ファイルNo.1 パンドラボックス 37
「どうせ、お姉さんが起きててもすることないんで、眠ってください」
確かに、それもそうだ。
それに、愛美は眠くて、あまり頭が働かなくなっていた。
愛美は早寝早起きをモットーとしている。朝が早いのは、大丈夫だ。
でも今夜は場合が場合だった。
「そんなこと言って、私が朝起きて見にきたら、昏睡状態に陥ってたらどうするのよ。そんなの嫌だ」
小さい子供のように、嫌々と頭を振った。
寝惚けているのか、自分より年下の子供を相手にしていることを忘れているようだ。
巴は手を止めて、愛美に向き直った。言い聞かせるように、優しい口調で言う。
「東大寺さんのやった最後のセーブポイント付近を重点的に、デンジャーゾーンとして気を付けますから、心配しないでください。それに、このゲームをやった全員が死ぬんじゃないんですから」
そんなことになったら、それこそ大変だ。
「そうなの?」
愛美が素っ頓狂な声を出す。少しは目が覚めたらしい。
「当り前ですよ。ゲームをすると死ぬという因果関係がはっきりしていたら、とっくに警察が介入してますよ。亡くなったのがゲームの所為というのが、事実にしても、あるのはあくまで、確証のない噂だけなんですから」
愛美はもうぼんやりしながら、小首を傾げて唸った。
「だからパンドラの匣なのかな。死んでしまった人は、開けてはいけない。見てはいけないものを見てしまったのかしら」
寝惚けているにしては、鋭い読みだった。
巴が、ハッと顔をこわばらせたぐらいだ。
だが愛美は、お休みと言って、自分の部屋に戻ってしまった。本人はあまり自覚していないのかもしれない。
それこそ次の日、巴がその話をした時、愛美は自分の言ったことを覚えていなかった。
*
愛美は、眠い目をこすりながら、枕元の目覚まし時計を止めた。
まだ五時だ。
そのまま布団の中に潜りこみたい気分を押さえて、桜台の制服に着替えると、部屋を出た。支度を済ませてから、キッチンに朝食の用意をしにいった。
巴は徹夜したようだ。まだゲームをやっていた。
愛美は、トーストと牛乳だけで、簡単に朝食を終えると、そそくさと流しに皿を放り込んだ。
仮眠もとらなかったのだろう。
一晩、眠らずにゲームをやっていた巴の目は赤く充血していた。
四時頃には学校から帰って来るから、無理はしないようにと、巴に声を掛ける。
「早過ぎないですか?」
巴の言う通り、時計の針は、五時二十分を回ったところだった。
「うん、ちょっとね」
愛美は言葉を濁す。




