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レベル1の被害者だと思っていたら、全部私のせいでした ~雨の日に始まる連続殺人と、終わらない死のループ~  作者: 凪塩 未来


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【第1話】最弱のレベル1と、黒い雨の街

いつもお読みいただきありがとうございます!

本作は『レベル1の被害者だと思っていたら、全部私のせいでした ~雨の日に始まる連続殺人と、終わらない死のループ~』です。


最弱のレベル1として生きる主人公・エリカ。

彼女の周りで起きる連続惨劇と、雨の日に巻き起こる終わらない死のループ——。

衝撃のラストまでお届けいたします!



それでは、第1話をお楽しみください。

雨の音で目が覚めた。


石造りの天井から湿った空気が降りてくる。窓の外は重苦しい鉛色で、太い水滴が厚いガラスを滑り落ち、不規則な音を立てていた。


金木恵梨香――今の名はエリカ・カナギは、固い木綿の枕元から羊皮紙の魔導具を取り出し、時刻と日付を確認した。

水界暦四〇二年、七月十二日。午前六時四十三分。


「……また、雨か」


掠れた声で呟いた言葉は、四畳半ほどの狭い借家の部屋にあっけなく消えていった。


ここは異世界『ルミナリア』の辺境都市エルム。

地球という世界で三十年の人生を過ごし、哀れな事故で命を落とした恵梨香が転生して三年の月日が流れていた。


転生といえば、チート能力を得て無双したり、豊かな貴族の家に生まれてスローライフを送ったりするのがお約束だと思っていた。しかし、現実は非情だった。

神様のような存在に出会うこともなく、目覚めた時にはこの薄汚れた街の路地裏に倒れていた。そして、この世界の誰もが持つ『ステータスプレート』に刻まれていたのは、あまりにも残酷な数値だった。


【名前】エリカ・カナギ

【職業】無職

【レベル】1

【HP】12 / 12

【MP】5 / 5

【スキル】なし

レベル1。

街の外に出れば、最弱の魔物であるスライムやゴブリンにすら一瞬で噛み殺される数値。魔法も使えず、剣も振れない。

前世の知識を活かそうにも、この街の技術体系や文化は現代日本とはかけ離れており、高価な魔導具を作る知識も資力もなかった。

結果として、エリカは冒険者ギルドの雑用係や、薬草の小分け作業といった微々たる日銭を稼ぐだけの、文字通り『最弱の転生者』として生きるしかなかった。


「……支度をしなきゃ」


湿気で重くなった麻の服に袖を通し、粗末な革靴を履く。玄関に立てかけてあった黄色い撥水布の雨ガッパを羽織り、エリカは外へと足を踏み出した。


エルムの街は、年間を通じて雨が多いことで知られている。石畳の道路は常に濡れて黒く光り、水溜まりには濁った空が映り込んでいた。

傘をさしながら濡れた道を歩き、エリカは昨日の出来事を思い出して胸を痛めていた。


(バルトさんが……刺されたなんて……)


バルト・グラント。

冒険者ギルドに所属するCランクの戦士だ。頑丈な重鎧を着込み、大剣を振り回す男で、レベルは28。エリカのようなレベル1の存在から見れば、雲の上の英雄のような強さを持つ人物だった。


そのバルトが昨日の夕方、ギルドからの帰り道にある路地裏で、何者かに刃物で襲われたという。

分厚い胸当ての隙間を的確に縫い、動脈を深く切り裂かれたらしい。幸いにも通りかかった治療術士のおかげで命は留めたものの、意識不明の重体。そして恐ろしいことに、襲撃者の目撃情報は一切なく、犯人は今も捕まっていない。


エリカとバルトは親しいわけではなかった。

むしろ、酒に酔った彼から「おいおい、レベル1の出来損ない! 俺の靴でも磨いて銀貨1枚恵んでもらうか?」と蔑まれ、嘲笑される間柄だった。

彼に対する感情は、苦手意識と恐怖、そして少々の嫌悪感だけだ。


それでも――レベル28の猛者が刃物一本で襲われたという事実は、レベル1の弱者であるエリカの胸の奥に、冷たく重い石のように沈んでいた。


「おい、そこの女。止まれ」


ギルドの立つ中央広場に差し掛かったところで、無骨な声に呼び止められた。

藍色の金属鎧を身にまとった都市騎士団の男たちが二人、広場の入口に立っていた。エリカは怯えながら身を縮め、腰に下げた身分証の木札を提示した。


「エリカ・カナギです……ギルドの雑用係をしています……」


「昨日の18時頃、お前はどこにいた? バルトが襲われた現場の近くで不審な人物を見かけなかったか?」


騎士の鋭い視線が、エリカの華奢な身体をくまなく観察する。レベル1の細い腕、怯えた瞳、震える声。騎士の目が「こいつにできるわけがない」という蔑みに変わるのを、エリカは敏鋭に感じ取った。


「雑用が終わって、まっすぐアパートに帰りました……。怪しい人なんて、見ていません……」


「……そうか。まあ、お前のようなレベル1に話を聞いても無駄だな。行け」


「失礼します……」


頭を下げ、逃げるように騎士たちの横を通り抜ける。

自分は弱者だ。誰も自分を容疑者だなんて思わない。それは幸運なことのはずなのに、心のどこかで嫌な汗が背中を滑り落ちていくのを感じていた。


ギルドの裏口から建物に入り、地下の資材置き場へ向かう。

薄暗い廊下を歩いていると、曲がり角の向こうから荒々しい足音が近づいてきた。


「おい! エリカ!」


現れたのは、ギルドの事務長を務める男、政次(マグジ)だった。

四十代後半の男で、白髪交じりの短髪に、神経質な細い金属フレームの眼鏡をかけている。レベルは15。戦闘職ではないが、ギルドの金と事務を牛耳る男で、下働きの人間に対しては異常なほど高圧的だった。

疲れ切った彼の目は、いつも血走っている。納期と報告書に追われているせいだ。


マグジはエリカの前で立ち止まるなり、手にしていた分厚い羊皮紙の束を、エリカの胸元へ乱暴に叩きつけた。


「あぐっ……!」


「これ! 昨日のうちに薬草の分類と在庫帳簿の整理を終わらせろって言ったろ! なんでできてないんだ!」


「す、すみませんマグジさん……! 昨日、バルトさんの事件があってギルド内が混乱していて、指示が二転三転して……」


「言い訳すんな!!」


地下廊下に、マグジの怒声が鋭く響き渡った。

前かがみになり、エリカの顔のすぐ近くまで顔を近づけて唾を飛ばす。


「混乱してただぁ? お前みたいなレベル1のゴミが混乱したところで何が変わるんだ! バルトが刺されたこととお前の仕事に何の関係がある! お前が刺したわけじゃないんだろ!?」


「ひっ……申し訳、ありません……」


「反省してるなら手をつかえ! 使えない奴め、前世でどんな生き方をしてたらこんなレベル1の能なしに生まれるんだ! 今日中に全部終わらせろ! できなきゃ今月の給料は抜きだ!!」


マグジはエリカの肩を強く押し飛ばし、足音荒く去っていった。

壁に背中を打ち付け、床に散らばった羊皮紙を見つめながら、エリカは蹲った。


爪が肉に食い込むほど、拳を強く握りしめる。

震えているのは、恐怖のせいか。それとも怒りのせいか。

……うそだ。怒りなんて持てるはずがない。相手はレベル15の権力者で、自分はレベル1の雑用係なのだから。


ただ、疲れていた。

前世でも、今世でも。どうして自分はいつも、こうして理不尽に踏みにじられなければならないのだろう。


(私……何か悪いこと、したのかな……)


落ちた資料を拾い集めながら、エリカの目から静かに涙がこぼれ落ちた。

外の雨音は、地下の暗闇にまで届くほどに強まっていた。


その夜。

仕事をなんとか終わらせ、泥のように疲弊してアパートに帰宅したエリカは、ベッドに倒れ込んだ。

夕食を食べる気力も湧かない。


外では、依然として雨が激しく屋根を叩いている。

トントン、トントン。

その規則的な音が、まるで誰かが爪先で窓ガラスを叩いているかのように聞こえた。


まどろみの中で、エリカは不思議な感覚に包まれていた。

胸の奥が、なんだかとても熱い。

冷え切った身体の芯から、ドロドロとした黒いマグマのようなものが湧き上がってくる感覚。


――殺してしまえばいいのに。


どこかで、そんな声が聞こえた気がした。


――あんな奴ら、みーんな殺しちゃえばいいんだよ、エリカ。


「……ん……」


夢か、幻聴か。

エリカは寝返りを打ち、深く意識を落ち込ませていった。


翌朝。

エリカがギルドに出勤すると、そこは昨日以上の異様な熱気と恐怖に包まれていた。

冒険者も職員も、顔を蒼白にしてヒソヒソと囁き合っている。


エリカは怯えながら、受付の少女に声をかけた。


「あの……何かあったんですか?」


少女は震える声で、エリカの耳元に顔を近づけた。


「エリカちゃん、知らないの……? マグジさんが……マグジ事務長が……」


「え……?」


「今朝、自宅近くの路地で……殺されたの。首を……刃物で深く切られて……」


言葉が、思考を通り抜けて固まった。


マグジが?

昨日、あれほど自分を罵倒し、理不尽に怒鳴り散らしていたあの男が?


バルトに続き、二人目。

どちらも、エリカの身近にいる男たちだ。どちらも、エリカを傷つけた男たちだ。


(誰が……? なんで……?)


頭の奥で、カチリと嫌な音がした。

雨は、今日も降り続いている。

まるで、全てを洗い流そうとするかのように。あるいは、不吉な惨劇の始まりを告げるかのように。


エリカはまだ知らなかった。

自分がこの手で何を成し遂げたのかを。

そして、この雨が止む前に、自分自身が凄惨な死を迎えるということを。


終わりのない死のループが、今、静かに回転を始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございました!


理不尽に罵倒してくるギルド事務長のマグジが、早くも二人目の犠牲者に……。

レベル1の最弱主人公・エリカを待ち受ける「さらなる惨劇」と「死のループ」とは一体——?


第2話『第二の犠牲者と、刻まれる死の刻印』


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