ファイルNo.1 パンドラボックス 38
食事はちゃんと摂るように言って、愛美は家を出た。
折り畳みではなく、普通の雨傘を手にする。夜半から降り出した雨は、朝になっても止む気配はなかった。
湿気を取るのに突っ込んでいた丸めた新聞紙を取り去り、泥の跳ねたスニーカーに足を突っ込む。
その日は一日、雨だった。
六時間分のノルマを熟し、愛美が学校から帰宅したのは、やはり四時を過ぎていた。
ソファに巴の姿はなかったが、テレビはついたままだった。ゲームの画面だ。
映っているのは、パソコンのウィンドウに、文字が一行だけ。
《次はお前の番だ。L》
愛美はギョッとなる。
リッパーは、主人公のアンジを次のターゲットにするつもりらしい。
陳腐な台詞だが、ゲームがゲームだけに、笑って済ませられるようなものではない。脅迫の中に込められた、限りない悪意を感じる。
次はお前の番だ。
巴は長門の部屋だろうか。ソファを覗くと、巴が横になっているのが見えた。愛美は驚いて巴の側に跪くと、身体を揺さぶった。
巴は、ううと呻いて眉根を寄せる。
よかった。眠っていただけらしい。
起き上がった巴に、愛美はすまなげに謝罪した。
「ごめんね。起こしちゃって」
巴は黙って首を振り、外していた眼鏡をかけ直した。
愛美は巴の横に座ると、セーラー服の膝を抱き締めた。
「あのね。東大寺さんに、このゲームを貸した子には会ってないんだけど、電話をくれた結城先輩って人に会ってきたの」
巴は、無言で愛美に話をするように促した。
愛美が、朝も早くから家を出たのには訳があった。いつも学校に通っているのとは、違う電車に乗る。
朝が早いので、電車は空いていた。途中乗り替えをして向かった先は、東大寺の通う星成西高校だ。
黒い鉄格子の門は開いていて、辺りに人の姿はなかった。
愛美は人目を憚りながら、門内に滑り込んだ。星成西は、男子校だ。普通の時間なら、愛美のセーラー服は、思いっきり目立ってしょうがない。
少し早すぎただろうかと思ったが、体育館ではボールが床を打つ、ダムダムという音が響いていた。
朝も早くから、バスケ部員達が、練習に勤しんでいる。
入口から顔を出した愛美に気付いた、幾人かの少年が、訝しそうにこちらを見た。愛美は気後れするものを感じながら、努めて大きな声を出した。
「すみません。結城直哉さん、います?」
その声に、部員の一人に注意をしていた少年が顔を上げる。




