ファイルNo.1 パンドラボックス 49
――お前の父親も、実験対象だった。そして二人の幼い息子。つまり、アンジとミッシェル、お前達兄弟のことだ。モデルケースとして、お前達には監視がつけられていた。二人とも全く異なる環境に置かれ、正反対の人生を送らされていたんだ。一人は、捜査第壱班の刑事として、一人は、堕胎の専門医として。
幼い頃のアンジとミッシェル、そして笑顔の父親の写った写真。
屈託も翳りもない、少年達の笑顔。
――お前と弟も、政府の息がかかっている可能性があった。いつ猟奇殺人に走るか分からなかった。お前の弟は、その死によって身の潔白を証明した訳だ。そしてお前も。騙した訳ではない。お前を信じられるか、試すことにはなったがな。アンジ。お前にはこれから、我々の仲間として、その研究機関の極秘捜査に当たって貰いたい。
言葉を切った上司の上半身が、再び画面に現れる。
――ここにいるのは、お前の仲間だ。
硬い表情しか見せたことのなかった上司が初めて、アンジに笑いかけた。そこには、上司を含めて四人の人間がいるだけだ。
みんなそれぞれに頷いたり、片目を瞑ったりして見せた。
アンジの表情は苦しげだ。
――償いの為に。自分の弟を手にかけた罪を償うのと、父親の名誉を晴らす為に。俺は一度は死んだも同じ身だ。なんでもやってやるさ。
出された上司の右手を、アンジは握り返した。
アンジの表情は、その言葉を裏付けするかのように、決意に満ちたものだ。
アンジの闘いは、今始まったばかりだ……
画面が真っ暗になり、白い文字が、文章作成画面に打ち出されてゆくように、一行だけ出た。
それで終わりだった。エンドマークは出なかった。
終わりではない。これからが始まりなのだ。アンジにとって。
それは愛美達も同じだろうか。
パンドラの匣の謎は解けたが、これで全てが終わったことになるのだろうか。
とにかく、東大寺は眠りについたままだ。誰かが目覚めさせることができなければ、そのまま永遠の眠りにつくだろう。
「東大寺さんを、起こしにいきましょう」
愛美は立ち上がると、巴に手を差し出した。
何か抗えないものを感じ、巴は愛美に手をとられて、立ち上がった。
巴の身長は、愛美の胸ほどもない。
「東大寺さんは、ただ単に暗示にかかっただけじゃないんですよ。僕も、身をもって知りましたが、自分の意思で死ぬことを決めたんです。その考えを、覆すことができるんですか?」
巴は、心配材料なら幾つもあると言いたげだ。




