第52話【子育て日記二日目】(アイナ激闘編その5)
羽を無くし失落しているミフィレン達を発見してから約0.3秒と短いながら、我が子の様に接していたニッシャが導き出した答え、それは―――【死ぬ気で助けること】だった。
刻一刻と迫る決断の時が迫り、小さな命を救うため、呼吸に回す体力全てを【火速炎迅】に費やす覚悟を瞬時に決め、全身全霊の魔力を指に込め、床に突き刺すと落下地点で円状に広がる炎の渦が周囲を焦がしながら出現した。
【炎武4の段-昇火流炎】
(生物の様な螺旋状の炎は、対象を中心に上昇と共に廻ってゆき、熱風を纏わせながら宙へ浮かす)
この時、ニッシャが最後に見た景色は、仇を討って高笑いするアイナでも、事態が収束出来ず慌てふためく弟子達でもなく、調整したお蔭で丸焦げにならなかったミフィレン達が、炭で顔を汚し涙で服を濡らしながら走り寄ってくる姿だった。
(こんな所で、あの魔力調整が役に……立っ……た……な―――)
子を思う気持ちで救った【命の灯火】は消え、力なく手がぶら下がると、役目を終え壊れた人形の様に、行き場をなくして床に転がっていった。
「ヤってやったわ!!ついにこの時が―――」
アイナは、怨みを晴らせた喜びに心が踊っていた―――だが、その喜びは一瞬で崩れ去る。
ミフィレンは真っ先にぐったりと血を流しながら倒れているニッシャを仰向けにし、小さな手で顔を綺麗にすると涙で声を押し殺す様にして話しかける。
「あなたは、笑顔が一番似合うってあの時言ってくれたよね?……それが嬉しくて、心強くて、自分に自身が持てる様になったの。でもね―――ニッシャが居なきゃ笑顔になれないよぉ……」
アイナは自分の愚かな選択を今更ながら後悔してしまった。
人の命を奪うということ、そして残された者の気持ちを一番側に居て解っていた筈なのに、何一つ理解出来ていなかったのだ。
全てを奪ったニッシャは私の大好きなパパを殺した。
だから、私は仇であるニッシャを殺した。
でも、ミフィレンの唯一の母となる存在を消してしまった。
同じ過ちを犯してしまった事に対して、謝罪の言葉も後悔の念も最早手遅れであり、二人の間を割って入るような事は今の私には酷だった。