ファイルNo.1 パンドラボックス 50
ゲームは、終わらせることはできたが、東大寺を救う手立てが、巴には分からなかった。それが愛美には、分かったというのだろうか。
だが巴を救ったのも、愛美だった。愛美なら、もしくは……。
巴の顔には、そんな思いが読みとれる。愛美は微笑み、そして、確信に満ちた言い方をした。
「人はね。強いのよ。とても弱い生き物だけれど、強いの。そう簡単に死なないわ。それに、東大寺さんだもの。あの人なら大丈夫」
事件の折り、愛美は全てを見通す神のような眼差しを見せることがある。その時の愛美も、一種神々しいまでの晴れ晴れとした表情をしていた。
「お姉さんがそう言うと、本当に大丈夫な気になります」
不思議なことに、巴の中から先ほどの不安が消えているのだった。
「さあ、ラストゲームまで突っ走りましょう。東大寺さんをこれ以上放っておいたら、寝過ぎで脳味噌腐っちゃうわよ」
愛美がおかしそうに笑う。
「そうですね。これ以上、単細胞な頭が溶けたら、得意のボケもできなくなりますね。あれ、ボケってことは、脳味噌使ってないんじゃ」
巴は、妙な疑問にとりつかれたらしく、頻りに首を捻っている。
まず綾瀬に連絡をして、病院の東大寺と会えるようにとり計らって貰う必要があるだろう。突然愛美達が行って、すんなり通して貰えるとは思えない。
安全対策か知らないが、お役所仕事は時間と面倒が多い。そういう手間は、綾瀬に任しておこう。
みすみす優秀な社員を犬死にさせたくはないだろうから、こういう時こそ手間暇惜しまず役立って貰わなければ。
綾瀬が聞いたら、眉を顰めそうなことを愛美は考えながら、巴を促して出かける用意をさせた。
*
病院というのは、どこも似たような造りをしているものだ。しかし、共通しているものと言えば、やはり匂いだった。
色々な薬品と、一種饐えたような病気そのもののような匂いと、正反対なやけに白く清潔な雰囲気。
健康な人間が病院に行くと、まるで異世界に紛れ込んだような気分になる。今の東大寺が、まさにそんな感じだった。
三日前のこと。
目が覚めたら、東大寺は病院のベッドで寝ていた。しかも、点滴の管に繋がれて。
東大寺は、あまりのことに気を失いそうになった。健康だけがとり柄の自分に、一体何があったのだろう。
身体を動かそうとしたが、思うように動かなかった。東大寺が動揺して声を上げようとすると、彼の顔を覗き込んだ者がある。




