やっぱりもう1度会わなくてはいけない。
おれはそう決めると、大きく回り道をし、1年教室の前の廊下を経由してから、保健室に行くことにした。
校舎はだいだいが、3階が3年、2階が2年、1階が1年の教室にあてられている。
今年の1年生は、一般のクラスだけなら8つしかないので、比較的すくない。
生徒の顔が見える方向から(逆にいえば教師には背を向ける方向から)、のんびりと、さりげなく、まじまじと、教室のなかへ視線を巡らせながら歩いていく。
一過して、しかし、彼女は見つけられなかった。
廊下の突き当りにある下駄箱前で手持無沙汰に立ち止る。
そのときは4時間目で、昼休みまでには充分に時間があった。
彼女を見つけるための時間は、充分にあった。
上履きのまま昇降口から出て、外の砂利道を迂回して渡り廊下の出入口前で、上履きの汚れをマットにザリザリこすりつけてから、再び校舎に入った。
なるべく教師から目撃されないためだ。
しかし2巡目も彼女は見つからない。
空いてる席もあったから、今日はお休みか、早退か、……。
1年生のうちの何人かはおれに気づいて不思議そうにこっちを見ているけれど、いや、もう1回だけ……と、また外を回ってから校舎に入り、教室内を凝視して歩くという挙動不審をしながら歩いていると、背後から、声を抑え気味に、呼びかけられた。
「三善くんッ。」
振り返る。
委員長だ。
「いや違くてこれは、あのー、ちょっと、……靴を確認したくて。下駄箱行きたくって、で、うん、保健室にはこれから行くから。」
我ながらしどろもどろ。
でも委員長はそんなことどうでもいいみたいだ。
小走りで近づいてきて、おれの50センチ半径に入り込んでくる。
近い。
「よかった、まだいてくれた。」
なんだかとても嬉しそうだ。
「三善くん、聞こえてるよね?」
なんでそんなこと訊くんだろう? 戸惑って間を作ってしまう。
「うん。」
「返事してくれた……。」
委員長は泣きそうなくらい嬉しそうだ。
「千羽鶴はね、なんか衛生面の理由で病院から断られたんだって。だから、でも、わたし、なにもできないけど、でもなにかしたくて、……これ。」
委員長が制服の胸ポケットから、そっとなにか取り出しておれに差し出した。
なにを言っているのかよくわからなかったが、とりあえず受け取る。
手縫いのお守りだ。
『健康第一』と刺繍されている。
『恋愛成就』とかではないんですね。
…………このシチュエーションで、それはそれで変か。
おれは笑いながら首を傾げる。
「うんありがとうけど、…割と健康なほうよ?おれ。なんでこのタイミングで?」
喜びに輝いていた委員長の顔が一転、怯える。
その顔を見ながら、おれも考える。
委員長はなんて言った?
『千羽鶴』、『病院』、そして刺繍された『健康第一』。
創始者は、おれの体はいま病院で意識不明で寝っ転がっていると言った。
ということは、これは、
(……夢じゃない……。)
ということは、
「……おれは、……生霊?」
【次回予告】
主人公が1年の廊下を徘徊しているとき、彼のクラスで起こったこと。
委員長がどうしてもしたかったこと。




