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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第五章 冬休み~アルバイト~
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こんな事もあろうかと!

「おっとっと、良い具合に茹って来ちゃったかな?」


 言って、ミアはざぶざぶと湯を掻き分けて奥の方に歩いて行った。

 大浴場から見て反対側はどっさりと雪が積もっている。


 他の場所の雪は積もったままのまっさらな状態なのに、ミアが進んだ先に一カ所だけ雪が乱れている場所がある。そこに手を突っ込むミア。ごそごそと探ってとある物を掴みだしてきた。


「じゃじゃ~ん、フルーツ牛乳~。ほらほら良く冷えてるよ。人数分あるから安心して」


 一緒に掘り出した牛乳瓶の蓋を開ける道具(名前は知らないけど先端に針が付いたアレ)で手際よく蓋を開けてキンキンに冷えたフルーツ牛乳を手渡してくる。

 雪の中で凍る直前にまで冷やされたフルーツ牛乳は、もう途轍もなく美味しくて貪るように飲み干してしまった。


「ふうー。美味しかったです」

「生き返るねー」


 見れば成美と沙織も瓶を空にしている。

 熱くなった頭がすーっと冴えていく感じとともに、ブルッと体が震えた。

 内と外から温度を下げられて逆に寒くなってくる。

 でも冷めた体を再び湯に浸ければ、改めて温泉の温かさを楽しむことができた。


「はい飲み終わった瓶はこっちね。散らかしちゃいけないよ」


 ミアは空き瓶や蓋を集めて桶に纏めて入れている。

 完全に予めこの流れを想定していた手際の良さだ。


「とても美味しかったんですけど、どうしてそんな所にフルーツ牛乳が?」


 問えば、「よくぞ聞いてくれました」的な顔をするミア。


「こんな事もあろうかと、さっき先回りして仕込んでおいた」


 そう言ったミアは、なんだかとても満足そう。

 一仕事やり遂げたような様子に私たちが「?」となっていると、「ん?」と首を傾げてもう一度。


「こんな事もあろうかと!」

「二回言うって事は大事な事ですか?」

「うん。ほら、ここぞという場面で使いたいセリフってあるでしょ。ボクの場合は『こんな事もあろうかと』なんだよね」


 つまりそれを言うためだけにわざわざ先回りしてフルーツ牛乳を雪に埋めていたわけで。

 色々と疲れている筈なのにこういう事に労力を惜しまないミアは尊敬できると思う。


「そういうの判るなー。私もあるよ、言ってみたいセリフ」


 成美が話に乗っかってきた。


「私はあれだね。『ここは私に任せて先に行って』とか『みんな下がって。ここは私が引き受ける』とか」


 健気に頑張る成美の姿が幻視されたけど、そのセリフは多くの場合死亡フラグが立つので迂闊に使うなと言いたい。


「沙織はなにかあるー?」

「うーん……急に言われても……いや、あるわね。言ってみたいセリフ。『胸なんて大きくても肩が凝るし邪魔なだけよ』なんて言ってみたい……言える身分になりたい……」


 言いながら沙織の雰囲気がどんどん沈み込んでいく。

 終いには「叶わない願いなのは知っているけどね……」なんて言って自虐的に笑いだす始末。

 成美に慰めるように「よしよし」と頭を撫でられている。


 なんでああも自爆的な発言をするんだか。

 私自身は胸が原因で肩が凝るなんてことは無いけど、それは黙っておいた方が良さそうだ。


「や、やっぱりみんなそれぞれあるもんだね。桜はどう?」


 沙織の扱いに困ったミアは取り合えず放置する方向に決めたようだ。

 糸のように細い目尻が若干下がっているのが困惑の度合いを窺わせる。


「もちろんあります。まあ言いたい、じゃなくて言おうと決めてるんですけどね。委員長に勝ったら『近接戦では剣士タイプの方が強いですよ』って」


 近接戦を挑んだうえで負けてしまっている現在では『近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?』と情けない疑問形になってしまう。最後の『?』を取るためにも、再戦したなら必ず勝たなければいけない。

 こうして口に出すことで決意を新たにした気分だ。

 こういうのは大晦日よりも元旦にしておきたかったけども。


「それよりも気になってるんですが。テストのモンスターリスト、一番下が選べないじゃないですか。あれってどうなってるんですか?」


 セリフ談義が一区切りついたところで訊ねてみる。

 選択不可能な『???』表示も、わざわざリストに入れている以上は今回のテストと無関係ではない筈だ。

 半ばメーカー側の立場でもあるミアなら何か知っているのではと思う。


「それ私も知りたいです。ボスっぽい感じですけど、どうなんですか」


 あ、沙織が復活した。

 それに安心したのかミアの目尻が元の位置に戻った。

 一方的にではあるけど同志認定している沙織の事は何気に気にかけているみたいだ。


「サオリン正解。あれは正真正銘ボスだね。扱いがちょっと特別で、年明けからのテストで挑戦者を選別するって藤田さんが言ってた」

「選別って、どうやるんです?」

「年明けのテストは集団戦になる予定。ここまでやったモンスターの説明欄に集団で~とか群れで~とかなってたでしょ。テスター側もパーティー組んでモンスターの集団との戦闘をするんだけど、五日の午後はテスター全員参加でモンスターの侵攻を阻止する迎撃戦。君ら夏に海魔迎撃戦やってるんでしょ? あんな感じだね。で、ボスへの挑戦条件は迎撃戦終了時に生き残っている事」


 生き残っている事、という条件は奇妙に感じられた。

 例えば海魔迎撃戦の場合、背後の住宅地に海魔が侵入したら敗北、最後まで侵入を阻止できれば勝利という条件だった。『迎撃』であるからには何か、もしくは何処かを守るための戦闘になるはずだけど、その点にミアは触れていない。


「シチュエーションが迎撃戦に似てるってだけで、防衛対象とか決まってないから。要はああいう集団対集団の乱戦の中でもきっちり生き残れるだけの戦闘力とか状況判断力とか、そういうのが評価の対象になるって事」


 私が疑問を口にする前にミアが回答してくれていた。

 ……もしかしてまた顔に出ていた?

 いくらなんでも表情からだけで疑問の内容まで特定とかできないとは思うけど。


「君らならきっと挑戦できると思うよ。っと、みんなまた茹ってきたみたいだし、そろそろ上がった方が良いかな?」


 言われて気付けば、一度は冷めた体も芯から温まっている。

 というかまたも話が長くなってかなり熱くなっていた。

 茹るという表現はどうかと思うけど、これ以上入っていると湯あたりで倒れかねないのは事実。

 こんな所で倒れたら全裸で担ぎ出されるのは必定。

 つまりは避けてきたエロハプニングの発生が確定。


 そんなわけでお昼の温泉はここまでということに。


 *********************************


 夜の少し早めの時間に再度温泉に入って、それ以後はだらだらとして過ごした。

 炬燵にミカンで準備万端、年末特番から年越し特番へとリレーしているところで宿から年越し蕎麦の差し入れが。

 蕎麦美味しかったです。


 年が変わってから先生の所に年始の挨拶に行ったら、先生達は酒盛りの真っ最中だった。

 学園長も含めて四人でどれだけ飲んだのか、部屋の片隅には日本酒や洋酒や雑多な種類の酒瓶が林立している。起きているのは学園長と後城先生だけで、あと二人の先生は酔い潰れて眠っていた。


「「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」」


 三人で揃って挨拶したら、学園長たちも丁寧に返してくれた。

 余り飲んでいないのかお酒に強いのか、二人とも普段とあまり変わらない様子。


 学園長はふと眉を顰めると、


「年明け早々に挨拶に来たのは君達だけだ。そこは良いのだが、こんな時間に若い娘が男性の部屋を訪れては要らぬ誤解を受けないとも限らない。そもそも……」


 と説教を始めそうな勢いになってきた。

 確かに学園長の言っている事ももっともで、少々軽率だったかと反省した。

 学園長の背後から後城先生が「逃げろ。逃げてしまえ」と目配せしてきたので、ほどほどのところで退散してきた。

 普段通りに見えて学園長もやはり酔っていたんだろう。


 なんやかんやと夜更かししてしまい、元旦は昼近くまで寝ていた。

 食堂でお雑煮を食べて、お節料理の重箱を貰って部屋に帰り、適当につまみながら正月特番を視る。

 お雑煮もお節料理も美味しかったです。


「こんなにだらけてる桜は初めて見るわね」


 などと沙織に言われてしまったけど、私にとってはこれこそ理想的なお正月の過ごし方だ。

 全身全霊をもってだらけさせてもらう。


「難を言えばお年玉をくれる相手がここにはいない事かなー。帰ればお爺ちゃんがくれると思うけど、やっぱり元旦に貰った方が嬉しいんだよねー」

「そりゃそうだけど、そこまで言ったら欲張りすぎでしょ」

「そんな事は無いよ!」

「「ミア!?」」


 いきなりドアが開いて勢い良くミアが入ってきた。

 メーカーの人達と居ても仕事の話が多くなって詰まらないからと言って、こちらに合流したいと言っていたから来るのは予想していた。

 でも登場の仕方が唐突過ぎる。


「こんなに早くまた言えるとは思わなかったけど……」


 ミアは二、三度軽く咳をして喉の調子を確かめると、「む」と真面目な顔になった。


「こんなこともあろうかと、用意していた物がある!」


 口で効果音を言いながら取り出したのは三つのペンダントだった。

 ペンダントトップは小指の先くらいの小さな石で、銀色の爪が石を掴んでいるデザイン。

 チェーンはシンプルな銀色。

 三つとも同じデザインながら石の色だけ違う。

 黒、透明、青の三種類だ。


「さあさあお嬢ちゃん達、お年玉を上げよう」


 ミアは私に黒、成美に透明、沙織に青のペンダントを手渡した。


「まさかこれ、ミアが?」

「うん。手持ちの素材と携帯用の道具だから簡単なのしか作れなかったけどね」


 流石は本職の職人さんだ。

 簡単なのしか、と言っていたけどとんでもない。普通にお店で売っている物となんら遜色無いように見える。それに色違いのお揃いデザインというのが有難い。

 さっそく三人でペンダントを着けてみれば一体感が増したような感じがする。

 成美は「えへへ、お揃いー」と嬉しそうだし、沙織も照れ臭そうに笑っている。

 うん、これはとても良いお年玉を貰った。


 口々にお礼を言ったら「気に入ってくれたようで良かった」とミアも満足気。

 そしてこのペンダント、ただの装飾品では無いらしい。


「実はこのチェーンが磁気を帯びていてね、着けてると肩凝り解消。胸の大きい桜もこれで安心だね」


 ……だから胸が原因で肩が凝ることは無いんだけど。

 でも言えない。言えばミアの善意と沙織の「言ってみたいセリフ」の両方に傷を付けてしまう。

 まだ続いているペンダントの効能についての説明を聞きながら、これはずっと胸にしまっておこうと決めた。


 その後はミアも交えてまったりと元旦の午後を過ごし、ミアも炬燵が大好きだった事が判明した。

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