後城惣一:転入生2
スキルと言えば魔術、という風潮が確かに存在している。
見た目が派手で判りやすく、遠距離攻撃ができる。特に遠距離攻撃ができるというメリットは大きい。CODでも遠距離攻撃手段を持つ魔術タイプの方が絶対的に有利とされている。
そのせいで魔力が少しでもあると魔術使いを志してしまう傾向が強い。
俺としては苦々しく思うしかない風潮だ。
別に俺自身が近接戦特化型だからではない。
実際の戦闘は魔術タイプだけではできない。前線で敵を食い止める近接戦型の役割も重要だ。だから生徒達には風潮に流されず、自分の適性を正しく判断して近接タイプか魔術タイプかを選んで欲しい。宇美月学園ではSコースとMコースの生徒数がほぼ半々となっていて、一見バランスは良いように見えるのだが、近接戦タイプで実際に戦えるレベルになれる生徒は魔術タイプに比べて少ないのが実情だ。
そんな時に転入してきたのが、純粋な近接戦タイプである天音桜だった。
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ある日の昼休み、学食で昼食を済ませてから職員室近くにある喫煙スペースに向かった。学園内で煙草が吸えるのはここと学園長室だけだ。個人スペースである準備室も、生徒が訪れる事もある場所のため禁煙になっている。
先客として数人の教師がいた。軽く挨拶して煙草に火を付ける。最初に一息大きく吸うと四分の一程が灰になった。吐き出した大量の煙は、吐き出す傍から天井に設置された空気清浄機に吸い込まれていく。お陰で喫煙スペースの空気はいつもクリアだ。
「後城君の吸い方はいつ見ても豪快だね」
声をかけて来たのは先輩教師の村上先生だ。三十代半ば、剣術系の授業を担当している。
確か天音が選択している剣術実習にもいくつか村上先生の担当があった筈だ。
「村上先生、うちの転入生の天音ですが、どうですかね?」
訊ねると、途端に村上先生は苦笑を浮かべた。
「彼女は……僕にはどうにもできないなあ。とにかく手数が多くてね。その上こちらの攻撃は全部先読みしてしまうし。天音流については知っていたつもりだけど、まさかあそこまでとはね……」
「そこまでですか」
「そこまでだよ」
天音については相当やるだろうと予想はしていたのだが、村上先生にここまで言わせるとなると、俺の予想は上方修正する必要がありそうだ。
村上先生は特殊な物を除けばあらゆる武器を使いこなせる。片手剣、両手剣、斧に槍、なんでもござれだ。難を言うならどれもが一流手前止まりだという事。器用貧乏を絵に書いたような人なのだ。
だが、幅広く手を出しているのも、近接戦スキルの教師として生徒に幅広い選択肢を与えようという理由からだ。戦力評価としては二線級でも、教師としてなら一線級だ。
そしてここで言う二線級とは、魔族と戦うには少しだけ足りない、それくらいのレベルだ。
「天音流はスピード特化の回避型。小回りと防御を考えて片手剣と小盾を使ったんだけれど、時間切れにならなければ一本取られていたな」
様々な武器が使える村上先生の強みは、相手の武器に応じてスタイルをがらりと変えられる事だ。天音流の特徴は先生が言った通りであり、片手剣と小盾の組み合わせも悪くないと思える。
「天音は第四世代、あれでもう十年以上も鍛錬を続けていますからね。それよりも普段はどんな様子です? 天音は第四世代な上に以前は普通科の高校に通っていたんです。ちゃんと馴染めていますか?」
「……孤立しがちな第四世代って奴だね」
「はい。霧嶋を案内役に付けてますから大丈夫だとは思うんですが」
第四世代は幼いころから親にスキルを教えられている。
そしてそんな第四世代は孤立した子供時代を送るケースが多い。
理由は単純。
スキルを持たない第三世代は、スキルを持つ第四世代が怖いのだ。
なにしろ相手は自分を簡単に殺せる。そんな事をするかどうか、相手の人間性は関係ない。事実としてそれが可能であるなら、やはり怖いのだ。自然と距離を置くようになる。友人などできるはずがない。高校となれば状況は更に悪い。周りにいるのはスキル適性が無いと診断された子供ばかりだし、スキルがどんなものか具体的な知識も増える。怖さが知識によって補強されるのだ。
もちろんこれは一般的にそのような事例が多いというだけの事で、天音個人がこれまでどうだったのかを俺は知らない。知らないが、天音と接して受けた印象では、多かれ少なかれそのような体験をしていたようだった。
心配なのは天音のコミュニケーション能力……と言ってしまうと大袈裟すぎるか。要は、友達付き合いがちゃんとできるのか、だった。
だから霧嶋が案内役に立候補してくれたのは、正直に言えば有り難かった。
霧嶋は騒がしいし奇行に走ることもあるし、たまに困ったこともやらかしてくれる。例の改造着衣データがその最たるものだ。が、基本的に邪気が無い。物怖じしない性格をしているから天音の懐にも入り込めるだろう。霧嶋も第四世代だから、その辺りは心得ているはずだ。
「僕が見る限りでは問題ないと思うよ。霧嶋君だけではなく、他の生徒とも普通に接しているし、そうだ、特にD組の姫木君と仲良くなっているみたいだね」
「D組の姫木……ああ、あの背の高い女子ですか」
「そうそう」
D組の姫木なら知っていた。あいにくと俺の担当する授業は選択していないから詳しいスタイルまでは知らないが、第三世代ながら急速にレベルを上げている有望株だと聞いている。ついでに言えば天音が転入してくるまでは学内で一番背の高い女子だったはずだ。
吸いきった煙草を吸い殻入れに投げ入れ、村上先生に礼を言って喫煙スペースを後にした。
担任教師とはいえ、生徒が俺の授業を選択していなければ会うのは朝と放課前のホームルームだけ。日中の動向までは知りようがない。天音が孤立せずに友人関係を築けているなら一安心だった。
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七月に入ってからの職員会議で、秋に行われる学園祭の内容が通達された。
CODによる全学年でのクラス対抗戦。
正副二名の代表選出となったのだが、これをホームルームで決める際に一悶着あった。
2-Bには第四世代の魔術使い、三条珠貴がいる。入学以来、CODを使った一対一の試合では無敗記録を伸ばしている。代表を二人選ぶなら一人は三条で決まりだった。
二人目を選ぶ段になって場が荒れた。
いつもの調子で霧嶋が立候補してくるかと思えば、なんと天音を推薦してきた。人選としては間違っていないのだが、どうにも天音本人は乗り気でない様子だった。霧嶋を始めとするSコース選択組が猛プッシュをかける中、辞退しようと発言の機会を窺っていたようなのだが……。
いや、あれは凄かった。
三条の取り巻きの一人が近接戦タイプを軽んじる発言をした途端に、天音の気配ががらりと変わったのだ。怒気……と言うよりも殺気に近かったと思う。強烈なそれは一瞬で教室を満たし、喧々囂々と言い合っていた生徒達を沈黙させたほどだ。
幸いそれはすぐに引っ込んで、天音も「しまった!」と後悔していたようなので不問に付したが、本来なら厳重注意が必要な所だ。まあ、俺も近接戦特化型として先の発言には思うところもあったから、その後の天音の啖呵には内心喝采を送ったものだが。
話の流れで代表に決まった時の天音の微妙な顔が印象的だった。
冷静沈着なようでいて、意外と勢いで失敗をするタイプなのかもしれない。
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「と、いうような事がありましてね。日取りを決めて正副の代表決定戦をやることにしました」
その日の放課後、俺は学園長室に堂島学園長を訊ねていた。
「ほう、それは面白そうじゃないかね」
にやりと笑みを浮かべる学園長は、怪しい組織の幹部のような雰囲気を醸し出している。その雰囲気に反してスキル所持者としては堅実な経歴の持ち主だ。実力派の魔術使いとして二期八年間の結界勤務を経て、その後は後進の指導に当たっている。俺も学生の頃にはお世話になっており、その縁で宇美月学園に招かれたという経緯があった。
「私も三条君の評判は聞いている。シングル戦無敗だそうじゃないか」
「そうです。まあユニークスキル封印前の霧嶋とは試合をしてませんがね。やっていれば一敗はあったと思いますが」
「……霧嶋君か。あれ以降は落ち着いているのかね?」
「落ち着いているとは言えませんが、まあ多少騒がしいくらいがあいつの平常運転ですからね」
学園長が言う『あれ』とはもちろん着衣データの件だ。
霧嶋のユニークスキル『破神』は非物理攻撃を完全に無効化する。魔術スキルしか使えない生徒では絶対に勝てない。学園の教育方針として「多少レベルが足りなくても創意と工夫で活路を開け」というのもあり、霧嶋が破神を使って無敵状態になるのは都合が悪かった。
はっきり言ってしまえば教師側の都合でしかないのだが、事情を聞いた霧嶋は自粛要請を受け入れてくれた。とは言えそれが原因で三条に負けたりもして、やはり面白くなかったのだろう。その腹いせが着衣データの改造だったのだとすれば可愛い物だ。
……さすがにほぼ全裸の着衣データは認められないから使用禁止にされたが。
「三条の強みはシングル戦に特化した呪文を持っている点ですね。一言呪文の攻撃速度は侮れない」
シングル戦での三条の戦い方は極めてシンプルだ。とにかく先に攻撃を当てる。一撃当ててしまえば相手の動きが鈍るから、さらに追撃を加えていって決着するというパターンだ。それだけならば開始線間の距離等CODのシステムに依存した強さに見られがちだが、三条の場合はシステムを理解した上で最適な呪文を自分で記述している。違うシステムであれば、また違う呪文を用意してくるだろう。
「対する天音君は天音流剣術の使い手。おもしろい、これは本当に面白い試合になりそうだ」
学園長は喜色を隠しもせずに「うむうむ」と頻りに頷いている。
俺も三条と天音の試合には年甲斐もなくわくわくしていた。
「よし、後城君、二人の試合は終業式後ということにしたまえ。せっかくだから全生徒に告知した上で一人でも多くの生徒に見てもらおう。きっと良い刺激になるはずだ」
こうして2-Bのクラス代表決定戦は終業式の日と決まったのだった。
担任教師らしい心配もしている後城先生でした。
次回から視点キャラを委員長(三条珠貴)に変更します。




