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闇にロココがよく似合う  作者: 太郎鉄
楽しいダブルデート→粉々ビスケット
22/42

軽い考察と痛い着信

『なんか、釈然としないんですけどー』とロココはさっきからふてくされたままぼやき続ける。



 蓬田と別れた僕は【レスト・イン・ピース】に戻る前にとりあえず情報を整理しようと、ビル街の外れに見つけた小さな公園のベンチに座っていた。人気はない。蝉があまりの暑さに悲鳴をあげているだけだった。



「釈然としないって、何が?」



『だっておかしくない? あの蓬田とかいう丸出し女が本当のことをいってるとしたら、貝原さんが【アクタリ】に喧嘩売ってるわけでしょ? それなら、もっと賢いやり方あるじゃん。夜道でいきなり襲うにしたってさ、あたしのチカラを使えば相手の行動が読めるわけだし、効果的でしょ? なんで内緒でひっそりとそんなことを進めるんだろ』



 ロココのいうことはもっともだった。何らかの理由で商売敵を潰そうとするんであれば、僕たちにも加わらせて然るべきだし、その方が色んなことがスムーズに進む。



 ただ――。



「《クレオパトラ級》が、ひっかかるな」



『あの変態キス女のことはもう忘れて!』



「そうはいかないでしょ。パートナーを消すチカラって前代未聞だよ」



『《あたしは、消えなかった》よ。それでいいじゃん』



 貝原とともに【アクタリ】の殺し屋を襲い、彼らのパートナーを消し去った《クレオパトラ級》。彼女の存在がキーだ。それは間違いない。問題はそんな恐ろしいチカラを持つ存在と貝原が僕たちに内緒で行動していることだった。


 今朝方、僕の前にも彼女は現れ、【アクタリ】の殺し屋にしたように、僕にキスをして去っていった。ところがロココは消えず、こうして元気に憎まれ口を叩いてくれている。非常にありがたい。



 考えられる可能性は二つ。



 その一。今朝方の《クレオパトラ級》と、【アクタリ】を襲撃した《美しい女性》は実はまったくの別人で、《クレオパトラ級》はほんとにただの美しいキス魔。



 その二。いやいや、やっぱり二人は同一人物だが、《ロココを消すことはできなかった》。



 その一は却下でいいだろう。蓬田の話と符号がありすぎるし、記憶に残らない美女がこの狭い国に二人もいるって、ちょっと素敵すぎる。



 となればその二が妥当なんだけど、ここからやっぱり二つの疑問が浮かび上がる。



 まず、何でロココは消えなかったのか、という話。蓬田がいった「ほとんどチートじゃない」という言葉を僕は否定したが、まぁ実際、こんなタイプのチカラを持った殺し屋はいない。鴉森はロココの《超・思春期》を千里眼と呼び、ある種の超越者として僕らを認めていた。気がついていないだけで、ロココは《僕にとってだけではなく、多くの殺し屋にとっても特別な存在》なのかもしれない。



『ね、今、何かあたしのこと考えてるでしょ?』とロココが甘えた声を出す。



 何にせよ、消えないでくれてほんとに良かった。



 もう一つの疑問は、《クレオパトラ級》は、何故、僕の前に現れたのか、ということだ。彼女が貝原の指示で動いているとしたら、それは貝原がロココを消そうと企んでいたことになる。



 何故のオンパレードだ。現状でできることって何だろう?



『貝原さんにはさ、気をつけなきゃじゃない?』



 その通り。ひょっとすると一番の敵が身内である可能性が、犬の糞みたいに道端に転がってる。



 よくない傾向だな、と僕は拳を握る。例外を増やさないでよ貝原さん、と呟きそうになる。どんな理由があるにせよ、ロココを消そうとしたならば、僕はあんたを赦さない。そんなことは、解りきってるはずだろうに。



「世知辛い世の中だよね、ロココ。どうして平和に進まないかな」



『あたしは世界がどうであれ、自由太が元気ならノープロだよ』



「ロココは怖くない?」



『何が?』



「自分を消せるかもしれないチカラ」



『だ、か、ら。あたしは消えなかったじゃんてば』



「それは偶然かもしれない。もし次に同じことがあったら、次も消えない保証はないだろ」といったところで、ロココが僕の手を操って頭を叩く。



『次なんかないでしょ。二度とあんたを、他の女に触れさせないって』



 怖いくらいロココの言葉が心強くて、僕はほんの少し、元気になる。



 そろそろ暑さに耐えきれなくなってきたので、近くの自動販売機でコーラを購入して一息に飲んだ。炭酸が喉ではじけ、頭がキインとする。『懐かしいな』とロココはいう。



『《ジャリジャリ君》食べたくない? ソーダ味』



 キインという音が、一瞬禍々しい音階に変貌した。針で脳みそをつつかれたような、《本来感じることのできないはずの痛み》が、記憶の彼方から超特急で走り抜けていく。幸か不幸か、僕はそれを掴めなかった。



「そうだね」と僕はいう。



「今度、ね」



 携帯が鳴った。ディスプレイを確認すると、波照間南魅の名前がある。



「波照間さんだ、珍しいな」



 テルとカラは指名があってよ――。



 今日、仕事じゃなかったのか?



「もしもし」



「あ、自由太君? 自由太君?」



 アニメの幼女みたいな声だけど、波照間はもう三十代後半だった。ロココは彼女のチカラは認めるものの、人格については《イっちゃったおばさん》と厳しい評価を下している。



「あのねあのね、私ね私ね、今からね、殺すの凄く殺すの」と不吉なことを幼女の声でいうものだから、気味の悪さに拍車がかかる。



「落ち着いて波照間さん。殺すのはわかったけど、それで?」



「でねでね、私が今から殺す殺す殺すブスはね、さっきまで自由太君と一緒にいたんでしょ? いたんだよね? いただろこの糞がきゃあああああ!!」



 最後の糞がきゃあの部分は野太いおじさん、波照間のパートナーの声に切り替わっていた。……さっきまで、一緒にいたブス?



「蓬田卵?」と僕はいう。波照間さんよりよっぽど可愛いよ、とは慈悲の心がいわせない。



「そうそのブスね。一緒にいたよね? 今どこにいるか教えて? 貝原さんが自由太に訊けば判るっていってたの。教えなさい十秒以内。九八七ゼロ、おせえぞ糞がきゃあああああ!!」



 波照間のターゲットが蓬田? 【アクタリ】の殺し屋の殺害依頼をどこかのクライアントがするなんて、考えられない。



「ちょっとタイム。波照間さんさ、それって依頼? それとも社長命令?」



「タイムはっ!! 認めなああああい!! 死にたいかがきゃああ!! 今どこじゃ糞がきゃあ! 俺がてめえ殺すぞ、てめえから殺すぞ、はらわたちぎって犬に食わしそしてその犬を再びくらい糞にして出すぞくらああああ!!!!」



『自由太切りなよ。こいつウザすぎ』



「同感だけど、そうもいかなくて。……波照間さん、蓬田卵なら【レスト・イン・ピース】の方へ《白いスカイライン》で向かってるよ。今ごろ、青山通り、赤坂見附辺りじゃないかな?」



「……オッケ! 合点承知のすけなりぃ! 星とハートマーク付属ぅ! バイバイアゲインありがとうね自由太君」



 通話が断たれる。ため息の前にロココがいう。



『なんで嘘教えたの?』



「貝原さんには嘘つかれまくってるし、波照間さんには疲れさせられまくったからちょっとお返し。ところでロココ、お願いが……」



『もうやってますー。あの丸出し女を助けるんでしょ? まださっきの駐車場にいるよ』



「話が早いね。でも怒らない?」



『ムカつくけどさ、あたしも賛成。現状一番信頼できるのは、あの丸出し女だから』



 こういう時、ロココは恋人としての立ち位置を離れ、ビジネスパートナーとして冷静な判断を下してくれる。僕はロココに礼をいうと、来た道を逆に走り出す。

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