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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第三章 学園祭~クラス対抗戦~
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俺の名を言ってみろ

 進行役の委員長も途中から「これでいいのか?」と疑問を表情に出していた。

 メイド喫茶のブームはもう何年も前に下火になっていていまさらの感もあり、学園祭のクラス展示に相応しいのかと言う疑問もある。まじめな性格の委員長としては内心穏やかでなかったのかもしれない。

 それでも反対しなかったのは、恐らく私と同様に考えているのだろうと思えた。

 そしてそれは次の委員長の言葉で事実だと判明した。


「それでは分担を決めましょう。私と天音さんはCOD大会で当日は参加できないから、他の女子でメイド役をやる人を決めて、男子は設営その他準備とバックアップね」


 言いながら私に目線を送って来たのがなによりの証拠。

 アイコンタクトで意思は伝わった。


 ――私たちは安全圏ね。


 微かに頷くに止めておいたけど、内心では激しく同意していた。


 メイド服がどんなものかは、ブームの最中にテレビなどで見て知っている。

 その時にも思ったものだ。

 これは私には似合わないな、と。

 着るべき人が着れば確かに可愛らしいだろうけど、それはけして「デカ女」と周囲からからかわれている私じゃない。


 そんな過去を思い出して黄昏ている間にもホームルームは進行している。

 成美は真っ先にメイド役に志願していた。


 ……成美のメイド姿。


 脳裏に閃いたイメージに黄昏気分は吹き飛んだ。

 自分が安全地帯にいる事を考えれば、メイド喫茶も悪くないか。

 メイド服を自分で着るのは勘弁だけど、他の女子が着ているのを見るのは良いかもしれない。


「肝心の衣装だけど、これはどうしたものかしら。簡単な作りなら生地だけ買ってきて作っちゃうのもありかと思うけど……」

「いや待ってくれ。せっかくだからきちんとした衣装を用意した方が良いと思う。俺に伝手があるから、ちょっと当たらせてくれないか?」


 東原君(Sコース組の男子。迎撃戦で魂の叫びを共有した間柄だ)がびしっと挙手していた。

 携帯電話を取り出して「先生、いいですか?」とお伺いを立てている。

 後城先生は「ふむ」と、顎に手を当てて考えていた。


「東原、まずどういう伝手なのかをはっきりさせてくれ。言うまでも無い事だが学園内で破廉恥な格好はさせられん。お前の言う伝手がもしもその手の関係なら……」

「大丈夫ですよ。高校生でも入れるような健全な店ですから」

「そうか。なら仮にOKが出た場合でも、一度一着だけ借りてきて俺に見せるようにしろ。実際に見て判断させてもらう」

「了解しました!」


 元気に返事した東原君は携帯電話を持って廊下に出ていった。

 東原君の帰りを待つ間にも委員長はてきぱきと話を進めていて、私や委員長も当日朝の仕込みまで手伝う事が決まっていた。

 仕込みと言っても本格的な料理を出すわけじゃない。ドリンク以外ではサンドイッチのような軽食と簡単に作れる焼き菓子類になる。師匠やライアに鍛えられて私の料理スキルは上がっているし、その辺りに心配はなかった。


 やがて帰って来た東原君は「OKです! 試しの一着も話しておきました!」と報告した。


 *********************************


「東原君、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「は?」


 ホームルームが終わって、帰ろうとしている東原君を呼び止めたら、なんだかポカーンとされてしまった。呼び止めただけだし、変なことは何も言って無いと思うけど。


「その反応はなんなの?」

「え……いや、なんだっつうか……気のせいかもしれないけど、天音が俺の名前呼ぶのって何気に初めてじゃね?」

「ん? んー?」


 六月半ばに転入してきて、Sコース組の面々とは初日に自己紹介を済ませている。忘れもしない、成美が案内役になって更衣室まで移動している時の事、話の流れでアバターネームも含めて名乗ってくれていた。

 実習も一緒だし迎撃戦関係でも行動を共にしていた。なにより演習から本番にかけてはラスボス絡みで奇妙な一体感さえ感じていた。

 そんな東原君の名前をこれまで呼んだ事が無いなんて、そんな事があり得るだろうか?


「……実際、気のせいじゃない? 特に気にしてなかったから憶えてないけど、普通に話はしてるんだし?」

「微妙に疑問形なのが気になるが……なら、こいつらはどうだ?」

「おう! 話は聞いていたぞ!」

「俺の名を言ってみろぉ!」


 期せずして魂の叫び四人衆が集まってしまったけど、なんだか妙なテンションだ。


「石津君に相馬君でしょう? 何だって今さらこんな」

「どうだ? 呼ばれてみて違和感は無いか?」

「違和感と言うか……越えられないはずの壁を越えたような達成感が……」

「気のせいに違いないんだが! ブレイクスルー万歳!」


 いやいや、名前を呼んだだけでこのリアクションはおかしいでしょう。

 繰り返すけど転入以来の付き合いなんだし、日常的に会話もしてきた。名前を呼んだ事が無いなんてありえない……はずなんだけど、彼らの様子を見ているとちょっと自信が揺らいでくる。


「いやー、良かった良かった。なんつーかこうクラスメートABCとかそういう扱いなんじゃないかと最近心配だったんだよ」

「なあ? その内A君とか呼ばれたらどうしようかと思ってたんだぜ」

「お前がAなら俺はBか!? それともCなのか!?」

「やめてよ。いくらなんでもそんなAとかBとか言うわけ……ん? 成美どうしたの?」


 とことことやって来た成美が意味ありげに私の背後に視線を送っている。


 その時背中に嫌な視線を感じてそっと背後を窺ってみると、一人の女子がじっとりとした目で私を見ていた。それが誰だか思い当って、慌てて視線を逸らす。


 言ってました!

 Aさんとか言っちゃってましたよ!


 クラスメートABCではなく委員長の取り巻きABCってやってたのを思い出してしまった。


 なんだかんだでうやむやになっていて、未だにAさんの本名憶えてないし。

 東原君達の声が大きいから話の内容はAさんにも聞こえていただろうし、私の返答も恐らく聞かれただろう。

 Aさんの視線が背中に突き刺さって痛い。嫌な汗が出てきそうなレベルだ。


「ぷくく……『AとかBとか言うわけ』の続きはなに?」

「すいません、反省してます」


 うう……成美が意地悪だ。


 *********************************


「で、俺に何か聞きたかったんじゃないのか?」


 東原君がそう言ってきたのは、いつも成美や沙織と利用している自販機前のスペースでの事だった。

 教室では話がしづらい……と言うか、Aさんの視線が痛すぎて居たたまれず、逃げるようにして出てきたのだった。


「東原君達が随分と熱心にメイド喫茶を推していたから。個人的にはブームももう終わってるしどうなのかとも思って」


 メイド喫茶決定に至る議論後半の願望と妄想。そのほとんどは彼ら三人によって垂れ流されていた。私の質問に東原君は「まあそう思うのも無理は無い」などと頷いている。


「確かに一時期のブームは去った。今ではテレビで話題に上る事も無いし、ブームに乗って何となく利用していた客層はもう離れてしまっただろう。当然、当時雨後の筍のごとく乱立した店も次第に淘汰され、残っているのはもともと地力のあった老舗や顧客のニーズに敏感な一部の店だけだ。だが、だからこそ現在も残っている店舗、そして現在も利用し続けている顧客は真にメイド喫茶というものを理解していると言って良い」

「……へえ」


 東原君の長広舌に石津君と相馬君は熱心に頷いているけれど、私や成美はちょっと引き気味だった。


「それを踏まえてだけどな。それでも当時を懐かしんでメイド喫茶を利用したいと思う一般人がいても、現在残っている真のメイド喫茶は彼らにとってはもう敷居が高いんだ。そこで学園祭と言う空間で素人が開くとなれば、雰囲気だけでも味わいたいと言う素人衆は喜んで来てくれるはずだ。言ってる事判るか?」

「とりあえず判るのは、あなた達メイド喫茶に行ってるわねってことかな」


 さっき「高校生でも入れる店」とか言っていたし、間違いない。

 しかも結構な頻度なんだろう。『一般人』とか『素人衆』とか上から目線な表現が混じっている辺り、東原君達はベテランの域に達していると見た。


 東原君達の事情は置いておいて、学園祭でメイド喫茶をやれば当たるだろうと言う根拠は良く理解できた。さっきは今さらメイド喫茶かとも思ったけど、逆に今だからメイド喫茶なのかもしれない。


「伝手ってのは俺の兄貴がメイド喫茶経営してるってことなんだよ。たまにバイトさせてもらってるから制服の予備とかあるの知ってたしな」

「なーんだ、バイトしてたのかー。お客さんとして行ってるのかと思ったよー」

「何言ってるんだ? バイトで稼いだ金で客として行くんじゃないか」

「……それって、どうなの?」


 当然だろう? と言うように東原君。成美が返事に困っているのは珍しい光景だった。

 自分で働いて得たお金をどう使おうが本人の自由だけど、バイトしたその店に客として入ったら、お店から貰ったバイト代がまたお店に戻るわけで。


「とりあえず今夜サイズいくつか揃えて持って帰ってくれる事になってる。そうだ、霧嶋モデルやらないか? 先生に見せる時に実際に着てみてくれよ」

「いいよー。一番乗りだねー」


 ……成美のメイド服姿。


 いけない、また妄想が溢れ出しそうになってしまった。


「天音、お前が何を考えていたのか判るぞ」


 モデルの件で話している成美と東原君に聞こえないような小さな声で石津君が囁き掛けてきた。


「やっぱり天音はこっち側の人間だな」


 反対側から相馬君も囁いて来る。なんだか怪しげな勧誘をされている気分だ。


「こっち側とか、何の事だかわからないんだけど?」

「そうか? 霧嶋のメイド服姿は楽しみじゃないのか?」

「少しエロ目の補正入れて想像してなかったか?」

「……そりゃ楽しみだけど、エロとは心外ね」


 まったくいい加減なことばかり言う。


「間があったな。即否定しないとは……」

「なんだかんだで天音は正直者だからな」


 クラスメートのB君とC君が何か言っているけど、もう聞こえないふりをしておこう。

だんだんと存在感を増してきた男子達に名前を付ける事に。ただいきなり本文中に名前を出しても「誰だこいつ?」となりかねないので、話の種として盛り込みました。ネタとして育つかどうかは今後の展開次第です。

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