14.一方”コチ”にて委員長は、
【前回までのあらすじ】
生霊になった原因を探している主人公、一時は夢オチかと疑うが、やはりそうではなかった。
【御注意】
今回は3人称文体です。
ドアが閉まったあと、2年12組の教室は混乱のために静まり返った。
教師は慌てていま閉じられたドアを開けて廊下を見る。
誰もいない。
廊下側の先頭の席の男子生徒も顔を出して見回してみて、誰もいない。
2人、顔を見合わせる。
「……いたよね?」
男子生徒は真顔で頷く。
女子生徒の悲鳴を皮切りに、クラスは騒然とした。
彼がここに居るはずがないことを、ようやく全員が、同時に気づいたのだ。
若い教師は泣きだしてしまう。
「やっぱり千羽鶴折ろう!」
「先生その件については先日の職員会議で」
――却下されたのだが、教師は感じ入ってしまって、果敢にも指摘した生徒の声を感情的に打ち消す。
「みんなに会いに来たんだよ! 寂しいんだよ。ひとりで、病室で!」
などど、見当違いの説得を生徒にはじめた。
最中、委員長だけは教室を飛び出して、彼を追いかける。
彼女は誰にも会わないまま保健室まで行った。
保健室にも、彼はいない。
常駐の養護教諭に尋ねる。
「いま男子生徒が来ませんでしたか?」
「いや、誰も来てないけど?」
「もしかしたら、目には見えなかったかもしれないけど、…なにか異変は?」
「いやないけど、……怖。やめてぇ?」
委員長は戸惑う。
彼を追いかけるなんて、バカげたことかもしれない。
授業をサボったことなんて1度もないのに、衝動的に走り出してしまった。
自分にできることなんて、座って、待っていることだけ。
いつもそうだった。
言われたことだけ、望まれるように頑張るだけ。
しかし戻る気にはなれなかった。
保健室を飛び出すと、彼を探して学校を走り回った。
彼が教師に言った、委員長のノートが『先生よりわかりやすい』というのは、本当のことだった。
教師は一生懸命やっていた。
彼女はまるで、彼女自身の課題をこなすように授業をした。
そのせいで黒板は文字でぎっちりと埋め尽くされる。
授業を安定して進行することが彼女の目的であり、そもそもの目的のはずの他者に教える、理解させるということが考慮されていなかったのだ。
つまんないな、というのは、クラスの総意だった。
それで、なんとなくみんな、偶然にも一斉に、彼のことを思い出していたのだった。
空気のまるで読めないヤツ。
不文律なんて気づいていないから、無自覚にぶち壊しちゃうヤツ。
面倒なときもあるけど、傍目には面白いヤツ。
日常を非日常に変えちゃうとぼけたヤツ。
我らがクラスのお笑い担当。
――あぁ、あいつがいたらな。
彼の舟を漕ぎがちな授業態度のせいで隣に座らされていたのだけれども、委員長である彼女はその理由を察していたから厳しくできなかったし、むしろ、そばにいられることを喜んでいた。
なんでも真面目に受け取ってしまうあたり、彼女と彼はよく似ている。
そして一生懸命に対応する。
バカ真面目だって人に言われても、要領よくやりたいって自分でも思うけど、でも、一生懸命にやってしまう。
彼女の場合は褒められたり同情されたりするけれど、彼の場合は笑われる。からかわれてしまう。
それでも彼は笑っている。
そういう人がそばにいて頑張っていてくれるから、彼女は励まされていた。
彼は必要とされていた。
委員長は彼のことを考えて眠れない夜に、想いを込めてお守りに刺繍を入れていた。
それを渡したあと、しかし彼はひどく動揺した。
「……おれは、……生霊?」
このとき、彼がやっと自分の状況を悟ったらしいことを、委員長は察した。
「三善くん?」
見たこともないような深刻な顔をして、『健康第一』の文字を握り締めた彼の姿が、だんだんと薄らいでいく。
「みよしくん……」
呼びかけるより先に、完全に姿が消えた。
驚愕と恐怖で息が止まった。
突然に、すぐ隣の1年教室の窓が勢いよく開く。
「すげー先輩が除霊したぞ!」
男の子が興奮して叫んだから、委員長は驚きのあまり硬直したまま縦にピョンと跳ねてしまう。
「うそ……」
教室中が、それから1階がざわつきはじめる。
「えなになに?」「いま幽霊がいて」「なんも見えなかったけど?」「8組のほうから1組のほうに歩いてたんだよ」「こっちを恨めしそうな顔で見ながら」「で、逆はないんだ。戻らないのに、また8組のほうからやってくる」「なにそれこっわw」「先輩除霊あざまーす。」
委員長は困った。
病院で心電図が「ピー」と鳴っていたりしたらどうしよう。
委員長は涙目で叫ぶ。
「どこにいったの三善くーん!」
終礼のチャイムが鳴った。
【次回予告】
改めて生霊だと悟った彼は、親友に助けを求める。




