第69話【誓いの前日編その6】
【屋敷内大広間】
聞かれたくない話が有ったため、弟子達は先に食べさせ、通常の背丈の3席と子ども用の席、計4席を空け、両手で頬杖を付き膨れた表情で今か今かと、待っているアイナが、痺れを切らしながら独り言を呟いていた。
「バルクス達、随分と遅いわね……今日で、ミフィちゃんとしばらく会えないし――――まぁ、こればっかりはしょうがないわよね」
おでこに皺を寄せ、唇を尖らせながら、【幼い悪戯】を使い、ラシメイナの離乳食を適温にしつつ、口元まで運ぶ作業を繰り返している。
普段は百人超で食事をするこの部屋も、赤子とアイナだけだと過剰に広すぎるため、イライラよりも少しだけ寂しい気持ちがあった。
待てど暮らせど戻る気配はなく、離乳食も終盤のデザートに差し掛かったその時だった――――
出入り口の扉が勢い良く開くと、大きな音が部屋中に響き渡り、それに驚いたラシメイナがリンゴを吐き出しながら泣いてしまい、慌てて抱き寄せ上下に揺らすようにあやすが、一度機嫌を損ねた赤子は、グズるだけで中々笑顔は戻らない。
だが、それでも懸命にあやし続け、赤子を見るときは天使の様な笑顔で微笑み、正面に現れた来客には鬼神の如き険相で睨むを交互に繰り返す――――たまに順番を間違えて、恐ろしい形相をラシメイナに向けると余計に泣き出す始末だった。
予想外の事に慌てふためくアイナを他所に、原因が自分達のせい事とは露知らず、突然現れた全身黒フードの二組の小柄な人影は、軽快な口調で喋り出した。
「いきなり呼び出されたと思ったら、アイナちゃんも子持ちになったの?どこもかしこもベビーブームだね。」
泣き声が耳元で響いてるおかげで、男の声が一切耳に入らないアイナは、冗談を無視して大声で話しかける。
「お婆ちゃんから聞いたわよ!!。貴方達も【晦冥の奈落】に行くんですって!?」
その態度は対抗意識の現れたなのか、両手を腰に当て負けじと腹から大声を出し、隣にいる相方が驚くほどの声量で返答をする。
「あー行くよ!!まぁ、俺達は任務って言っても人探しって感じだけどね」
互いに低身長を誇る2人の間で、会話を繰り返す度に、驚いた赤子の泣き声と徐々にお互い声が大きくなり、もはや騒音と呼ぶに相応しい程の三重奏となっていた。




