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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第一章 クラス代表決定戦
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ハイタワー

 案内役を立候補してきた成美とは、まあ友達と言っても良い関係になった。

 妙にテンションの高いところと、着衣データ云々に代表されるような羞恥心を置き忘れたような言動が見られるところを除けば、基本的に善良な性格だというのが話していると良く判る。

 だからこそクラスの中でも成美は受け入れられているのだろう。


 成美側からは私の「露出癖」発言(失言だが)で、意外と話しやすい相手だと勘違いしたようだ。


「最初はなんかきっちりかっちりしてて、とっつきにくいかと思ったんだけどねー」


 などと言っていた。


 成美の案内で更衣室へ行って、そこで私がサラシを巻いているのを発見した成美がちょっと騒いだりもしたが、そんな成美は脱ぐともっと凄かった。


 無事にトレーニングウェアに着替えて、向かった先は陸上競技用のグラウンドだ。

 2-Bの転入生、つまり私の事は他のクラスにも伝わっていたようで、他のクラスの面々も「ああ、あれが例の」という目を向けてくる。それはいいのだが、どうしてこう「でかい」とか「大きい」とかいう単語は耳につくのだろう。


 そんな事を考えていたら、一人の女子が真っ直ぐに私を見ながら近づいてきた。

 すらりと細身な体と短めの髪のせいで美少年ぽく見えるが、胸元は控え目ながら確かに存在を主張していて、女子だとわかる。

 なんだろう? なぜ彼女はああも私を凝視しながら歩いてくるのだろう。

 思わず目を離せなくなるほど、彼女の視線は真剣で緊張感をはらんでいた。


 一メートルほどの距離を置いたところで、彼女が立ち止った。

 合わせたままの視線。

 彼女は僅かに私を見上げるように……って、このパターンはまさか!?

 唐突に既視感に襲われた。


 彼女と合わせた私の視線は、ほんのわずかだけ下向きの角度。

 これが意味するところはつまり……。


 唐突に彼女は会心の笑みを浮かべた。

 うわあ、すごく良い笑顔だ。


「私は2-Dの姫木沙織よ。B組に来た転入生よね。よろしく」


 満面の笑顔で自己紹介されてしまった。


「……天音桜。こちらこそよろしく」

「よろしく! 良かったー、私より背の高い子が来てくれて!」


 やっぱりそれか!

 さっき襲われた既視感。それは昨日私がライアと会った時のシチュエーション(ライア視点)とあまりにも似ていたからだった。

 こうなったらライアのセリフもなぞってみようか。


「ええと、姫木さん、あなた自分の身長にコンプレックスが?」

「そりゃああるわよ。ハイタワーとか言われてからかわれたりしたもの」


 ハイタワー?

 それは私も言われたことは無かった。

 背が高いくせに私よりちょっとだけ(多分二センチくらい)低い姫木沙織に対する反感が一瞬で消えた。

 うん、もう自棄だ。最後までやっておこう。


「同志!」


 言って大きく両手を広げる。

 一瞬きょとんとした姫木沙織は、やがて「うん」と小さく頷き。


「同志!」


 私達は固い抱擁を交わした。

 同じ悩みを持つ同志として、私達の間には瞬時に友情が生まれていた。


 そんな私たちを遠巻きに見ている人達の視線がなぜかなまぬるい。


   ・

   ・

   ・


 それからというもの、私、成美、沙織の三人で行動することが多くなった。

 成美と沙織は、これまで選択授業で顔を合わせることはあっても、ほとんど話したこともないそうだった。それは沙織が努めて成美の側に寄らないようにしていたからだそうなのだが、その理由が。


「だってこの子小さくて可愛いじゃない。そばにいると私のでかさが余計に目立つのよ」


 と、いつか私も思ったような理由だった。

 で、なぜ今は成美とも仲良くできるのかについては。


「もっとでかい桜がいれば、私は目立たないじゃない」


 と来た。

 二センチしか違わないのに、なぜそこまで勝ち誇ったように言うのか。

 現に私と沙織の間に成美が立っている構図について「囚われた宇宙人」とか囁かれていたりするのだ。沙織も確実に「大きい人」の片割れに数えられている。


 そんなこんなで一週間ほども経った。


 学校が終わったら帰宅して引っ越し荷物の片付けや、師匠との稽古というように過ごしていたのだが、ようやく荷物の片付けも終わり、放課後に時間の余裕もできるようになった。


 そこでかねてから予定していた成美や沙織達とのCODでの対戦をすることになった。


 宇美月学園では学校行事や実習の一部を仮想空間で行う関係から、全校生徒分のログイン環境が整っている。それが「接続室」という部屋だった。

 接続室はリクライニング付きの椅子がずらっと並んだだけの部屋だ。椅子の脇に有線接続用の端子があるので、そこにヘッドギアのケーブルを挿せばすぐにログインできる。

 ログイン中は現実の体が無防備になるため、女子部屋と男子部屋は完全に区別されていて、さらにそれぞれの部屋も防犯カメラで監視されていた。


 Sコースで知り合った面々で並んで椅子に座る。男子部屋でも同様にしているはずだ。

 ケーブルを挿してヘッドギアを被る。


 一瞬の感覚遮断の後、私は仮想空間のエントリースペースに立っていた。

 無機質な空間にCODのアイコンが浮かんでいるので、これを選択。

 続けて『リアルモード』→『宇美月サーバー』と選択して、アバター読み込み画面に移行する。


《登録名....sakura》

《身体走査データ確認.....アバター作成》

《登録スキル確認....剣術Lv9 気功Lv9 魔術Lv1》

《総合レベル算出....総合レベル8》

《登録装備確認....刀+1 サラシ》


 流れるメッセージと、表示されるアバターの立体モデルを確認。


《このアバターでログインします。準備はいいですか?   YES or NO》


 当然YESを選択する。


《ようこそ、決闘者の闘技場へ》


 いつもの感覚とともに、私はCODにログインした。


 ホールの入口に立っている。

 一緒にログインした面々も次々と実体化している。


「やー、こっちで会うのは始めてだねー! よろしく桜!」


 楓と言う名の成美のアバターは忍者装束を着衣データにしていた。

 私も忍者装束をもとにしてカスタマイズしているが、成美はもとのまま完全な忍者装束だった。武器としては背中に短めの刀、左右の腰に輪状にまとめた鞭。


 ちなみにsakura(私)、楓(成美)、姫(沙織)などそれぞれアバターネームがあり、ネット上であれば本名を呼ぶのは重大なマナー違反になるところだが、部外者のいない学内サーバーでは本名で呼び合うのが普通だそうだ。


「ちょっと、あとがつかえるから早く移動してよ」


 実体化した沙織が急かしてくる。

 扉の前のスペースが塞がっていても座標をずらして実体化されるから実質的には問題ないが、やはりマナー違反にはなる。私達はぞろぞろとホールの中央に進んだ。


 沙織のアバターは金属パーツで補強した皮ツナギを着ていた。

 一昔前の世紀末系マンガのキャラみたいだが、皮ツナギというのは意外と防御効果がある。皮製なのだからソフトレザーアーマーに相当するし、要所を金属パーツで補強しているからさらに防御効果は上がっているはずだ。

 沙織の装備は大剣と大きな盾だった。


 他の面々も様々な装備をしているのだが、みな一様に近接戦メインの剣士タイプに分類される。

 宇美月学園内の傾向として、体育系の選択が多いSコースは剣士タイプ、座学系の選択が多いMコースは魔術タイプがそれぞれ多い。肉体派と頭脳派にはっきり分かれてしまっているわけだ。

 魔術タイプ有利が叫ばれているCODにおいて、これだけ剣士タイプが揃っているのも、Sコースの面々で示し合わせてログインしたからこそだった。


「さーて、それじゃあ親睦を深める意味でもランダム戦でいきましょうか」


 成美がウィンドウを開いて手早く操作すると、私や他の面々の前にメッセージウィンドウが出現した。


《楓様より、グループ登録の申請がありました。受諾しますか?  YES or NO》


 当然みんなでYESを選択する。

 ウィンドウで全員の登録が完了したのを確認して成美がカウンターのNPCに話しかけた。


「グループ登録で、グループ内のランダム対戦。対戦相手がダブらないように組んでちょうだい」

「かしこまりました」


 一礼したNPCの背後のモニターに作成された対戦表が表示された。


   ・

   ・

   ・


 対戦表に従って対戦を繰り返していく。

 やはり近接戦主体の剣士タイプ同士の方が、対戦していて楽しいと実感した。

 魔術タイプとの対戦の場合、相手は遠距離攻撃ができるという優位性を過信している。初撃を避けて接近してしまうと、もう何もできないプレイヤーが多過ぎる。

 この間対戦したミハイルは、すかさず二撃目を放ち、その後も間に合わないなりに対処しようとしていたから随分ましなほうだった。

 その点、剣士タイプ同士ならいろいろな駆け引きも楽しめる。


 面白いと言えば沙織との対戦も面白かった。

 沙織は闘技場のフィールドに入ると同時に、極端に動作が鈍くなった。

 フィールドではホールや控室と違って重量ルールが適用される。

 身体走査データから算出された筋肉量と、筋肉量から算出された筋力値。これを上回る重量の装備をしてしまうと、ペナルティとしてアバターの動きが大きく制限されるのだ。

 大剣と大きな盾。背は高くても細身の沙織には重すぎる装備だ。

 ところが試合開始直後に沙織が呪文詠唱を行うと、いきなり重量ペナルティが外れて軽快に動くようになった。それどころか普通なら両手で扱わなければならないような大剣を片手で軽々と操りさえする。

 私の勝ちで試合は終了。

 駄目もとで種明かしを要求すると、沙織は気前よく教えてくれた。


「魔術スキルでウェイトコントロールの術を使ってたのよ。ペナルティを外すためってよりも、重量武器の破壊力を増すためだったんだけど……まあ、当たらなきゃ意味ないわね」


 試合中は予測線を利用して全部避けてしまっていたのだが、どうやら軽い状態で振った武器をヒットの瞬間に重くする、という変則的な使い方をするらしかった。


 そしてこの日、一番楽しかった対戦は成美との一戦だった。

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