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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第六章 近接戦では剣士タイプの方が強いですか?
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いろんな事がありました

「ランキング一位と三位だもんねー。さすが! と思ったわ」


 成美は私(一位)、沙織(三位)の順に指差しながら楽しそうに笑う。

 人を指差すなんて行儀悪いと思いつつ、当時の事を思い出してテンションがダダ下がったせいで注意もできない。見れば沙織もがっくりと肩を落としている。


 二月と言えば全国的にバレンタイン。

 恋する乙女が意中の男性にチョコレートを贈るという恋愛応援イベントである。発祥や起源には諸説あるものの、それはこの際どうでも良い。大事なのはイベント当日にあった出来事だ。


 女子にとっての『贈る日』であれば、男子にとっては『貰う日』になる。

 貰えるか貰えないか、貰えるなら何個かと、男子達はそんな緊張感に包まれて一日を過ごす。そして誰が仕切ったのか不明ながら、獲得数ランキングなるものが発表されたのだ。

 そんな事で格付けをするなんてくだらないとも思うけど、男子にとっては重大な事柄らしい。


 その『男子にとっては重大』なランキングに、私と沙織が入ってしまった。

 しかも私は一位、沙織は三位。

 ちなみに二位は後城先生。

 結果、トップスリーに男子生徒が一人も入らないという異常事態が発生した。


 まあランキングの裏にあるカラクリというか、そういう結果になってしまった経緯というのもある程度想像できる。


 一人の女子が誰かに渡すチョコの内訳は、本命一つに対して義理や冗談が複数個。

 出回る数としては義理や冗談の方が遥かに多くなる。

 そしてよほどの男子がいない限り本命が一人に集中する事は無いだろうけど、逆に義理や冗談なら特定の個人に集まりやすい。


 後城先生は生徒の面倒見も良いし、若手の男性教師の中ではダントツで人気がある。かくいう私も日頃お世話になっている感謝を込めて、義理を一つ渡しているし。誤解があると大変なので大きく義理と書いていある包装紙を使ったら「お前は判りやすい奴だ」と苦笑されたっけ。


 私や沙織は冗談の部類だろう。

 身長や容姿の関係で男っぽく見られがちな上に、なんだかんだで校内の有名人になってしまっている。冗談で渡す相手としては手頃だったに違いない。

 だから私、後城先生、沙織という順位も妥当と言えば妥当なのだ。

 ……極めて不本意ではあるけれど。


 その辺りを説明すれば、沙織は「うんうん」と熱心に頷いている。

 バレンタインの件に関しては沙織も私と同じ立場だ。


「そう思ってるのは二人だけだよ。渡した子たちは結構本気だったんじゃないかなー」

「いやいや、そんなわけないじゃない。姫木さんもそう思うでしょ?」

「もちろんよ天音さん。当然そんなわけはないわ」


 本気なんてことは有り得ない。

 チョコを渡す時に妙に潤んだ瞳で見詰めてギュッと手を握ってきたり、女子が女子に宛てたとは信じられない内容の手紙が入っていたり、明らかに手作りと思われる巨大なチョコだったりしても、全部冗談に決まっている。

 というか、冗談でなかったら怖い。


「その話はこれくらいにしておきましょう。次は三月? 四月?」


 沙織があからさまに話題を変えようとしている。

 私としてもあまり引っ張りたい話ではないので乗っかることにした。


「春は卒業式に入学式、私達は無事に三年生に進級ってところね」

「無事ったって、うちの学園で留年ってまずあり得ないけど」

「……入学式の後だったらあれでしょ。桜が新入生の人気者になった事」

「また嫌な話を……」


 バレンタインの話が打ち切られたのが不満そうな成美は、またも私達が苦々しく思っている話題を振ってきた。


 四月の入学式から少しした頃、私の顔と名前は早くも新入生に知れ渡っていた。

 聞こえてくる囁き声は「メイドの先輩」というもの。

 実は昨年の学園祭で行われたCOD大会が凄かったらしいという噂が流れていて、宇美月サーバーにログインできるようになった新入生がこぞって記録映像を視聴したそうだ。

 順位もさることながらメイド服で出場していた私は強く印象に残ったらしい。

 あの映像、削除してくれるように要望を出すべきだろうか。

 ちなみに沙織は「宇美月サーバー開設以来、モザイクを出した上に倫理コード違反で強制ログアウトになった唯一の人物」という大変不名誉な知られ方をしている。


 この話を振って来るなんて成美が意地悪モードになっている。

 ここは少し反撃しておこう。


「それよりもマックスなコーヒーの件じゃない?」

「ああ、あれね……」

「ええー、その話はやめようよー」


 私の意図に気付いた沙織はにやりと笑みを浮かべ、成美は心底情けなさそうな顔になった。


 冬休みのアルバイトの折、成美は宇美月サーバーを管理しているメーカーの人にある要望を出した。それは彼女が愛してやまないマックスなコーヒーの味を仮想宇美月学園の自販機でも実装して欲しいというものだった。

 ……メーカーの人達は頑張りました。いや、頑張っちゃったと言うべきか。

 再現不可能かと思われたあの強烈な味覚のデータが、春先のアップデートで追加されたのだ。


 そして成美は駄目になった。


 アップデートの翌日、仮想空間の例の自販機前には延々とマックスなコーヒーを飲み続ける成美の姿があった。時折「うひゃひゃ」とか「うひょひょ」とか奇声を発しながら。

 どうしてこんな事になったかと言えば、仮想宇美月学園に設置されている自販機は全て無料であり、仮想空間での飲食は味を感じるだけだからだ。

 お財布の中身という金銭的な制限とお腹の容量という物理的な限界から解放され、成美は歯止めを失った。

 普段のちょっとした奇行も含めて可愛い成美だけど、取り憑かれたようにコーヒーを飲み続ける姿には正直引いた。

 ドン引きだった。


 当日中に行われた緊急アップデートで、仮想世界の自販機は一日一回しか利用できない仕様に変更されたのは、この成美の一件と無関係ではないはずだ。


 話しているうちに成美がどんどん沈み込んでいく。

 本人もあれは無かったと反省している事だし、そろそろ次の話題に移るべきだろう。


「残ってるのは先月の身体測定くらいかな」

「ちょ、それ行っちゃうの!?」

「まあ外せないでしょ。『私より一センチだけ背が低い姫木沙織さん』?」

「くっ……」


 沙織が悔しそうに拳を握り締める。


 身体測定の結果に一喜一憂する光景はどこの学校でも見られる。

 その大半は体重や胸のサイズが焦点だろうけど、私と沙織にとってはもっと重視している項目があった。

 言うまでも無く身長だ。


 ちなみに宇美月学園での身体測定は少し変わっている。

 CODリアルモードのアカウント取得が全生徒に義務付けられているだけあって、保健室に身体走査データを取得するための医療機器が設置されている。これにかかれば身長や体重、スリーサイズなど全ての測定が一発で終わる。当然そのデータでアバター作成用のデータも更新される。

 その測定の結果、私の身長は数ミリだけ伸びていた。

 そろそろ成長止まれと思う。

 一方の沙織は一センチ以上伸びていて、事あるごとに『私より二センチも身長の高い天音桜さん』と言っていた沙織は愕然としていた。

 沙織の方が成長幅が大きいとなれば、来年あたりには私の身長を抜くんじゃないだろうか。

 いや、是非にも抜いて欲しい。


「頑張ってね、同志」

「頑張ってどうなるものでもないわよ……」

「あれー? どうにかなるなら頑張っちゃうのー?」


 あ、成美が復活してきた。

 そんな成美に苦笑いを返す沙織。


「違うわよ。頑張ってどうにかなるようなら、身長の分が胸に回るように頑張るっての」

「あー、それは……」


 ちらりと沙織の胸元にやった目を、そっと逸らす成美。

 沙織の胸は持ち主の希望に応えず、あまり成長してくれていなかった。

 彼女の胸に対しては本心からの応援を送りたい。

 口に出して応援したら馬鹿にするなと怒られそうだから心の中でだけど。


「でもさ、私からしたら背が伸びるのって羨ましいんだよ? もうちょっとあったらなーって思う事多いもの」


 成美は成美で背が伸びていない事に悩んでいる。

 でもこれは応援しない。

 小さいのも含めて成美の魅力だし、このままで良いと思う。

 これも口に出したら成美に怒られそうだから心の中だけに留めておく。


 結局全員が身体的なコンプレックスを持っているわけだ。

 どれも無い物ねだりの類だから根本的な解決が望めないのが悩ましい。

 成美達も同じような気持ちなのか、会話が途切れた。


「……かくして今に至る、かな?」

「だねー」


 沈黙を破ったのは沙織、受けたのは成美だ。

 後半は割とどうでも良い内容だったような気もする。


 結構長い事話し込んでしまった。

 私が遅れてきたのも含めて相応に時間が過ぎている。


 っと、気付けば遅れてきた理由をまだ話していなかった。

 話すまでも無く許してくれているけど、やっぱりきっちりと説明はしておきたい。

 今後にも関わることだし。


 と言うわけで、師匠からの稽古が終了した件を二人に話した。

 すると二人から我が事のように喜んで、口々に祝福までしてくれた。


「ありがとう。師匠からは私が納得のいくように練り上げろって言われて。これまでよりもCODの時間が増えそう」

「そうなるでしょうね」

「現実でってのは無理だもんねー」


 私の言葉に頷く二人。

 私がCODを始めたのは、現実で身に付けた天音流剣術を実戦で使ってみたいという欲求からだった。今はそれに師匠から受け継いだ剣術の修行の為、という理由が加わる。


 昔のある剣術家は言ったそうだ。

 ――素振りを一年続けるよりも、人を一人斬った方が上達する。


 これは真理だと思う。

 もちろん剣術の動作を体に染み込ませるには素振りを繰り返すのも必要だ。だけどそれで基礎が出来上がった後は話が変わる。人を斬るという表現は物騒過ぎるとしても、実戦を繰り返した方が上達が速くなるのは確かだ。実戦では相手も勝つために自分の意思で動くから、身に付けた技の数々からどれを出して対応するのか瞬時に判断する必要がある。その判断力を養えるのは、やっぱり実戦なのだ。


 で、当然ながら今の日本でそんな事をやっちゃったら犯罪になる。

 ……犯罪にならないならやるかと言われてもやらないけど。


 やるならCODで、だ。

 限りなく現実に近い仮想世界でなら実戦そのままの効果を得つつも、誰も死なないし犯罪にもならない。

 遠慮なく斬って斬って斬りまくれる。


 剣術家にとって有難い世の中になったものだ。

 この章を最終章にした為に作中の時間が半年ほど飛びました。


 当初は二月五月辺りの話でもう一章書こうかとも考えていたのですが、あまりに本筋と関係ないため取り止め。

 ただ飛ばしっぱなしはすっきりしないので、回想話の形で空白部分を埋めてみました。


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