七十話
「アアアアアアアッ!!!」
空白は人らしくない絶叫を伴って突撃する。
もはや声からもわかるくらいに壊れていくのが実感できてしまう。
壊れていった結果、ウィネリマとしての範疇を大きく超えた身体能力でさらに速く駆けた。
草薙が反応しきれずに拳を食らう。
急上昇した力は空白も扱いきれていないが、それでも草薙を追い詰めるには十分過ぎた。
「~~~っ!!!」
草薙はそのまま殴り飛ばされ、さらに追いつかれて地面へ叩きつけられる。
草薙の額からは血がどくどくと流れた。
(身体能力の上り具合が尋常じゃない!!)
草薙は瞬時に鎖鎌で拘束する。
一旦相手の動きを封じなければ。
「ガアッ!!!」
しかしかなりの硬度を持った鎖が引きちぎられる。草薙がエネルギーを込めるよりも先に行動できる空白。
60連撃。
炸裂したのは1秒足らず。
すさまじく重くて速い攻撃が草薙を襲う。
鎧が砕けて、内臓が傷つき、骨が粉砕される。
草薙は血反吐を吐いた。
「やあっ!!!」
追撃させまいと碧が背後からスパナを振り下ろす。
ゴン!
大きな音が響く。
空白は背中で受け止めきってしまった。
少し遅れて首がぐりんと真後ろへ向いた。
もはや人間の関節の可動域なんか関係なくなってしまっている。
ギロリと睨まれた碧は体が硬直した。
ありえない光景と恐ろしさ。
それらが碧の体を強引に縛り付けていくような感覚があった。
「がっ…!?」
人ならざる動きに戦慄していた碧は殴り飛ばされた。
数十メートル転がって碧はせき込む。
打撃によって肺から強制的に押し出された空気が呼吸器すべてを痛めつけていく。
肺から出た血を吐き出す。
でも草薙ほどのダメージが入っているわけではない。なんでかは少し分かった気がする。
壊れていく空白人間としての体は次第に欠損し、消滅していっていた。それを補うように影が補強している。
だんだんと影そのものになりつつあるのだ。
影の力という同質な力を持つ碧には効きが悪いらしい。
幸い追撃は来なかった。
そもそも草薙が空白を自由に動かせるはずがない。
あれだけの傷をおってなお空白の目の前に立ちはだかり、霊斬で強引に押しとどめる。
幹部としての意地と圧倒的な継戦能力。
相性問題がなければやはり碧よりも草薙が格上であることを知らしめてくれる。
(でも…あれじゃ何度も持たない…!!)
碧はすぐに駆け出した。
肺も体も既に悲鳴を上げている。
一息が激痛となって体をつんざく。
それでも碧は走った。
草薙が危ない。
既に血を吐き、腹から血を噴き出しながら戦い続けている。限界がいつ来るかもわからない。
漆黒の棘が空白を貫いた。
足を、腕を、胴体を。
強引にでも突き刺して固定する。
僅かな間でもいいから草薙への攻撃を防ぐ。
「ガッ…ゴッ…!!!」
苦しそうに声を上げる空白。
それでも血走った眼は草薙の方を向いていた。
影の力に由来する棘は貫いた対象の力を一時的に封殺する。さらに棘が影の力を吸い上げていく。
でも、吸い上げられたのは少しだけ。
力を取り戻した空白は周囲を弾き飛ばして跳躍する。
「ぐっ…!」
草薙は吹き飛ばされた。
(いける…!!)
空白がいる場所から5m離れた場所で、碧から色が消えた。
激しい黒い風が碧を取り巻く。
「!!」
空白は瞠目した。
今までから遥かに増した影の力。
自身の色がなくなるほどの高出力。
彼女は次で自分を仕留めに来ると見た。
草薙も碧の行動を把握する。
なんとしてでも空白の動きを止めるために駆け出した。
世界が暗くなった。
3人を閉じ込める黒い世界。
張り巡らされた真っ黒な糸と、棘の山。
碧が最大限に引き出した影の力の影響で周りが変化していく。
その危険性に気が付いた空白は対抗した。
「がああっ!」
白い空間を再び呼び出す。
白い空白の空間と黒い世界がぶつかり合った。
ギギギギ…!!!!
激しい音がする。
互いに強い空間支配系の能力がしのぎ合う。
(な…なんて力!!)
碧は冷や汗をかく。
出力自体は碧の方が高い。
しかし碧はこの力を使うのは初めてだ。
精度が低い。
だから空白の生み出す空間に対してまっすぐ力を伝えられない。
ところどころ押し負けていた。
(このままじゃ…!)
碧の脳裏に敗北の2文字が浮かぶ。
「ごっ!?」
しかし空白の動作を草薙が阻む。
能力を封じられてしまってこそいるが彼の怪力は健在。
空白をぶん殴った。
僅かに空白の精密な操作がぶれる。
「今!!!」
碧は自分に言い聞かせるように叫んだ。
刹那黒の空間が優勢になり、空白の空間を消し去ってしまう。
「!!?」
空白を包み込む闇の沼。
足をからめとられ、ズブズブと下へ引きずり込まれていく。
「終わりですっ!!」
碧は沼に内包された力を開放する。
うず潮のように激しい流れが形成されて、空白を底のない沼の下へ下へと引きずり込んでいった。
ゴゴゴ…!!
――――
「はあっ…はあっ…!」
その場にへたり込んでしまった碧。
既に黒の空間は姿を消してしまっている。
目の前には影を剝がされてぐずぐずに崩れ去っていく空白の姿があった。
ほとんど肉体が残っていない。
肋骨が剥き出しになって、手足もところどころしか残っていないのが見えた。
なんと恐ろしい能力ななのだろう。
草薙は近くに横たわっている。
流石に限界が来たようだ。
空白は虚ろな目をしたままもはや何も言わない。
ただただ崩れ去っていくだけだった。
「彼は…既に死んでいるみたいだ」
草薙はぽつりとこぼす。
恐らく影に瘴気が混ざり始めた辺りからだろう。
彼の温かみを一切感じなかったと草薙は説明する。
「な…なんとかなったん…ですね」
碧はぜぇぜぇと激しく息をする。
力の反動か、再び髪の一部や片目の瞳が真っ黒になってしまっている。
「よかった…です…」
碧はどさりとその場に倒れ込んで気を失う。
「…ありがとう、碧くん。俺だけでは倒せなかった」
草薙はふっと笑って礼を言う。
日はまだ高く昇っていて、あおむけに倒れている草薙の目にはとてもまぶしかった。
――――
竜は戦慄した。
確実に相手は死んだと思えたところに突如として放たれた斬撃。
それは無慈悲にも竜を両断した。
数回の変化に伴い強化された肉体もまるで嘘のように敗れたのだ。
そして復活して紫色に染まる脈動がどくどくと激しくなっていくのを感じる。
こいつは、今まで本気を出していなかったとでもいうのか。
相手の動きに合わせて自動追従するエネルギー弾を放って牽制してなんとか均衡を保っている。
もともと苛烈だった攻撃に輪をかけて猛烈な攻撃。
ズババッ!!!
切り裂かれた。
なんとか身を翻しはしたものの甲殻の端が宙へ舞う。
速い。
まず彼女の速度がさらに増している。
しかしそれだけが理由ではない。
今まではまったく攻撃を受けないように立ち回っていたがゆえに、手数は少ない方だった。
しかし今はどうだ。
被弾を一切気にしない彼女は強引に突破してくる。
「あっはははは!!!」
凛とした以前とは大きく異なる印象。
攻撃パターンも大きく様変わりしているために対応しにくい。
今度は腕が切り飛ばされた。
痛みに悶絶する間もなく次の攻撃が来る。
竜は跳躍した。
赤い残光が瞬き、翼を切り落とされて地面へ叩き落とされることになる。
ザンッ!!
やけに軽い音がした。
同時に竜の視界は斜めに傾いて、地面に落ちた。
真っ二つになった体はもはや限界とばかりに崩れ始める。
竜が可能とする再生はもう残されていない。
まだだ。
竜は悪あがきとばかりに立ち上がった。
強引に上半身をつなぎとめようとする。
消え失せていく紫の脈動が少しだけぶり返したように思えた。
紫から虹色。
今までの色が入り混じるように光り出した。
翼の形がぐにゃぐにゃと変化していく。
これから竜はさらなる殻を破ろうとしている。
だが、御信はそれを悠長に待ちなどしなかった。
「――――」
竜が鳴き声を上げるよりも早く、すべて目に見えなくなるほど細かな肉片にまで切り刻んだ。
あまりにあっけない悪あがきの末路を嘆くまでもなく竜は完全に消滅した。
ぎらり。
目の前にいた敵がいなくなって御信は次の標的を探すことになる。
そしてほかならぬ強者の気配に敏感に反応した。
塔の内側できらめく複数の気配。
そこへ目掛けて御信は飛び立った。
――――
「おおおおおおおおっ!!!!」
播磨は雄たけびを上げる。
どれだけ傷を受けようともすぐ治る。
叩きこめ。
ほんの一撃でも多くこいつに叩き込む。
拳を、全力を振るって加賀を追い詰めて見せた。
しかし加賀もただでやられているわけではない。
超パワーを前にできる対策をいくつも施す。
少しでも勢いを弱めるための防壁。
空気を頑丈な壁のように変質させて、さらに鋼でコーティングする。
だがそこまでしてなお播磨を止めるのは難しい。
前代未聞なまでの超パワーが障壁に有無を言わさず強行突破を可能にする。
バキィ!!!
作り出された壁を貫いてそのまま加賀の顔面に拳が入る。
加賀の体が回転しながら吹っ飛ばされて塔の壁に激突した。
ゴウッ!!
播磨を炎が包み、あぶる。
「くっ…!!」
その炎の中には毒が複数種類入っているらしく、播磨の動きをほんの少しでも鈍らせる。
しかし播磨の黄金エネルギーは瞬時に免疫を強化してそれらを分解して、素早く動く風圧で炎を消し飛ばして見せた。
「播磨…?!」
播磨の異変に気が付いたのは雨宮。
ぶすぶすと黒焦げになっているからわかりづらい。
でも髪が白くなっていた。
そしてだんだんと弱弱しい体へと変わっている。
がりがりに痩せてしまった。
しわがれたこぶしを握り、加賀へと突撃する播磨。
彼は尋常では無い速度で老いていた。
当然ここまで強力な力に代償がないはずはない。
強力な力と引き換えに寿命を削っていく。
空白のものよりもピーキーなそれはハイリスクハイリターンの極み。
播磨自身でさえこの能力に理解はない。
存在自体は知ってこそいたが使ったのは初めて。
雨宮はよくないものだとなんとなく思っていた。
それでもここまで残酷なものだとは予想していない。
雨宮は悲鳴に似た声を上げて走り出す。
しかし純粋な力で加賀たちの戦いについていけない雨宮では風圧の壁を突破することはできない。
止められない。
彼を止めてあげることができない。
もう誰も失いたくない。
草薙に以前語った心からの思いが頭のなかにもう一度現れる。
だが目の前の戦いに混ざることはできない。
雨宮は嘆くことしかできなかった。
それでも。
戦いの合間、ほんの少し速度が落ちる瞬間に播磨の顔が見えた。
もう既に高屋よりも年上みたいになっている顔には確かな闘志が見えた。
雨宮の瞳が揺れる。
――
少し前。
雨の音が道場を包み込む中草薙が訪ねてきた。
御影山で播磨のことを認識して以降、雨宮は彼のことを放っておくことができずに修行やらいろいろ世話を焼いていた。
『播磨くん、どうでしたか』
草薙の問いに対して雨宮は答えた。
『正直、無茶苦茶が過ぎる。時雨と言い、自分のことを勘定に入れることがなさすぎる』
草薙は、私も止めてるんですがね…と悩ましそうにしている。
『悪いとは言わない。生来の性質と言うものはそうそう変わらない。彼にできることのほとんどが自己犠牲の上に成り立っている』
そこを止めてしまっては播磨の防人としての存在否定になってしまいかねない。
修行を付けてきて、ネガティブ思考ながらもなにを動力にしているのか努力は惜しまずひたむきだった。
そこにおいては雨宮は少し気に入っている節があった。
同時に心配の種でもあったけれど。
『多分…彼は時が来れば、自分が死んでも何かのために動こうとする。もしそうなったら私たちは彼を止められない』
雨宮は誰もいない方向を向いたままぽつりと言った。
ざぁざぁという音がまた耳を占領する。
草薙はそれをかなり神妙にとらえたようだ。
難しい顔をしていたのを見て雨宮はふっと笑う。
『大丈夫だろう。彼はそれでも立ち上がってしまうだろうから』
心配ない。そう雨宮は思ったのだ。
――
だが現実は甘くはない。
播磨はみるみる老いている。
今までの巻き戻しとは明らかに違う。
もしこのまま老衰、もしくは反撃を食らってしまったら?
きっと…彼は…
「美空!なんとか播磨を止められないか?!」
「!?止めるんですか…?!やってみます!!」
美空に無茶振りする雨宮。
雨宮の声色から異常事態だということを理解した美空は即座に応じて見せる。
触手を展開し、無理やり介入する作戦だ。
美空は風圧にあおられ、押し戻されてなお進むことができた。
美空はこの闘いに何とか介入できる。
雨宮は冷や汗を流しながら、美空へ時間操作をかけてさらに思考と行動の余裕を作り出す。
触手が播磨の胴体を捕らえた。
「ごめん!播磨くん止まって!!」
美空は叫ぶ。
なんとか彼を止めることができたと思ったその時。
一閃が迸った。
ずるり、と肉が崩れ落ちる。
鮮血が飛び散った。
まるで時が止まったかのような一瞬だった。
触手が切り飛ばされて宙を舞う。
同時に播磨も両断された。
播磨が状況を理解して表情を変えていく。
光のない目が一瞬こちらを見た。
その光景は美空の視界に移ってはいても、認識ができていなかった。
戦乱はさらに加速する。
竜を屠り暴走した御信は播磨のエネルギーに反応してここまできてしまった。
そして不幸にも御信はそのまま加賀も触手も巻き込んで播磨を切断してしまったのである。
どちゃ。
播磨だったものが地面に落ちて生々しい音を立てる。
血が池のように広がっていく。
血は御信の足元まで来ると吸い上げられていった。
御信の瞳孔が揺れる。
事態を把握してわずかに意識が戻ったのかは定かではない。
目の前にいたもう一人の強者はまだ息絶えてなどいなかった。
「おのれ…!次から次へと!!」
加賀は播磨から受けたダメージをすぐに回復して御信を叩き潰さんと襲い掛かる。
戻りかけていた御信の意識は遠のいて、再び目の前の敵を殺す怪物に戻ってしまう。
「ふぅっ!!」
大太刀が赤い弧を描く。
空気を裂くような音とともに加賀の身体が切飛ばされる。ほんの一瞬。
加賀が驚く間もなく御信はさらに連撃を加える。
40連撃による攻撃は途中までは当たったものの半分以上が手応えのないものだった。
困惑する御信の腹を巨大な槍が貫く。
「…!!」
御信が瞠目する。
赤い血しぶきが塔の床を染めた。
それは加賀の血でもあり御信の血でもある。
腹を貫かれてなお、御信は止まらなかった。
自身から流れ出た血を吸い始める。
同時に胴体ごときり飛ばした時に出た血まで吸っていき、体を回復させてしまう。
しかし回復したのは御信だけではない。
加賀も同様だった。
既に傷一つない状態。
両者はそれに驚くまでもなく次の攻防へと移行する。
今度ははっきりと真正面からの激突。
激しく空気を揺らす。
播磨が暴れた時以上の風圧が吹き荒れた。
播磨のものよりも鋭く細かな風圧が束となって周囲を巻き込んでいく。
「ぐっ!?」
雨宮はたまらず塔野壁に叩きつけられた。
そこをなんとか怪人が保護していく。
美空はなんとかその場にとどまってはいるが動こうとすれば吹き飛ばされてしまう。
美空ですら付け入る隙のない熾烈な戦いだった。
刀と肉体、岩や炎。
ありとあらゆるものがぶつかり合っていく。
加賀の腕が飛び、御信の体から血しぶきが上がる。
激しい攻防の中で両者とも少なからぬ傷を負った。しかしそれを瞬時に治しながら攻め、同時に守る。
「はああっ!!!」
加賀は勢いよく前進した。
御信の懐に入る。
今度は目とその周囲の顔が切り飛ばされる。それでも嵐のような斬撃を強行突破した。
御信の大太刀は2mもある大きなものだ。
だからこそその間合いよりも内側に入られれば攻撃手段が少なくなってしまう。
烈火が炸裂した。
合計8個。
素早く繰り出された拳の延長線上に炎の花が咲いた。
爆発し、御信を吹き飛ばす。
御信の体は塔の壁に激突してめり込んだ。
ドゴォオン!!!
塔が激しく揺れる。
あれだけ堅牢だった塔の壁でさえも崩壊するほどの威力。
御信の胴体はぐちゃぐちゃになった。
「…ぐ」
それでも御信はまだ動いた。
前と同じように自身から流れ出た血を吸って体を修復しようとする。
だがそれには時間がかかった。
今までの傷よりも複雑な傷だから。
その一瞬を逃さず加賀は眩いほどの光を右手に握りしめた。
全員の背筋が凍る。
御信を固定する事が出来るのは2秒足らず。
だが御信相手にそれができるのは非常に大きかった。
通常なら1分はかかる溜めを理不尽にも相殺して大技を放つ。
「トゥーラ」
加賀の声とともに光は手のひらから溢れ出し、御信のいる場所を埋め尽くすように圧倒的なエネルギーで焼き切った。
ゴオオオオオオ…!
光が消えた時には塔の壁はぐずぐずに溶けていた。
そこに御信の姿はない。
加賀はふぅと一息を吐く。
緊張の瞬間だった。
美空は息を呑む。
雨宮は恐怖を押し殺すように加賀を睨みつけていた。
次標的になるのは自分か。
圧倒的に見えた播磨も御信も彼に敗れた。
それは絶望的な結論へとつながっていく。
勝てない。
避けられない敗北。
それでも防人は立ち上がった。
相対する。
美空たちが加賀に挑もうとした時だった。
加賀の身体がばらばらにきり伏せられたのは。
「なっ…!?」
加賀も予想外の事態に驚きを隠すことができない。
彼の後ろには御信の姿があった。
黒く焦げながらも未だ戦いの場に2本の足で立っていた。
赤く染まった瞳も髪もほとんど色を失い、茶色く枯れてきている。
御信を支配していたあの血染めの力は既に尽きていた。
少なくない怪我を負い、震える手で柄を握る御信は最後の力を振り絞った。
「はあああああああああっ!!!」
なんてことない刀の音。
普段の彼女を見慣れた人なら弱弱しいと感じたことだろう。
それでも彼女は斬った。
無数の斬撃が集中的に加賀の頭を切り刻む。
加賀の力の対処法は、彼が認識し対処するよりも早く脳の機能を停止させること。
その結論にはすぐに気が付いていた。
それが分かっていながら実行できなかったのは加賀が強いからである。
被弾を気にしなくてもよくなり身体能力が上がった御信でさえそれを実行することはかなわなかった。
この一瞬の隙を除いて。
バラバラになって風に吹かれて消えていく加賀の頭だったものを見つめながら御信は立ったまま荒い息をしていた。
髪のほとんどは茶色く枯れてしまい肌も紫色にただれていく。
この光景が春の終わりを告げていた。




