第61話【ニッシャ精神世界その1】
大きな両手を合わせ、ハニカミながら物腰低く話し掛けてきた。
「ニッシャ煙草持ってるか?……嫌、悪い悪いそういやお前吸わなかったっけ―――」
口元を寂しそうにしている髭面に体を起こした勢いで、数本の煙草をねじ込み、指から火を出して点火させると、嗜好品を手に入れたドーマは、プレゼントを貰い眼を輝かせる子供の様に喜び、一吸いで雪のように舞う灰と周囲を漂う大量の煙に変えやがった。
「おまっ!?」
私はビックリして変な声を上げ、得意げに笑う髭面に蹴りをかますが動作を読まれ、鍛え抜かれた剛腕で軌道を逸らされると、空を切る音がした。
「まぁそんな、怒るなって……五年振りの再開だろ?」
そう言って笑みを浮かべると、蹴り上げた右足を軽く叩きながら、感慨深そうに続ける。
「この五年で俺の時は止まったが、お前がこんなに美人になって、おまけに元気そうで何よりだ。それにしてもその魔力懐かしいな―――【《加藤名人】だっけか?」
ドーマは惚け顔でそう言うと、「【火速炎迅】だよこのボケが!!」と怒鳴るニッシャに頭を勢い良く叩かれ、その衝撃で後ろへ倒れ込み、木漏れ日射す木々の隙間から空を見上げると、再び笑いながら話し掛けてきた。
「あーそうそうそれね!!―――で?、上手く使いこなしてんのか?」
「最近買った自転車乗れた?」みたいなテンションで質問をし、ニッシャは煙草を咥え火を灯けると、ため息混じりの愚痴が煙と共に溢れてきた。
「この五年間、自分なりに修行してきたけど、あんたの様に上手くは使いこなせてないし、今の私じゃ【4速】が限界ってとこかな。そして何より―――さっきあんたの娘に殺されてここにいるからな」
私の【娘】と言う単語に反応したのか、ドーマの顔は森のような顎髭で表情さえ確認出来なかったが、どこか寂しそうな雰囲気を醸し出していた。