森上真:メイド服なのに
他の写真も見せて貰った。
天音先輩がフォローしたのは霧嶋先輩だけで、三条先輩や姫木先輩などは普通に写っている。
うん、三条先輩は典型的な着痩せするタイプのようだ。
普段学園内で見かける限りでは全く印象に残っていないのだが、携帯の画面に切り取られた風景の中、三条先輩の胸は豊かな実りを示している。
そして姫木先輩は……着痩せとかとは無縁らしい。まったくもって普段通りで、それ以上にコメントしようがない。
「それにしても天音先輩や霧嶋先輩を狙った分って失敗写真っすよね? どうして保存したままなんすか?」
「は? 何言ってんだ、お前?」
「え? 変な事言ったっすかね?」
東原先輩の問い返しに、俺もまた問い返していた。
それらの画像に写っているのは天音先輩の後ろ姿だ。肝心要の部分は捉えられていないのだから、明らかに失敗だろう。容量を圧迫するだけの無駄データなのだから普通は削除するはずだ。
「いや、変っつーか……お前、マジで胸にしか興味ないのか? この背中から尻、尻から太腿のラインとか見て何も感じないわけ? 俺だったらこれだけでも……」
「あ、あー、なるほど。そういうことっすか。や、自分もこれはキレイだと思うっすよ?」
理解した。先輩に指摘されて改めて見れば、胸こそ写っていないものの十分に価値ある画像だと言える。鍛え上げて無駄な肉を落としつつ、女性らしい柔らかさを失っていない。スラリと伸びた脚線など、その辺のグラビアアイドルも裸足で逃げ出す程の美しさだ。
東原先輩が明言を避けた「これだけでも」に続く言葉は容易に想像できるし同意もできる。
俺の第一優先目標が胸でなければ「ごちそうさまでした」と言って良いレベルの実用度だ。
「あくまでも胸か。ぶれないねお前」
当然である。
もちろん俺だって女体にはエロスを感じる。
しかし尻や太腿や腋と、夢と希望の膨らみでは格が違う。
「おかしな奴だな。でも、まあ気に入った。他に聞きたい事があればどんどん聞いてくれ。答えられる範囲ならなんでも答えてやる」
そう言って東原先輩はにっかりと笑った。
東原先輩との会談はとても有意義な時間だった。
何でも答えるとの言葉に嘘は無く、天音先輩や霧嶋先輩のエピソードを数多く聞かせて貰えた。
意外だったのは天音先輩もまた俺同様に女子の胸に拘っているらしいという事だ。
なんでも霧嶋先輩の胸を凝視している姿が良く見られるそうで、当の霧嶋先輩から「視線が男子っぽい」「エロい」などと言われてダメージを受けていたらしい。
天音先輩の凛としたイメージからは掛け離れているのだが、どうしてだか落ち込む先輩の姿が容易に想像できる。尊敬とは別に、なんだか親近感も湧いてきた。
他にも霧嶋先輩が作成したという超絶な着衣データの話なども。ほぼ全裸状態のそれは学園側から使用禁止にされているそうで、今後日の目を見る事はないそうだ。とても残念である。
そんなこんなで会談を終えての別れ際、東原先輩はふと思い出したように言ってきた。
「そうだ、天音流剣術のサイト見てみろよ。サラシ巻いてない天音の動画が見られるぞ。ちょっと前のだから今よりも少し小さいけどな」
後から考えるとこれが一番価値ある情報だった。
その日、帰宅した俺は即行で件の動画を視聴した。
東原先輩に最大級の感謝を捧げなくてはならない。
動画は天音流剣術が誇るなにかを知らしめるための演技だった。が、その何かが何なのかはもう俺の眼中に無かった。ナレーションは聞こえていても意味を理解しようと脳のリソースを割り振る余裕がない。
ただひたすらに、画面の中で動きまわる天音先輩を見ていた。
撮影されたのはおよそ三年前。画面に映る先輩は中学生だ。
そしてその胸部には、確かに夢と希望が息づいていた。
一つの疑問が解けた。
新学期に入ってから密かに流れていた『天音先輩は、実は胸が大きい』という噂は真実だったのだ。東原先輩から得た情報で視聴した動画によって、それは疑いようのない事実だと判明した。
だが俺はさらなる疑問を抱え込んでしまった。
即ち『現在の天音先輩の胸はどうなっているのか?』である。
あの動画が撮影されてから既に三年余りの歳月が流れている。
東原先輩も「今より少し小さい」と言っていた。
確かに、あの時幻視したそれと動画のそれは大きさが異なっている。
中学生から高校生へと成長した天音先輩は、その胸の膨らみにさらなる夢と希望を詰め込んだに違いない。
見たい!
この目で!!
先輩の真実の姿を!!!
しかし、どんなにそれを望んだとしても、実現する可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
学園生活の中で天音先輩は常にサラシを巻いている。実習中は言わずもがなだ。あるいは更衣室に隣接したシャワールームを使う機会があるかもしれない。学園でサラシを外すとしたらそれくらいだろう。そしてそんなところに俺は入って行けない。入れば間違いなく退学である。
――仕方ない。俺の溢れる想像力で補おう。
当面は我慢の時だ。急いては事をし損じるとも言う。
ここは一つ腰を落ち着けて機会を窺おう。
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そんな機会なんてそうそう訪れない。
はい、判っていました。
学年違い、コース違いだからそもそも接点がない。これまでのように学園内で接近遭遇する事はあっても、だからなんだという話だ。廊下で行きあったらいきなりサラシを外すとか有り得ない。
考えて見れば……いや、考えるまでもなく、俺が天音先輩の胸を直視できる日なんて来るはずが無かった。
「チャンスがあるとすれば来年の海魔迎撃戦じゃないか? 今年みたいに学園枠の募集があれば一緒に行けるだろ」
あれから懇意にさせて貰っている東原先輩にはそう言われた。
確かにそれが一番無理のないシチュエーションだろう。
そう考えれば今年の迎撃戦、俺も海に遊びに行くべきだったと悔やまれる。どうして俺は海の幸食べ比べなどをしていたのか。クラスの連中と食した海産物はとても美味しかったのだが……。
比べるならどちらが重要かはっきりしている。
当時は知らなかったのだから、いずれにしろ後の祭りではある。
そんな訳で半ば諦めていた。
不可能な事に思いを致して時を無駄にしていられない。
何故かと言えば、来月には学園祭があり、俺もまたCOD大会のクラス代表になっているからだ。
どんな内容になるのか、詳細は未だに発表されていない。団体戦なのか個人戦なのか、トーナメントなのかバトルロイヤルなのか、それすらもだ。
だが代表同士、天音先輩と戦うのは十分に有り得る。尊敬する天音先輩を失望させないためにも、俺は俺で腕を磨かなくてはならない。
そんな感じで真面目に修練を積む日々を送っていたら、ある日東原先輩からメールが届いた。
なんでも2-Bでは学園祭のクラス展示がメイド喫茶に決まったとの事で、添付されていた画像を開いてみれば、何とも可愛らしい霧嶋先輩のメイド服姿だった。もちろん即保存した。
そして追記にはこう書かれていた。
『霧嶋が天音達のためにメイド服の着衣データを作成中。大会にはメイド服で参戦の模様』
「マジか!?」
驚愕に思わず声が漏れる。
震える指で携帯を操作して再度霧嶋先輩の画像を見る。
霧嶋先輩が着ているのは厳密に言えばメイド服では無い。
メイド喫茶用のメイド服風制服だ。
だからなんだと言う輩もいるだろうが、俺だって別に言葉遊びをしている訳じゃない。
メイド服とメイド服風制服の間には厳然たる差異が存在するのだ。
本来のメイド服は意外と地味である。
そもそもが一種の作業着であるから当たり前なのだろうが。
対してメイド服風制服は、メイド服を原型としているだけに華美ではないが、女性の(と言うよりも女体の)魅力を最大限に引き出すようにデザインされている。
特に胸。
そう、胸だ。
霧嶋先輩の画像を見れば一目瞭然だ。
腰から腹にかけては比較的厚めの生地でぴったりと締め付けるようになっており、対して胸の部分は薄めの生地で緩い造りになっている。いわゆる乳袋に近い状態になるわけで、胸の大きさや形をかなり正確に見て取れる。
結論を述べるなら、やはり霧嶋先輩は素晴らしいと言う事だ。
いや、そうではなくて。
いやいや、霧嶋先輩が素晴らしいのは間違いないのだが。
これを天音先輩が着るのなら、夏を待たずに俺の悲願は達成されることになる。
そんな夢と希望が俺の胸にも満ちてきた。
そして後日、続報として天音先輩のメイド服着用が決定したとのメールを受け取るに及び、俺のテンションは最高潮に達した。テンションそのままに修練を続け、勢いで弓術のレベルが上がったりもしたがそれは些事に過ぎない。
大会の詳細が発表されたのはその数日後だった。
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宇美月学園学園祭COD大会
・各クラス二名出場
・全クラス参加のバトルロイヤルとする
・仮想宇美月学園全体を戦闘域とする
・個人順位によりポイントを付与
・一位五十ポイント、二位四十ポイント、三位三十ポイント、四位二十五ポイント
・代表二名のポイント合計によりクラス順位を決定
・予選中はマップ構造物の非破壊指定を解除する
・PORTALは使用不可とする
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これはかなり実戦的な大会になる。
PORTALのようなゲーム的要素が排されいるし、戦闘域が学園全体なっている。闘技場での試合のように魔術タイプが有利になることもない。
夏にアップデートされたマップをすかさず使ってくるあたり、学園側の本気を見たような気がする。
これは面白くなりそうだった。
そうした期待と、それに数倍する天音先輩のメイド服姿への期待を抱いたまま日は過ぎ、とうとう学園祭当日になった。
副代表の水無瀬とともに接続室から仮想世界に入り、開会式が行われる闘技場へ移動する。
観客席は満員だった。学外からの来賓が多い。
宇美月学園はCODの活用が国内で最も進んでいる専門校だ。今回のような大型マップを使用した戦闘も他ではまだ実現していないから、他校からの視察も数多く入っている。
とは言え、大半は本当に観戦目的だ。
スキル所有者同士の真剣勝負は見応えのあるショーにもなり得る。
観客席を見回していると、横から「あ、天音先輩だ。本当にメイド服着てるね」と水無瀬の声が聞こえ、慌てて視線を闘技場に下ろした。
入場口には見間違えようもない天音先輩の長身が。
我が悲願、ここに達成…………しなかった……。
東原先輩からの情報通り、確かに天音先輩はメイド服を着ていた。
でも防具も着けてたよちくしょう!




