◆ノワイエ救出作戦 ―承―
「た、隊長!! 我らも賊の排除を――」
「兵達よ!! 迷い有る弱者は不要!! 周囲への警戒を厳と成せ!!」
処刑台の壇上へと集まろうとする兵達に対し、聖騎士は剣を振りかざして制する。事実、広場は騒然とし始め、反対勢力がいるのであれば格好の状況である。
その瞬間、聖騎士目掛けて黒衣から放たれる鎖。しかし、それは聖騎士の振り抜いた剣により両断された。
「不意打チヲ卑怯ダト言ッテクレルナヨ?」
先制の失敗、それを感じさせぬ程速く、しなやかに追撃の一手は打たれる。黒衣の両袖から伸びる鎖は、変則的に鞭を思わせる動きで聖騎士へと殺到する。
「構わぬ。貴様らの悉くを許し、裁こうではないか」
――腕を上げたか、元よりの技量か。それとも……
堅実且つ迅速な剣捌きで対応する聖騎士は、昨日とは違う動きを見せる黒衣の少年を思い、しかしながらの違和感の残滓を覚える。
それ以上の思考は、鎖鞭と剣刃が交差する空間を駆けるもうひとりの黒衣へと裂かれた。決して速いとはいえない速度での接近を許すのは、偏に黒衣の鎖使いの牽制に寄るものか――
判断は一瞬にも満たない。人は疎か魔物との戦闘で培った経験は、迷いを許さない。
「砕ケチマイナァッ!! 『豪拳撃(メガ=インパクト)』ッ!!」
「下らんっ!!」
剣と共に振り上げる両手は、それまで拒むように捌いていた鎖に絡みつかれながらも、正面から迫る黒衣の正拳へと振り下ろされ――
「ッ!?」
寸前、何かが弾ける音と共に聖騎士の身体が不自然に震え、その迎撃の剣が止まる。
絶好の機会。
打ち出す拳の勢いは、これ以上ない最大限の威力で聖騎士の鎧を打つ。ガツンと響き渡る打撃音の大きさに倣って聖騎士の身体が後ずさる。
――致命的というレベルではない。むしろ損傷は軽微と呼べるだろう。
何事もなかったように体制を立て直してみせる聖騎士。だが、看過しがたい現象に見舞われていた。
「思ウヨウニ動カナイカ?」
「毒、いやこれは……」
痺れにも似た感覚の鈍りに聖騎士は忌々しげに黒衣の鎖使いを睨む。明らかに怒気を込められた視線と威圧的な空気に、黒衣の拳闘士は微かに後ずさる。
「貴様、来訪者か? その声を変質させる仮面といい、"稲妻の力"を宿す武器といい――」
「答エル義理ハ……ナイッ!!」
予定通り、動きが鈍くなった聖騎士へと再び鎖鞭を操る鎖使い。その勢いはこの一撃に集中している為か、それともこの機会に隠していたのか、これまでとは段違いに鋭い。
「だが、種さえ判れば容易」
「ナッ……!?」
鎖は木製の壇上を容易く削り取った。しかし、それは同時に不発を意味する。微かな体捌きで回避に成功した聖騎士は、勢いをなくした鎖を掴み、ひと息の間もなく一気に引く。
「クッ……!!」
鎖を手放さなければ引きずり込まれていただろう。しかし、只では渡すつもりもないと振るった袖から放たれたのは小刀。その判断力は余りにも卓越されたものであり――
「笑止っ!!」
にも関わらず聖騎士は、片手に握る剣で切り払う。それだけでなく、絶妙にタイミングを外してやってくる黒衣の拳闘士が放つ蹴りを掴み、身体ごと床へと叩きつけた。
「グッ……化ケ物ミタイナ強サダナ」
「その覚悟はしてきたのだろう? まずはひとり――」
「駄目っ!! 逃げてブリッツ!!」
剣を振りかざす聖騎士に、ノワイエの悲鳴にも似た叫びが響く。
しかし、結果としてブリッツに剣が届くことはなかった。聖騎士の背後、広場の一角から一直線に走る"赤"が聖騎士に"着弾"、同時にそれは炎となって聖騎士だけを燃やし始めたのだ。
「ぐぉぉ……!?」
「何ガ起キテ……ダガッ!!」
黒衣の拳闘士、ブリッツはこれを好機とした。恐らくは千載一遇とも呼べる程の機会、逃すような馬鹿はやらかさない。炎に身を焦がす聖騎士の身体に鎖使いからの鎖が巻き付き、自由を拘束する。
「食ライヤガレ……『豪拳破砕撃(クラッシュ=インパクト)ッ!!』」
充分な捻転から繰り出された一撃が、炎に包まれた白き鎧。無防備なまでに晒された腹部を拳が打つ、同時に激突部から小さな爆発、その衝撃に聖騎士の身体は広場へと吹き飛ばされ、落ちていった。
「ヤッタカ……!?」
白煙を上げる拳をそのままに、ブリッツは背後から来た黒衣の鎖使いに頭を叩かれた。
「今ノ内ニ逃ゲル……事モ、厳シイカ」
疲れたような溜め息を吐きながら、黒衣の鎖使いはその視線を聖騎士が倒れた方向へ向ける。
「ブリッツ、プランB」
「アイヨ。ノワイエ、大丈夫カ?」
「ブリッツ……なんでこんな無茶を……」
「……腐レ縁ッテヤツダヨ」
拘束らしい拘束もされていなかったのは予想外だが、手間が省けるとブリッツが予定していた脱出経路へと視線を向ける。
「不味イ……ブリッツ、走レ!!」
「マジカヨ……!?」
警告の声にブリッツはノワイエの手を取って走り出そうとするが――
「そう、上手くいくと思ってか?」
その声は"頭上"から、多少の傷や煤を付けた聖騎士がブリッツの目の前に着地し、現れた。




