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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第三章 学園祭~クラス対抗戦~
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vs 3-A

 現在残っている選手は五名。

 その内クラスの正副代表が揃っているのは私達2-Bと黒間先輩の3-Aで、一名だけ残っているのが一クラスある。

 それを踏まえると、2-Bがクラス順位で一位を取るには、3-Aを先に叩いておいた方が良い。

 個人の順位に応じて与えられるポイントの合計からクラス順位が決定される。3-Aの二人のどちらかを早めに倒して五位にしてしまえば、その後の展開がどうなろうと2-Bの一位は揺るがなくなる。極端な話、三位と四位になったしても合計五十五ポイントで一位になれるからだ。

 逆に私達のどちらかが先に倒れてしまうと、その時点で3-Aの一位が確定してしまう。


 グラウンドは学園敷地の外周に接している。敷地の外は戦闘域ではない(というか学園外はマップデータ自体が存在していない)から、黒間先輩達は安全地帯を背にしていることになる。

 仕掛けるにはどうしても遮蔽物の無いグラウンドを横切らなくてはならず、奇襲や不意打ちは不可能だ。


 だから正面から堂々と歩いて行った。

 私達の接近に気付いた3-Aの二人、黒間先輩と時田先輩(剣士タイプ)が身構えるのが見て取れる。

 黒間先輩は階段を上るような動作でまたもや空中に位置取っていた。高さにすれば五メートルくらいで、魔術ならともかく刀は届かない。これだけで私は黒間先輩に対しては無力になってしまう。


「あ……なるほどね。黒間先輩のあれ、やっぱり飛行魔術じゃないわ」


 歩きながら、なにやら納得したように委員長。

 飛行魔術は、その言葉自体は浸透しているけど、実際に使える人はいないんじゃないかと言われるほど修得が困難な魔術らしい。これまでに使っている人を見たことも無いし、使える人がいるという話も聞いたことが無い。

 だから黒間先輩がそれらしい術を使っていることに驚いたわけだけど、委員長はあれが飛行魔術では無いという確信を得たらしい。


「黒間先輩は自分の足元に障壁を出して、その上に立ってるんだわ」

「障壁の上に立つ? そんなことができるの?」

「黒間先輩のは物理・非物理両対応の基本的な障壁だからね。あれは言ってみればガラスみたいな透明な壁を作る術だから、向きを変えれば透明な床にもなるんでしょうね」

「ふうん。まあ人一人の体重くらいは簡単に支えられるか……」


 魔術タイプの使う障壁の術に苦労させられた経験は何度もある。防御魔術が専門の黒間先輩なら強度も高いだろうから、なるほど床の代わりに使うこともできるのだろう。

 素直に感心していたら、委員長に軽く溜め息を吐かれてしまった。


「やっぱり判って無いみたいね。あれ、考えようによっては飛行魔術なんかよりよっぽど凄い……ううん、凄いって言うよりも非常識な術なのよ?」

「でも、ただの障壁なんでしょ?」

「断じて『ただの』障壁じゃないわね。でもその話は後。そろそろ行くわよ」


 話しながら歩いているうちに距離が詰まって来ている。

 委員長が小声で呪文を唱えて『加速』の術を自分と私にかける。

 さらに気功スキルを風モードに変更。森上君との戦闘でもやった速度特化になる。


 そして神脚。 

 普通なら「まだ遠いかな?」という距離でも、加速+風モードの私なら一息で詰められる間合いだ。瞬く間に刀の間合いに到達して斬撃を放つ。


「速っ!?」


 時田先輩も流石にクラス代表になるだけの事はあって、驚きながらも私の初撃を剣で受けていた。結構動きが速く、先輩もまた加速系のスキルや術を使っているみたいだった。

 とは言え私の方が速い。

 受けられると同時に刀を戻して逆側から斬りつける。これには時田先輩も防御が間に合わなかったけど、刀は途中で障壁に防がれてしまった。


 黒間先輩だ。


 上空の先輩に委員長が『打て』で攻撃。先輩が楽団の指揮者のように忙しなく両手を振ると、小さな障壁が次々に現れて光弾を全て受け止めてしまった。

 その後も私の時田先輩に対する攻撃も、委員長の魔術攻撃も黒間先輩の障壁に防がれ続けた。


 防御魔術専門という黒間先輩のスタイルは『大きくて頑丈な障壁』を作るのではなく、『小さくて強度はそれなりの障壁を速く正確に大量に』作るものだった。

 正直に言ってしまうと時田先輩は私の敵では無い。初撃を防いでみせたように反応速度も剣速も並以上なのは確かだけど、速度特化の私の方が断然早い。一対一だったなら早々に斬り伏せていただろう。

 でも黒間先輩の障壁がそれを許さない。

 岡目八目と言うけれど、俯瞰で見ている黒間先輩は私の剣筋に完璧に対応して障壁を展開し、時田先輩を守っている。一度などは障壁を破ったと思ったら即座に二枚目の障壁を重ねられて斬撃を弾かれた。それほどに黒間先輩の障壁展開は速く、そして正確だった。

 その一方で委員長からの魔術攻撃にも完璧に対応して防御し続けている。

 こちらがいくら動き回っても、足場にしている障壁の上を歩いて移動して常に私と委員長の両方を視界に収められるようにしていた。


加速ヘイスト


 攻めあぐねていたら時田先輩がさらに加速して攻撃に転じてきた。

 これは予測線があるから難なく対応はできる。でも打ち込みを捌いて反撃してもそれは障壁で防がれてしまう。


 防御魔術の専門家がこれほど厄介だとは。

 これはもう黒間先輩をどうにかして先に倒すか、上手く出し抜かないと埒が明かない。


 そこで一計を案じた。

 実行するには時田先輩から完全に視線を外す必要があり、それは近接戦の最中には危険極まりない行為だ。でも勝つためには敢えて危険を冒さなければいけない時もある。

 それは今だ。


 数度の攻防で立ち位置を調整すれば準備は完了。

 一度ちらりと黒間先輩を見上げ、はっとした風を装い二度見する。

 そして言った。


「黒間先輩、ぱんつ見えてる!」

「なにいっ!」

「ええ!?」


 効果は劇的だった。

 時田先輩は上空を見上げ、黒間先輩は両手でスカートをおさえる。


 委員長の表現を借りれば、黒間先輩は透明なガラスの上に立っているようなもので、下から見ればスカートの中まで覗けてしまう。

 真下にいたわけじゃないから私の位置からでは見えなかったけど、それはこの際関係無い。まともな神経の持ち主なら「見える」と言われてしまえばどうしても反応してしまうものだ。そしてこの場合の反応は当然「スカートをおさえる」になる。黒間先輩は障壁展開には手の振りが必要みたいだから、これで手数を減らせると目論んだのだ。


 ……まあ、時田先輩がここまで大きく反応したのは予想外だったけど。


 とにかく黒間先輩の手は塞がり、しかも時田先輩は私から視線を切っている。

 右手一本の片手打ちで素早く切りつける。


 刀が障壁に当たる固い感触。黒間先輩はスカートをおさえて恥じらいながらも障壁を間に合わせてきた。

 でもそれも有り得るだろうと予想していた。


《気の刃3発動:武器形成可能》


 最初に位置を調整したのはこのためだ。右手の刀に意識を向けさせたうえで、体の陰になって見えないようにしながら左手に『鬼の手』を発動。そのごつごつとした五指を揃えて時田先輩の腹に抉り込んだ。


「な……騙したのか!」


 時田先輩が非難がましい目で見てくる。

 いや、時田先輩は勝手に引っかかっただけなので、そんな目で見られても困る。


「見えないじゃないか……」


 そう言い残して時田先輩のアバターは消滅した。


「時田君……最後のセリフがそれじゃあ、締まらないよ」


 黒間先輩ががっくりと肩を落としていた。


 *******************************


「はあ……これで2-Bが一位で確定か」


 溜め息交じりに言いながら、階段を下りる動作で地面に降り立つ黒間先輩。全然そんな素振りを見せないけど、下りる一段ごとに新しい障壁を張っているのだから驚きだ。


 地面に下りた黒間先輩は「どうしたものかしらね」といった様子。

 防御魔術の専門家として超絶の防御テクニックを披露してきた黒間先輩だけど、攻撃を担当するはずだった時田先輩が退場してしまってはどうにもならない。

 委員長もそれが判っているから攻撃はせずに見守っている。


「ここでリタイアしても四位だけど……それにしても天音さん、噂通りだったわね」


 気怠げに黒間先輩。なんと言うか余り覇気を感じさせない人だ。

 それはともかく噂とは何だろう。

 噂というのは得てして本人には届かないものだけど、だからこそ噂されているとなれば内容が気になる。


「噂って、どんな噂なんですか」

「そうねえ……並の魔術タイプは歯牙にもかけない、とっても強い剣士タイプ。背が高くてハンサムで、男子よりも女子に人気が出そう」


 後半は不本意だけど概ね当たってる。と思ったらまだ続きがあった。

 黒間先輩はちらりと私の胸元に目を向けた。


「かと思えば、脱げばスタイルが良くて胸も大きく良く揺れる。あれなら男子にも人気だろう、と」

「そ、それも噂になってるんですか!?」

「なってるわねえ」


 学園でサラシ無しの姿を晒すのは今が初めてだから、噂の元は迎撃戦の前に海で遊んだ時の水着姿だろうか。噂になっているとは知らなかったけど、図らずもその噂を裏付けることになってしまった。でもこれはそれほど悪くない噂だ。特に「男子にも人気」のあたり。男前だのなんだのと言われてきた身としては、ちゃんと女子として見てもらえるだけも嬉しい。


「なんか喜んじゃってるみたいだけど、まだ続きがあるのよ。しかも『ただし』付きで」

「え……『ただし』ですか?」


 嫌な予感がする。前半が悪くなくても『ただし』が付いたら、その続きは碌なもんじゃないと相場が決まっている。


「ただし黙って立っていれば。真面目に試合をしていれば。もしくは遠くから見ている分には」

「な、なんですかそれ」

「普段近くにいるとエロい言動でイメージぶち壊し」

「……ナンデスカソレ」

「さっきの『ぱんつ見えてる!』で確信したわ。噂は本当だったって」

「い、委員長? 本当にそんな噂が!?」


 助けを求めて委員長を見たら、思いっきり目を逸らされた。


「委員長!?」

「まあね、でもそれはほら、意外と親しみやすい性格なんだよっていう、そんな感じじゃないの?」

「否定はしてくれないのね……」

「できるものならしてあげたいけど、ごめん無理」


 無理って言い切られてしまった。


「だって思い当たる事が多過ぎるんだもの。姫木さんの胸も揉んだんでしょう?」

「いや、だからあれは!」

「噂は本当だったって事でこの話は終了でしょう。それよりも戦闘再開といきましょうか」


 委員長に抗議しようとしたら黒間先輩に遮られた。

 しかも戦闘を再開しようと言う。


「でも黒間先輩は……」

「四位でも良いかと思ったけど、なんだか大人しく負けるのも馬鹿らしくなってきたわ。最近ちょっと考えてることがあって、丁度良いから少し実験に付きあって貰いましょうか」

「実験、ですか?」

「テーマは『防御魔術の攻撃的使用方法について』ってところね」


 そう言って黒間先輩は呪文を唱え始めた。

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