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ファイルNo.1 パンドラボックス 51

 大丈夫だというように、天使が微笑する。

 東大寺とうだいじにはその人物が、天使のように見えた。

「お早うございます。東大寺さん。目覚めた気分はどうですか?」

 螢光灯の光が頭の回りに輪を作っていて、後光のようだ。

 東大寺は、眩しくて開いた目をすぐに閉じてしまったので、相手がどんな顔をしているのか分からなかった。

 夢の中で、誰かの声を聞いていたような気がする。

 でも何を言われていたのかは、分からない。

 目を開けるまでは覚えていたのだが、目を開けた途端、それは風に飛ばされるシャボン玉のように消えてしまった。

「お早ようさん。天国にいるような気分や。天使もおるし」

 自分の声は、思いの外しっかりと東大寺の耳に響いた。

「もう大丈夫。迷って苦しむこともなく、安らかに眠れるわ。夢も見ないで、眠って。もう全部、終わったから」

 彼女は――間違いなく彼女だったは、優しく東大寺の腕をさすった。

 冷たい指だった。彼女が動くと、雨の匂いが鼻腔を擽った。

 その声を聞くと、今目覚めたばかりだというのに、東大寺は深い眠りへと誘われていった。

 それまでの眠りは何かに追い立てられるような感じがしていたが、今度の眠りは、身体から力が抜けて、東大寺を何か満ちたりたような気分にさせた。

 もう全部、終わったんだ。東大寺は満足感を覚えた。

 

 そして今度目を開けると、カーテンを通して、朝の光が病室には溢れていた。

 病室は個室で、付き添いの者も誰もいなかった。

 長い長い夢を見ていたような感じだ。底のない深い淵のような処から、誰かが東大寺を救いあげてくれたような気がする。

 自分は、天使に会ったんじゃなかったっけ。しかし、それも夢の続きのように曖昧だった。

 点滴の交換にきた、看護師だったのかも知れない。

 朝の見回りにきた看護師が、東大寺に意識が戻ったことを知ると、慌てて当直の医師を呼びに行ったのだった。

 そこで初めて、東大寺は自分に何が起きたかを知った。ガス中毒で運ばれたらしく、ずっと昏睡状態に陥っていたらしい。

 隣がボヤを出して以来、火の始末には特に気を付けていたのだが。

 ICUから脳外科の個室に移され、目覚めたその日は安静ということだったが、翌日には、CTやらMRIやら訳の分からない検査攻めにあった。

 精密検査の結果は問題ないのだが、体力が戻るまでは入院して安静にしておくように言い渡されてしまう。

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