第63話 秘密のデート
7月末。
夏休みに入った校舎は、普段よりも音が少ない。
廊下に反響する足音も、教室から漏れる笑い声もない。
代わりに聞こえるのは、窓の外から流れ込む蝉の声と、遠くのグラウンドから微かに届く運動部の掛け声だけだった。
この日は、夏休み中の前期生徒会役員会議。
会議は既に終わっていたが、役員たちは誰も帰らない。
むしろここからが本番のように、それぞれの仕事に取り掛かっていた。
生徒会室の中央で生徒会長と副会長である、俊輔と陽向、そして瀬戸晴翔の三人がホワイトボードの前に立っている。
俊輔がタブレットで議事を整理し、陽向が勢いよく付箋を貼り、瀬戸晴翔が進行の矛盾をチェックする。
「文化祭進行のこの部分、体育館使用の申請がまだ通ってません」
「え?そこもう出してなかった?」
「申請書は提出済みです。ただ承認がまだです」
「じゃあ先に仮スケジュール作っとく?」
ホワイトボードにマーカーが走る音。
タブレットを操作する軽いタップ音。
紙がめくれる音。
冷房は効いているはずなのに、仕事の熱だけが部屋の中に残っていた。
瀬戸晴翔はボードの数字を確認しながら、室内を一度見渡す。
三年の役員は仕事を理解しているし、二年の役員たちも着実に覚えている。
その中で、一人。
部屋の端の机に向かって、黙々と書類をまとめている生徒がいた。
二年生会計、相田桜子。
文化祭のクラス予算申請書を束ねている。
瀬戸晴翔は、無意識に相田桜子へ視線を吸い寄せられたまま、ホワイトボードに数字を書き足す。
その時だった。
バチン!
乾いた音。
「……あー…また曲がった……」
小さな声が聞こえる。
瀬戸晴翔は視線だけ動かす。
相田桜子はホチキスの芯を抜いていた。
机の上には曲がった針がいくつも転がっている。
(なんか…苦戦してる…?)
そう思った瞬間。
バチン!!
「……もぉーやだぁ…」
今度は、はっきりと聞こえた独り言。
瀬戸晴翔は思わずホワイトボードの手を止める。
「……………。」
少しだけ迷ったあと、瀬戸晴翔は俊輔と陽向へ声を掛けた。
「ごめん。ちょっと一瞬抜けます。」
そして自分の机に戻ると引き出しを開け、私物のホチキスを取り出す。
厚い書類用のやつだ。
生徒会の仕事では地味に重宝する。
そのまま相田桜子の机の後ろへ歩く。
「はい。」
背後から差し出された手。
そこにあるのは、見慣れないホチキスだった。
相田桜子は、はっと息を止めて振り向く。
「あ、瀬戸副会長……」
いつも通りの黒縁メガネ。
いつも通りの落ち着いた表情。
なのに、差し出されたその手が、やけに救いに感じる。
「これ、僕のだけど分厚い書類も止められるやつだから良かったら使って下さい。」
「え…いいんですか?」
「学校のやつ、紙厚いの使えないですよね」
相田桜子は、ほっとしたような顔をした。
「ありがとう…ございます。」
ホチキスを受け取る手が、少しぎこちない。
瀬戸晴翔は、何気なく机の上に目を落とした。
数字のメモ。
計算途中の紙。
そこで気付く。
(……あれ)
「え、相田さん計算する時電卓の“M+”機能使ってないの?」
「“M+”機能…ですか?」
相田桜子が首を傾げると、瀬戸晴翔は自然に椅子を引いた。
すとん、と隣に座る。
距離が一気に縮まって、相田桜子の背筋がきゅっと伸びる。
「例えばこの予算表の合計出すよ?」
瀬戸晴翔は電卓を手に取り、リズムよく叩き始める。
カチカチ、と乾いた音が気持ちよく続く。
「数字打ったらM+押して、また数字打ったらM+……最後にMR。」
指先が迷わず、パチンッと弾いた。
「ほら。」
「え!すごーい!」
声が、思ったより明るく弾んでしまった。
嬉しい、助かった。
彼女の嬉しそうな声に、思わず胸の奥がくすぐったくなる。
瀬戸晴翔は咳払いをして、少しだけ視線を逸らす。
「あと、こういう細かい数字が多い時は先に1000円単位で全部一回足して、その次に端数を足して、最後に全部合計するとミスりにくいよ。」
「確かに……色々とありがとうございます!」
相田桜子は深く頭を下げる。
瀬戸晴翔は立ち上がる。
「頑張ってね。」
短く言う。
それ以上言うと、妙に優しく聞こえてしまいそうだった。
その時。
「瀬戸副会長って……優しいんですね!」
不意打ちに見上げた嬉しそうな笑顔。
言われた瞬間、瀬戸晴翔の頭が一瞬真っ白になる。
心臓がドクンと鳴る。
顔が熱い。
慌てて表情を引き締める。
「べ…別に…副会長として、役員達へのアドバイスは当然の事だから!」
言いながら、自分でも分かる。
声が、少し上ずっている。
引き締めたはずの表情の端が、どうしても緩む。
そして相田桜子は、借りたホチキスで引き続き書類を留める。
バチン。
一発で、綺麗に止まる。
その音に、相田桜子が小さく笑った。
瀬戸晴翔は咳払いをする。
(……なんだ今の)
胸の奥が、妙に落ち着かない。
別に特別なことをしたわけじゃない。
副会長として当然のことだ。
そう思い直そうとする。
それでも。
“優しい”
相田桜子が言ったその一言だけが、妙に頭の奥に残っていた。
胸の奥で、何か小さなものが引っかかっている。
瀬戸晴翔はわざと小さく息を吐き、意識を切り替えるように視線を逸らした。
ホワイトボードへ戻ろうとする。
──その視線の先で。
陽向が、じっとこちらを見ていた。
なにか言いたげな顔。
口元だけ、明らかに笑いをこらえている。
嫌な予感しかしない。
瀬戸晴翔は眉をひそめる。
「なんですか。」
戻るなり、表情をきっちり硬くする。
さっきまでの微妙な動揺を悟られないように。
陽向の口元がニヤリと釣り上がる。
「なんかやたら優しくない?」
瀬戸晴翔のこめかみがぴくりと動く。
「あれくらい、副会長なんですから当然ですよ。先輩としても。」
なるべく平静に言う。
感情を乗せない。
事務的に。
しかし、陽向はそれで終わらせない。
「えー?私には全然あんなふうに優しくしてくれないじゃん」
「なんで星野さんにっ!あなたも副会長ですよっ!しかも役員二年目じゃないですか!」
瀬戸晴翔は思わず声を荒げた。
「いや、さこちゃんにデレデレしてたね。」
「してませんっ!!」
反射で否定する。
否定しながら、胸の奥がざわつく。
そんな否定にすら、陽向の視線は完全に“面白いものを見つけた”顔だった。
「そんな事言っちゃってー!はるる〜さこちゃんの事好きなんでしょー?」
「好きじゃないです!変なあだ名で呼ぶのやめて下さいって言ってるでしょ!」
「そんな必死で否定すると、逆に怪しいって」
瀬戸晴翔は一瞬言葉を失い、すぐに反撃に出る。
「なんですぐそういう話しなるんですか。だいたい、恋だのなんだのっていつもそんな事ばっかり考えて、なんでもかんでもすぐそっちに変換するような恋愛脳の人は、頭の悪い人の傾向が──」
その瞬間。
背後から。
温度のない、静かな声が落ちてきた。
「晴翔。」
振り向くと、そこに居たのは──
「陽向とすごく仲が良さそうだね。」
怖いほど綺麗な笑顔を貼り付けた、生徒会長。
その笑顔は穏やかで、優しげで、完璧で。
それなのに、瀬戸晴翔の背筋に、ぞわりと冷たいものが走る。
「いや…っ!ぜ、全然!全く!一切仲良くないですっ!!」
反射だった。
ほぼ本能で否定する。
俊輔は、にこやかなまま続ける。
「その割には、さっきから陽向とイチャイチャ…じゃなくて、お喋りに盛り上がってて、ホワイトボードの手が止まってたよ?」
少しだけ首を傾げる。
そのまま、柔らかく言う。
「ずーーーーっと見てけど。」
瀬戸晴翔の顔色が一瞬で変わる。
陽向は気まずそうにそっぽを向いて、業務に逃げている。
「誤解です!!すみませんっ!すぐやります!もう一生喋りませんっ!」
慌ててホワイトボードに向き直る。
マーカーを掴む手が、わずかに速い。
背後で、俊輔が満足そうに小さく笑い、それから何事もなかったかのように、自分のタブレットへ視線を戻す。
生徒会室には、再び仕事の音が戻る。
マーカーが走る音。
紙がめくれる音。
タブレットのタップ音。
その中で瀬戸晴翔は、真面目な顔のまま作業を続けながら。
(さこちゃんの事好きなんでしょー?)
陽向の先ほどの言葉が木霊する。
ほんの少しだけ赤くなった耳を隠すように、マーカーを握る手に力を込めた。
────────。
その日の役員業務を終えると、二人はいつものように図書室へ向かった。
夏休み中の図書室は静かだった。
窓の外では部活動の声や蝉が途切れず鳴いているのに、室内はひんやりとした空気に包まれている。
窓際の席に腰を下ろした途端だった。
「陽向ーっ!僕の前で男子と楽しそうにしないで!僕がヤキモチ妬きなの知ってるでしょー!」
俊輔は椅子に座るなり、いつものように陽向を膝の上へ引き寄せる。
腕を回してぎゅっと抱き込み、縋るように頬をすり寄せてきた。
「別に楽しくなんてしてな……」
そこまで言いかけて、陽向の言葉が止まる。
ほんの一瞬の間。
「……くもなかったかも?」
「ほらーっ!」
俊輔はぱっと頬を離し、むくれた顔で陽向を見上げた。
「だってあんな面白案件、楽しくならずにはいられないって!」
「なに!面白案件って!」
陽向は俊輔の肩に手を置き、身を少し乗り出す。
「瀬戸副会長がね……」
そして、俊輔の耳元へ顔を寄せ、小さく囁いた。
(さこちゃんにデレデレしてたんだよ)
ふっと吐息が耳に触れる。
その瞬間、俊輔の顔がボッと一気に赤くなる。
「えぇっ!?まさか!」
驚いた声なのに、どこか胸が高鳴っている。
陽向は面白そうに笑う。
「絶対好きなんだよー!だからついめっちゃ弄っちゃった。嫉妬しないで?」
「するよっ!」
俊輔は即答だった。
「なんで?瀬戸副会長は怒ってたよ?」
「陽向が楽しそうだった!」
陽向はきょとんとする。
俊輔は少し拗ねた顔で続けた。
「楽しそうな顔が……可愛かったの!だから晴翔にも見られたくなかったんだよ!」
その言葉に、陽向は一瞬だけ黙った。
それから、小さく笑う。
「俊ちゃんだけだよ?男子で私のこと可愛いなんて思うの」
俊輔はすぐに首を振る。
「そんな事ない。絶対ない。」
「ブスは散々言われてきたけど、男子から可愛いなんて言われた事ないよ?」
俊輔の眉がぴくりと動いた。
「誰がそんな事言うの?こんなに可愛い陽向のこと」
そう聞かれて、陽向の頭に浮かんだのは──
朔也の顔。
それから、小学校や中学校で笑っていたクラスメイト達の顔。
「幼なじみとかー……地元の子達とか……?」
俊輔の表情が一気に険しくなる。
「許せない!」
陽向は肩をすくめて笑う。
「私メイク詐欺だからね」
軽い冗談のつもりだった。
けれど、その言葉を聞いた俊輔の視線が、ふと陽向の顔に止まる。
「えー?」
そして、まじまじと見つめてくる。
近い。
思った以上に近い。
奥の瞳が、真っ直ぐに陽向を捉えている。
「そんなふうに見えないけどなぁ」
その視線から逃げられない。
心臓が、どくん、と大きく鳴る。
陽向の頭の中で、自分の顔の構造が急に意識され始める。
アイテープで作った二重。
カラコンで大きく見せた黒目。
涙袋に入れた影。
チークとリップで作った血色。
その全部が、今この距離で隅々まで見られている気がした。
(やばいやばいやばい……)
俊輔の指が、ふと陽向の頬に触れた。
ほんの軽く、確かめるみたいに。
「…………陽向の顔…」
一瞬、言葉を探すように間が落ちる。
俊輔の視線が、熱を帯びる。
「……好きだけどな」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
陽向の頭の中で、警戒アラートが鳴り響く。
顔が熱くなる。
心臓が一気に暴れだす。
その瞬間、警戒アラートを遮るように、ふと頭の中にある事実が浮かんだ。
「やばー!伊豆で私スッピンになれないじゃんっ!」
思ったことが、そのまま口から飛び出した。
俊輔は、ふと思い出したように言う。
「あ、お母さん大丈夫だったの?」
まるで何気ない確認みたいな声。
けれど、その一言が陽向の胸をきゅっと締め付けた。
「えーと…それはぁ………」
言葉が続かない。
陽向の目が泳ぐ。
“大丈夫だったよ”と言えばそのまますんなり行けるだろう。
“無理だったよ”と言えば、恐らく今回は諦めようと言われる。
行きたい。
どうしても行きたい。
でも…………………
やっぱり俊ちゃんに嘘はつけない。
「咲の家に……泊まりに行く体で行こうか…な…と……」
「えぇっ!?それは駄目だよ!」
俊輔は、ほとんど反射のように答えた。
(ほらやっぱりーーーー!)
「だって聞いたら無理だったんだもん!」
「お母さんに…嘘つくって…事?」
俊輔の声は、驚きと戸惑いが混ざっていた。
「うーん……ダメかな……」
陽向はそれでも食い下がる。
すると俊輔から返ってきた言葉は、あまりにも予想外の言葉だった。
「うーん……ぶっちゃけ僕も……母親に陽向と行くって事、実は言ってないんだよね…」
「えぇっ!?どゆ事!?」
陽向は驚きで目を丸くした。
俊輔は苦笑いを浮かべながら言った。
「いや僕受験生だし、8月下旬は本当ラストスパートだからそんな彼女とデートとか絶対許してくれないし…」
俊輔の声は段々と弱くなっていく。
「だから…1人でリフレッシュ目的で…静かな環境で集中しながらエッセイの最終仕上げしに行きたいから…って…」
「嘘じゃんっ!!!!」
陽向は思わず全力でツッコんだ。
俊輔は、困ったように笑う。
「ウチは平気だけど……陽向のお母さんが無理だと…女の子だし…バレた時どうかなぁ……」
陽向は眉を寄せた。
「ウチこそ平気だよ!….でも俊ちゃんは次期社長の御曹司なんだから…バレたら…俊ちゃんの信用が…」
言葉が、途中で止まる。
「…………。」
「…………。」
重たい沈黙が落ちた。
二人の額に汗が滲む。
自分の家の問題なら、自分が怒られるだけで済む。
けれど、相手の家族にも嘘をつくとなると話は別だ。
俊輔は、ゆっくり息を吐いた。
「…………一旦………保留にしようか……」
「えーーっ!!??」
陽向の声が、思わず大きくなる。
「やだやだやだ!!絶対どうしても行きたいの!行けなかったら後悔するもん…別に怒られてもいいし、バレても死ぬわけじゃないし!」
言いながら陽向は、俊輔にぎゅうぅっとしがみつく。
胸にちょこんと顎を乗せて、縋るように見上げてくる。
その瞳は真っ直ぐだった。
「私は俊ちゃんとの今がどうしても欲しいの!」
その必死のお願いはどうしようもなく可愛くて。
真面目で誠実に生きてきた優等生の心を、どうしても危うい方向へ引っ張ってしまう。
「……………う〜〜〜〜〜〜〜〜ん……」
俊輔の胸の中で、感情がぐるぐる回る。
心配。
責任。
リスク。
葛藤。
そして——陽向への想い。
「陽向のママはどうして無理だって?」
「妊娠するからって」
「妊娠っっっ!!!??」
陽向の口から飛び出したワードは、あまりにも衝撃的だった。
ケロッと言っている彼女は、母親の言葉の意味を深くまで理解しているとは到底思えない。
「厳しすぎるんだよ!彼氏出来たって言ったら、家行くなとか、カラオケとか密室行くなとか、二人きりになっちゃダメだって、そんな高校生カップルありえないよ」
俊輔は確信した。
この旅で、陽向の母親が恐れている事はたったひとつだ。
間違いない。
それは——
“一線を越えること”
だからそんな“妊娠”だなんて極端な言葉で娘を脅かしている。
彼女が嫌がる事は絶対しない。
怖い思いもさせたくない。
高校生として、節度のある純粋な付き合いをして、彼女との関係を大切にしたい。
その気持ちに誓って嘘はない。
未成年同士の不純など、絶対に許されない。
そんな事は百も承知で。
その掟を破るなどという不誠実は、自分で自分が許せない。
陽向とは、綺麗な関係でいたい気持ちが強い。
でも、もしも──
陽向が、違う態度をしてきてたら……?
この旅で、陽向がどんな態度をしてきても。
僕は…………
僕を保てると、言い切れる自信がある?
自分には、一度前科がある。
理性を失い、衝動のままに、陽向の気持ちを考える余地もなく。
あんなふうに一方的に唇を奪った事を、今でもとても後悔している。
俊輔は、衝動を押さえ込むように陽向をぎゅっと抱きしめた。
腕の中で抱きしめる彼女の温もり。
頬を寄せる髪の香り。
全部が柔らかくて、愛しくて堪らない。
途端に怖くなる。
旅を決行するのは親への不誠実。
ひとつの嘘で動いた不誠実な心は、別の不誠実な心の境界線を壊してしまわないだろうか。
陽向を連れて行く事が親にバレる怖さだけでは無い、別の怖さが競り上がる。
“彼女の全部が欲しい”
もう一人の自分が、本来の自分を壊してしまったら……どうする?
「……………陽向は………何が起きても平気なの……?」
震える腕で抱きしめながら、自分の怖さを口にした。
その確認は、“覚悟”だった。
陽向は、俊輔の問いを少し考えた。
“何が起きても”
親から電話が掛かってきたら、怪しまれずにやり過ごせるのか。
もしもバレたら、その後どうなるか。
きっとめちゃくちゃ怒られて、最悪彼氏と別れろって言われるかもしれない。
そうなったら、どうせ3月に別れる事を言えばいいんじゃないか。
後先の事なんて、考えられない。
私には“俊ちゃんとの今”しかない。
「私は、俊ちゃんとなら大丈夫だよ。何が起きても。」
「………っっっ!!!???」
俊輔の心臓は飛び跳ねた。
ドクン、ドクン、ドクン、と心臓の音が耳まで届く。
“何が起きても”のお互いの認識がズレたまま、会話は進んでいく。
心の奥で、何かが静かに崩れる。
「……………わかった…….行こう………」
僕は、どこまで堕ちてしまうのだろう。
「まじ!?やったー!!楽しみ!!」
俊輔の腕から離れてぱっ顔を上げる。
嬉しそうに笑いながら、少しだけ不安そうに言った。
「めっちゃ怖いけど……笑」
「正直僕もめっちゃ怖い……」
ドキドキ……
ドキドキ……
二人の間に、色んな緊張や不安を巡らせる沈黙が落ちる。
「……なんか………駆け落ちするみたいだね……」
「駆け落ち!?」
陽向の言葉に、俊輔の声が裏返る。
少し照れながら笑う陽向。
「そんくらいのドキドキ感だよ」
頬を染めながら、緊張している彼女の顔が堪らなく可愛い。
「秘密のデートだね」
俊輔も頬を染めながら、釣られて笑みを浮かべた。
陽向も嬉しそうに答える。
「絶対絶対バレない、秘密のデートにしようね」
こうして純粋な高校生二人の、危険とリスクが隣り合わせの秘密のデートは、静かに決行へと舵を切った。




