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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
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◆ノワイエ救出作戦 ―起―

 

 忌まわしき魔女の処刑。


 大々的に公開されるこの出来事に、貿易都市ディスティーネには処刑を一目見ようと大勢の人々が足を運んだ。


 誰もが嘆き苦しんだ災害の病魔、それを引き起こしたとされる人物が出て来るのだ。本来であれば暴動が起きてもおかしくはなかった。


 しかし、結果的とはいえど処刑される当日になるまで表立った出来事は起きぬまま、その日を迎える事が出来たのは、裏で動く者がいた事もそうであるが――



 集まる民衆の一部から動揺が走った。それは多くの者の目に付くようにと建てられた処刑台へと上がる者の姿を見たからだ。 

 この都市の生まれである者達の心中はそれぞれに複雑な模様を描いていた。


 『創生者(フロンティア=フォーティーン)』である者達から生まれた存在に対する敬意、そして畏怖。


 彼女が育つ過程を共に過ごした者のなかでさえも、伝え聞いた話の真偽を計りかねる者、偽りと信じるも行動に移せぬ者、そして家族や知人の仇だとその目に憎悪の念を抱く者がいた。


 だが、集まる者の殆どは彼女の生涯とは関わりのない者ばかり。災害の病魔を引き起こした存在という事程度しか彼女を知らない。


 知らない者がどよめきに声を漏らした。


 世界中の人々を恐怖に突き落としたとされる存在が、たった独りの少女である事に。


 それと同時に、今になって驚愕する者がいた。


 神王国にて聖女と名を馳せた存在が、なぜこの場にいるのか。まるで彼女こそが魔女であると言わんばかりに立たされているのか。


 神王国から彼女を連れてきた兵士達ですら知らされなかった。その意図も混乱の渦中では推し量る事も出来ない。


 多くの死をもたらした仮面の存在、死すべき存在。一介の兵士にはそれしか知らされていなかったのだ。



「なん、で……」



 監視の役を果たす櫓に立つ兵士もまた、そのひとりであった。この事態を自問する。


 美しき衣を纏い、微かに揺らす髪もまた美しき白銀。幼きながらも端正な顔立ちはまさに神々が作り上げたのではないかと見紛う程。何よりも傷付いた人々を癒やす光を携えた姿。それは聖女以外の何者でもない。


 まさに正義を志す者が守るべき存在。それがなぜこのような場所にいるのか。


 あれでは、まるで……自分達が連れてきた仮面の者が、処刑されるのが彼女であるようではないか。



 兵士達は、ここに来て初めて聖女が処刑される事を知った。同時に、聖女と崇めた存在の何も知らなかった事に。



「民よっ!! ここに、かの咎人……聖女ノワイエを断ずる!!」



 ただひとり、彼女を知る白き鎧を纏う男がそう力強く宣言した。その言葉に、ノワイエは男に驚きの視線を向ける。


 自身はこの世界に災厄を招いた存在、憎むべき存在として処されるべきなのに。聖騎士の口上ではその意味を果たさないと――



「かの咎人の罪。それは最終神極世界(ラグナレク=エンド)に住まう人々を死の病で以て絶望の淵へと追いやった事にある!!」


 しかし、続く言葉に大衆は声を上げて応える。彼女の死を望む声を。



「神王国デウスヘイナードは……かの魔女を処す!! 正義を以て断罪の刃をここに突き立てる事を……誓おう!!」



 聖騎士が掲げる手に光輝く剣が生まれ、人々の喝采がその強さを増した。


 だが、兵士達は混迷する心中のなかで気が付いた。隊長である彼の持つ剣に対する"違和感"を――



「我が名は王国近衛聖騎士(パラディン=ロード)、聖白鎧(ホーリィ=クルス)ヴァイス=ウィスタル!! 咎人よ。贖罪の時である!!」


 聖騎士の剣がその光を強くさせると同時、周囲に薄暗い熱が満ちると同時。



 それは処刑台へと落ちてきた。



 歓声を裂く程に強い音を響かせた着地と共に、現れたふたりの人物。子細を隠すように身体を覆うローブ姿は、誰が見ても不審であり、望まれぬ来客を予感させた。



「翼竜か。貴様ら、何者だ」



 役目を終えたのか彼方へと飛び去る影を一瞥し、聖騎士は改めて黒衣を纏う者を見やる。問いかけながらも、予想は付いていた。昨日の河原で彼女を庇い、連れ出した少年と監視を妨害してきた少年のふたりだと。



「聖女ヲ、返シテモラオウカ?」


 黒衣のひとりから発せられたのは、到底人の物とは似ても似付かない音だった。老若は疎か、男女の区別さえ隠蔽する作り出された声に一瞬だけ聖騎士は驚く。


 恐らくは、その顔を覆う仮面の効果か。風の噂程度に技術国家が似たような物を作り上げていた事が脳裏を掠める。


 当初は視界を遮る陳腐な物だと一笑に付したが、実物を見るとなるほどどうして実体を探れぬ者へと至らしめる物だと感心すら覚える。



「ふたりとも、どうして……!?」


「守ルタメニキタ。ソレ以外、ナニガアル」


「っ!?」



 一歩前を出た黒衣の存在に、なぜかもう一人の黒衣はギョッとして相方を見たように聖騎士には見えた。


 ノワイエも予想していなかったのだろう、このふたりの登場に。だが、聖騎士は違った。



「小物風情と侮りはしたが、訂正しよう。騎士道すら感じるその気概、誠に以て見事」



 予感はあった。


 自身が同じ立場であれば同じ事をしたと。何かしらの策はあれど、こうして正面に立つとは聖騎士を名乗るこの男でさえ思わなかったが……それが余計に嬉しくもあり、愚かさに苛立ちもする。



「お願いですから、もうわたしに構わないでください」


「ノワイエ、オレノ事ガ嫌イナラ……素直ニソウイエバイイ」


「ッ!?!?」



 懇願するノワイエに対して黒衣の誰かは更に一歩前へ、決して広くはない壇上、ノワイエと黒衣の距離はもうすぐ傍にある。しかし、挙動不審な動きを見せるもう一人にも聖騎士は警戒を緩めない。



「嫌いなわけ……嫌いならふたりに助けてほしくなんて……っ!?」



 思ってもみなかった言葉と言わんばかりに、ノワイエは口を噤む。聖騎士も胸中で思わぬ安堵を抱いた。


 殺してほしい。そんな言葉を、烏滸がましくも娘のように慕う少女の口から出たときは自身の立場を呪いはしたが――



「助ケテミセルヨ。必ズ」


「聖騎士ヨ。勝負トイコウカ」



 並び立つ黒衣の存在。


 聖騎士はそれに相対しながら、その口元に笑みを浮かべた。

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