ファイルNo.2 真夏の夜の夢 30
しかし、そう聞かれると考えないようにしている分だけ、余計に刺のように刺さって抜けなくなってしまう。
近藤愛美は、SGAに入ってまだ一年にならない。昔のことは何も知らない筈なのに、時々巴の過去を刳るかのような発言をする。
本人には他意も深い意味もない。それと同じだ。
キクの言葉も、自分を念頭に置いて話しているに過ぎない。
〈俺はさ、親とかに言ったら馬鹿みたいって言われるの間違いないけど、アメリカとかいって恐竜の化石の発掘に携わりたいと思ってる訳。小さい頃から夢だったんだ。今なんか夢なんて言ったら、友達にだって馬鹿にされるもんな。夢は寝てみろって。現実は甘くないけど、それでもさ。やりたいことの為にあがくのって馬鹿かな。結局は無駄になったとしても、それはそれでいいと思うのって、人から見たらやっぱり馬鹿なんだろうか。でも俺は、自分は何にもしない癖に、夢を語れる奴を馬鹿にはしたくない〉
夢。
子供の頃から夢だと?
巴は、薄ら笑いを浮かべようとしてやめた。
今、巴は自分の部屋で一人パソコンに向かっているのだ。何かを取り繕うことも、誰かを意識することもない。
夢。夢か。
巴に夢の話をした人は、一人だけだ。その人は自分の夢を語ってくれた。
その人にも、自分の夢は話せなかった。話せばよかったと今となっては思う。もう聞いてもらうことはできないけれど。
夢なんて言ったら、大概の人が嘲笑に近い表情を浮かべるだろう。
表情は変わらなくとも、心の底では嘲るだろう。夢は寝てみるものだって。
確かにその通りだ。
どうしてキクは、たった数度メールをやりとりしただけの相手にこんな話をしたのだろう。
まだ続きがある。
〈けど、なんか集まって縮こまってるのもムカつく。ゲームでもマンガでも他の何かでも、打ち込めるものがあるのはいいけど、周りが分かってくんないから、分かってくれる奴だけで集まって、それで満足してるのは嫌だ。本当はあんたも、そういうのが馬鹿げたことだって思ってるんじゃないの。違うかい。あんたも俺と同じじゃないかなって言うのは、そのへんな訳。俺は、今の現状を打ち破りたい。無駄かもしれないけど、何かをしてみたい。あんたは、今で満足してるの?〉
満足。
満足ならしてる……筈だ。
そう思い込んでいる、思い込もうとしているだけかも知れない。
巴が属しているインターネットのバーチャル空間は、それ自体が一つの閉じた世界だ。




