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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第五章 冬休み~アルバイト~
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アルバイトを終えて

 ログアウト後、昼食のために集合した食堂。

 藤田さんから全スケジュールが終了したと宣言された。

 誰からともなく「お疲れさまでした」と声が上がり、自然発生した拍手で食堂は満たされた。

 試験や魔族戦の感想を話し合いながら和気藹々と食事を終えて、それぞれの部屋へと引き上げる。


 荷物は朝のうちに纏めておいたから、後は着替えるだけで帰り支度は終了する。

 でも着替える前に沙織との約束を果たさないといけない。


 友人の胸に触れるというのはやっぱり照れくさいようで、沙織は頬を赤くしていた。感触を確かめるためだから魔族にしたのと同じように左手で胸を掴んでくる。

 少し強く握られて痛みを感じ「ん……!」と声が漏れてしまう。その声に驚いたのか沙織は一度手を離し、今度は力を入れ過ぎないように慎重に触れてきた。

 浴衣の上からふにふにとされるのがくすぐったい。


「本当に同じだわ。メーカーも何考えてあそこまで再現したんだか……」


 ふにふに、ふにふに、むにむに……

 あ、少し触り方が変わったかも。

 沙織の手が触れている部分からじんわりと熱が伝わって来る。

 けしてイヤラシイ意味ではなく、ちょっと気持ち良い。

 成美が「私もー私もー」と触りに来るのは手で押さえておく。リーチ差があるからアイアンクロー気味に頭を押さえれば成美の手はこちらに届かない。仲間外れにするようで可哀そうだけど、二人がかりで触られたりしたらイヤラシイ意味で気持ち良くなってしまいそうでヤバイ。今回は沙織の番という事で成美には我慢してもらおう。


 沙織は真剣な表情で手を動かしている。

 むにむに、むにむに、むにゅうぅぅ……


「あ痛ああっ!」


 いきなり強く掴まれた痛みに沙織の手を振り解いていた。


「……あ、ああ、ごめんごめん。もごうとしたわけじゃないからね?」

「もがれてたまるか! 強くしないでって言ったでしょ。どうしたのよ急に」

「指の間からはみ出してくるのか確かめようと思って。うん、見事にはみ出してたね」


 左手をにぎにぎと動かして軽く笑う沙織。その笑いには「もげろ」と言っていた頃の棘は無くなっていて「確かに柔らかいものは気持ち良いのかも……」と言っている。


 成美と顔を見合わせて「沙織がこっち側に来た」と頷きを交わした。


 *********************************


 宇美月学園メンバーの集合場所になっているロビーに行くと、浴衣姿のミアが待っていた。

 彼女はもともとメーカー側の人なので、スケジュールが終了した後も仕事がある。帰るのはまだ数日後になるそうだ。


「今回魔族アバターに選ばれた人達に記念品だって」


 ミアから一枚のメリーカードを渡された。


「アバターの性能には影響しないジョークアイテムだから機会があったら使ってみてって藤田さんが言ってた」


 当の藤田さんは少し離れたところで学園長や後城先生となにやら話し込んでいる。

 それを見た成美が「あっ!」と小さく言って、凄い勢いで走っていった。

 真面目な話をしていたらしく、後城先生が「しっしっ!」と追い払うような手つきをしている。それにも構わず成美は藤田さんになにやら言い募っている様子。身振り手振りを交えて熱弁している。

 やがて盛大に苦笑いを浮かべた藤田さんが頷き、成美は満面の笑みを浮かべて戻って来た。


「やー、危ない危ない。大事な事を忘れるところだったよー」


 一仕事やり終えた後のような充実感溢れる成美だった。


「何だったの? 藤田さん困ってたみたいだけど」

「仮想世界でマックスなコーヒーの味覚再現やってくれるように頼んできたんだー。公式サイトから何度も要望送ってるけど全然やってくれないんだもん。藤田さん結構偉い人でしょ? これで大丈夫だよね!」


 大丈夫……なのかな?


 宇美月サーバーが本家のシステムに書きかえられた直後、仮想宇美月学園内の自販機で売られている飲料類のうちマックスなコーヒーだけが味覚再現されていない事が判明した。このコーヒーの熱烈な支持者である成美はメーカーにクレームをつけるとか言っていた記憶がある。

 運営に要望を出す程度にとどめていたとはいえ、実際に動いていたとは。

 ただ、藤田さんに直接言ったら即座に実装されるものでもないと思う。

 アレの味覚再現がされない理由について私達が立てた仮説は二つ。

 一つ目は痛覚に代表される「負の感覚」を再現しないCODだから、沙織をして味覚を利用した暴力とまで言わせたマックスなコーヒーの味は敢えて再現していないのではないかという事。

 二つ目はマックスなコーヒーの味覚があまりにも強烈すぎて、まともにサンプルデータが採れないんじゃないかという事。


 どちらにしても容易に解決できる問題じゃないような気がする。

 ……いや、二つ目だった場合は成美自身がデータ採りに協力すれば良いのかな?

 藤田さんには苦労をかけてしまうかもだけど、成美の為に是非頑張ってもらいたい。


「ミアさん! ちょうど良かったっす!」


 そこに森上君がやって来た。

 同室だったらしい男子のグループから一人で離れてくる。


「やあ森上君。ちょうど良かったってどういうことなの? ボクを探してた?」

「そうっす! 実はあの矢筒なんすけど、正式に譲ってもらえないっすか?」


 森上君が言っているのはミアからレンタルしていた特製の矢筒だ。内部が不思議空間に繋がっていて大量の矢を収納できて、弾切れとは無縁になれるという優れ物だ。弓術主体の森上君にとっては喉から手が出るほど欲しい物だろう。


「良いけどRMTリアルマネートレーディングだよ? 結構高いよ?」

「う……いくらっすか?」

「君らなら少し割引するけど……」


 そうしてミアが口にした金額に、森上君は「マジすか」と表情を改める。

 学生の身からすれば高額だけど、あの矢筒のような特殊なアイテムとして随分と安い。

 そんな金額だった。

 森上君はひとしきり「むむむ……」と唸って、決然と「買うっす!」と言った。


「今は持ち合わせが無いっすけど、バイト代入ったら必ず買うっす!」

「ならボクの工房の連絡先教えとく。予約済みにしておくからお金用意できたら連絡して」

「っす! ありがとうございます!」


 そんな森上君を見て、顔を見合わせる私達。

 沙織が恐る恐るミアに切り出す。


「ええと、ミアさん?」

「なんだい、サオリン」

「その割引、私達にも有効ですか?」

「もちろん! なになに? ボクに作って欲しい物があるの?」


 快く請け合ってくれるミア。本当に良い人だ。

 沙織は盾を、成美は鞭を欲しがっている。どちらも魔族との戦闘で破壊されたもので、もっと強いのに代えたいそうだ。

 かくいう私は防具を新調したい。今使っているのはショップ売りの安物だし、委員長との再戦を考えれば些か心もとない防御力だ。価格の目安を聞いてみれば、今回のバイト代に少しお小遣いを足せば手が届く額だ。この十日間はバイト代なんて無くても構わないくらいに楽しかったから、全額注ぎ込んでしまっても悔いは無いと思えた。

 それは成美や沙織も同様だったようだ。

 いずれにしろ正式な注文はバイト代が入ってからになる。

 成美と沙織もミアの連絡先を教えてもらっていた。

 私は黒刀を貰った時のバイク便の伝票が取ってあるから大丈夫だ。


「じゃあ連絡待ってるからね」


 ひらひらと手を振りながらミアが去る事には先生達の話も終わっていて、生徒も全員集合していた。

 後はバスに乗って帰るだけ。

 こうして十日間のアルバイトは無事に終了した。


 *********************************


 帰宅してまず思ったのが、ここが自分の家なんだということだった。

 旅行から帰ってきて「やっぱり我が家が一番」と言ったりするけど、玄関を開けて入る時にそれに近い感慨があったからだ。お世話になり始めて一年も経たなくても、ここが我が家で、師匠やライアが家族なのだと思えた。


 茶の間で師匠とライアに帰宅の挨拶をした。


「どうでしたか? 楽しめましたか?」


 私の前に湯気の立つ湯呑を置きながらライア。

 とても楽しかったと答えると、ライアは自分の事のように喜んでくれた。


「向こうにはミアがいたでしょ。仲良くしてくれた?」

「あれ? 師匠はミアがいた事知ってるんですか?」

「ええ。去年の内にミアから連絡があったから」


 そこで師匠は意味ありげな含み笑いをした。


「ミカンは美味しかったかしら?」


 はい? どうしてここでミカンの話題が?

 唐突過ぎて頭上にクエスチョンマークを浮かべていたら、師匠が楽しそうに種明かしをしてくれた。


 今回のバイト募集が宇美月学園にも行くと知ったミアは、それをまず師匠に報せた。そして私を募集に応じさせるにはどうしたら良いか師匠に助言を求めたそうだ。そこで師匠は海外にいる私の両親に連絡を取り、去年までの私の年末年始の過ごし方を聞き出し、そのままミアに伝えた。


「じゃ、じゃあ炬燵とミカンは!?」

「まあ炬燵は宿の設備だろうけど、ミカンはミアが手を回したんでしょうね」


 これはやられた。

 事前説明の時の紹介画像にミカンがあったのは、普通に考えれば不自然過ぎる。紹介していた後城先生も疑問に思っていたくらいだし。まさかそれが私を狙い撃ちにしていたとは。

 ミア恐るべし。

 さすが「こんなこともあろうかと」を言いたいセリフナンバーワンにしているだけの事はある。


「それでも辞退するようなら師匠命令で行かせるつもりだったけど」


 どうあれ行く事にはなっていたみたいだ。

 良い経験もできたし不満は無いのだけど。


 その後は年末年始の出来事を師匠とライアに話して聞かせた。

 ミアと一緒に露天風呂に入った話とか、最終試験での戦いぶりとか。

 師匠もライアもにこにこと楽しそうに聞いてくれるので時間を忘れて話してしまった。



 自室に戻って久し振りの自分のベッドに倒れ込んだ。

 魔族との戦闘、長時間のバス移動、存外長くなってしまった師匠達への報告。

 肉体的にも精神的にも疲れているし、このまま眠ってしまえば良い夢が見れそうなくらいに眠い。でも寝るのは後回しにしてPCの電源を入れた。

 荷物の中から記念品として貰った例のメモリーカードを取り出し、PCに読み込ませる。それが何なのか、おぼろげながら想像は付いていて、それを確かめたかった。


 sakuraの管理画面を開いてメモリーの内容を参照すれば、そこには着衣データが収められていて。


「やっぱり……」


 内容を見てがっくりと肩を落とす私。

 入っていたのは「魔族セット」と銘打たれた着衣データ。

 あの魔族が着ていた胸元とお尻を出したエロ格好良い服だ。

 ご丁寧に髪色と肌色を変更するスキンも付属している。


 これを私に着ろと?


 藤田さんはもう少しまともな人だと思っていたのに。

 こんな際どい衣装を女子高生に渡して「着てみて欲しい」とか言っちゃったら、それって完全にセクハラなんじゃないだろうか。


 モニター上にある『削除』のアイコン。

 これにカーソルを合わせてクリックすれば、この破廉恥な衣装は滅却できる。

 できるのだけど、少し考えてそれはしない事にした。


 エロいけど格好良いし、一度くらい着てみるのも悪くないと思えたから。

これにて第五章終了となります。


次章を最終章にするか、もう一章挟むかで思案中です。

その為、次話の投稿は少し遅くなるかもしれません。

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