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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『作り笑顔と陽の姫君(ソル プランサス)』
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◆VSノワイエ 後編

 

 京平さんのナイフ捌きは、ある意味でわたしの予想を越えていた。大道芸のような派手さはなくても、手慣れた様子で剥いていく速度は十分に早いと呼べるレベルで――


 わたしとどちらが早いんだろう。


 不意に感じる疑問と好奇心が言葉になるまで、時間はかからなかった。


 渋る様子を見せた京平さんに、もしかして嫌な事をさせようとしているのでは、と思うと罪悪感を覚えます。勝負はしたかったけれど京平さんが嫌なら、と……

 


 しかし同時に、強く願えば優しい京平さんは断らないかもという予想があった。そんな打算的な考えに、やっぱり止めようとするわたしに対して、京平さんは勝負を受けると答えてくれた。


 そこから罰ゲームを提案する辺り、京平さんも本気で相手をしてくれるようで、わたしの中の困惑には一度蓋をする。せっかくの勝負、わたしも本気で望みたかったから――



 宙を舞うルビルを見ながら、一瞬の回想に、感謝を初めとした万感の想いを込めてわたしの手が空を踊る。



 『風刃乱舞(ダンシングストーム)



 心の中で告げる力の名前は、先の光景を再現するように体現される。風で作られた不可視の刃にルビルは半分、四分割と宙を踊りながら数を増やし、赤い表皮を切り裂いていく――


「っ……!!」


 見る見るうちに白い果肉を見せるルビルを注視して、剥き残しがないかを確かめ、鍋へと飛ばす。時間はこれまでで最短、確かな手応えにわたしは思わず京平さんの方を見た。



 いや、"見てしまった"。



「…………」


 鋭い視線は真剣そのもの、そこにはルビル以外に映っていない。一瞬さえも止まることを許さないように動かされる手捌き。

 まだひとつも終わってないけど、全てのルビルが四分割に切り分けられて――



 慌てて視線を戻して作業を再開する。まだ終わったわけではないのに、わたしは何をやっていたのか。叱責の言葉は心中に、ルビルを宙に放る。



「あ……」



 こぼれ落ちたのは言葉とルビル。歪んだ形のルビルはわたしの指先を嘲笑うように明後日の方向へと飛んだ。運が悪かったのか、焦っているせいか。きっと両方。



 悔やむより先にと落ちたルビルを拾い上げ、皮むきを再開する。歪な形をしているせいか、皮が剥きにくいけどどうにかふたつ目。早く次を――



「……後少しか」


「え……!?」



 突然聞こえた京平さんの言葉に、まさかと視線を向けると……そこにはまだ皮を残したままのルビルが幾つか、少なくともまだ終わりそうもなく――



「うん? どうかした?」



 不適な笑みを浮かべながらわたしを見る京平さんに、まさかと驚いた。この間にも京平さんの手は止まらない。



 わたしの手を止める為に呟き、動揺を誘ったというのでしょうか。それはまんまと功を奏してしまっていた。



「っ!!」



 慌ててルビルを取ろうとして、わたしは気が付いた。机の上に並ぶルビル、そのどれもが形の悪いルビルである事に。



『それじゃ、俺のルビルはコレね?』



 思えば、京平さんが選んだルビルはどれも比較的形の整った物ばかりで――



「ふ、ふふ……」



 どこかから聞こえる笑い声に、わたしは遅れて自覚する。自身が笑みを浮かべている事に。



 京平さんが、優しい? 正々堂々と言っておきながらも既に有利な立場を用意して勝負に望んで、動揺を誘ったりしたというのに――



 本気で勝負してくれている。手段の清濁関係なく、わたしを負かすつもりで勝負してくれている。



「このくらいで負けませんからね……!!」


 だったら、だからこそ。わたしも本気で望むべきだった。始めから勝負を挑んでおきながら、手加減無用と言っておきながら、侮っていたのは、同情していたのは、全部わたしだった。



「"吹き抜ける風よ"……踊れ、踊れ――」



 ルビルを放る。ひとつ、"ふたつ"――



「踊れ――」



 放り投げる真っ赤なルビルが3つ、宙に浮かんで、回転を始める。歪な形が球へと変わり――



「恵みをもたらす果実よ。風と共に踊りし果実たちよ」



 赤い皮が剥がされて、白い果肉を晒す様はもう何度も見た。



 ――だったら、もう形は関係無い。



「ピーリング(剥けなさい)」



 横薙に振るう腕と共に下した命令に、赤い表皮は軽い音を立て、帯状に虚空へと舞った。



「カッティング(割れなさい)」



 続いて薙いだ腕を振り下ろす指揮に応えるように、3つのルビルが同時に割れる。心地よい光景だ。わたしが命じるままに、ルビルはその身を裂き、砕くだろう。いっそのことこのまま――



「よしっ、終わりっ!!」


「え?」



 ◆ ◆



 久し振りの下処理作業という事もあって、指の筋肉からは、じりじりとした痛みを感じる。なんだかんだで鈍っていたらしい、指を切りそうになった場面もあったしな。



「ノワイエの方は……って、うん?」



 妨害工作もしたけど、途中からは完全に皮むきに没頭していたせいか、ノワイエの作業状況がさっぱり判らなくなっていたんだけど……



 ただ、なんか凄いことになっていた。としか言えない光景がそこにはあった。



「えっと、ノワイエ。 "それ"って、なに?」


「ルビル……だとは思うんですけど、わたしもちょっと自信が……」



 困惑気味に苦笑するノワイエの周囲には、"ぐちゃぐちゃになった白い果肉"のような何かが散乱し、辺りには甘酸っぱい匂いが広がっていた。



「あ……それよりも、片付けないとですね」


「まぁ、そうだけど――」



 何をしたらこんな事になるのか。それを聞こうにも、当の本人も覚えのないと言わんばかりに欠片となったルビルを拾い上げていた。流石に使えないにしろ、もったいないなぁ。



「勝負は、わたしの負けみたいですね」


「え? あ、そうなの?」


「はい。皮むきするだけのルビルをこんなに台無しにしちゃってますし……」



 傍らに落ちているのはルビルの皮か、歪な形ばかりだったなかのルビルの皮にしては綺麗に剥けていた。


 どうやって剥いたのやら、細かな凹凸に沿って切られた皮は常識では考えられないだろう。少なくとも、皮むきの段階ではノワイエの方が早く終わっていたのかも知れないな。



 ついつい夢中になりすぎましたね。と苦笑するノワイエにどんなフォローをすべきか。少なくともいつまでも広げているような話題じゃないのかも、無惨に砕かれたルビルの為にも。



「罰ゲームは、まぁその内考えておくよ」

「楽しみにしてますね、次の勝負も」



 またやるのか。だが、負けっぱなしは嫌なのだろう。負けず嫌いなノワイエに俺は笑いながら応えるのだった。

謎の繁忙期により更新が滞った事をお詫び申し上げます。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

一次審査結果まで約一週間……胃が痛い。


感想がほぼないのは話がつまらんからなのかしらとネガティブ堕ちしている私に誰か愛の手を。とクレクレしてみるテスト。痛くしてもいいのよ←

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