ファイルNo.2 真夏の夜の夢 21
「明日の私の誕生日にね、紫苑さん達が、パーティー開いてくれるって」
紫苑達ということは、紫苑と東大寺の二人以外にいない。仕事がまだ残っていると言うのに、紫苑もご苦労なことだ。
羨ましいという思いが、巴にそんな意地悪な感情を抱かせた。
喉の奥を鳴らす独特の笑い方で、いつもの如く綾瀬がちゃちゃをいれる。
「子供じゃあるまいし」
愛美は機嫌がいいのか、気にしたふうもなく、
「いいんです。子供だから」
と言って、なぜか自慢げに胸を張った。
それを見る綾瀬の表情は、巴などには見せたことのないような優しさを湛えている。
「そうだったな。で、幾つになるんだ」
「十七です」
若くて結構と綾瀬は皮肉るように呟いた。
その若さを妬んでいるようにも、とれないことはない。
愛美と一回り以上、綾瀬は年が離れている。愛美は、無邪気に綾瀬に向かってねだった。
「プレゼント欲しいなー、なんて」
もっと大人の女が同じことを言えば、媚を含んで嫌らしく聞こえるが、天真爛漫な愛美の様子は、見ていても微笑ましい。
しかし、案の定綾瀬は眉を顰めると、吐き出すように言った。
「人に催促するものか」
愛美が屈託なく笑う。返事もいたって分かり易いものだった。
「一番高い物、くれそうだもん」
綾瀬は、何を考えているのか、顎に手をやったままで黙っている。
突然、何を思いついたのか、綾瀬は皮張りのアームチェアーから立ち上がると、愛美の背後に近付いた。
愛美がきょとんとした顔をしながら、首を捩じって綾瀬の行動を見守っている。綾瀬が身を屈め気味にしながら、愛美の耳許に低く囁いた。
「やるからには、見返りが欲しいものだな」
さりげなく、綾瀬は愛美の肩に手を置く。愛美は肩に触れている手に、自らの手を重ねた。
見てはいけないものを見たような気がして、巴はそれとなく二人から視線を外す。
「じゃあ、綾瀬さんの誕生日にケーキ焼いてあげます」
愛美は結構、どころか本気でそう言った。一気に巴の気が抜ける。
綾瀬もそれは同じらしく、心境を表すかのように複雑な顔になった。
「それは、いい」
綾瀬も、愛美が料理が苦手なことを知っているらしい。チャットなら、ここで、巴もw(笑い)の文字を送るところだが、実際には吹き出すことすらできなかった。
愛美は、なぜか分からないといった顔をしていたが、断られた理由に思い当たり、どういうことよとプリプリ怒り出す。
愛美は、巴にも失礼だと思わないかと聞いてきたが、巴は肩を竦めただけだ。




