第51話【子育て日記二日目】(アイナ激闘編その4)
【道場内天井付近】
下を見渡せば【血の赤】に【床の茶】が複雑に混ざり合っており、ニッシャ自身も早急に治癒を施さねば、最悪の事態に陥る状態まで、深手をおっていた―――が、目の前の事に夢中になっているせいか、そんな事はお構い無しに筆を走らせる子ども達。
「ラッシーお絵描き上手に出来たね!!」ミフィレンがそう言うと無邪気な丸顔を向け、まだ歯が生えていない口を大きく開きながら満面の笑みを浮かべると、釣られてお互いに笑い出す。
【有羽天馬】は、己の短足を必死に動かしながら浮遊し、ご主人の命令に対して忠実に従っており、魔法筆で生成された実体は、完成度や込めた気持ちに能力や発現時間等が起因するため、不恰好な馬は少しずつ高度が下がっていくが、天井の光景に見とれる彼等は、その事実にまだ気づいていない。
徐々に美術的感性が開花しつつあるミフィレンは、それぞれの人物の名前を順に描いていき、最後の仕上げに【ある文字】を書こうとしていた。
道場の端から端まで一直線に走り抜ける馬と子ども達の姿を、開いた口と止まらない鼓動が押さえられない弟子達は、誰に命令された訳でもなく、自立的に惜しみ無い拍手を小さな絵描き2名に贈っていた。
拍手喝采に心地よい気分に満ち溢れたミフィレンだが、騎乗していた天馬の姿が徐々に薄れてゆき、ついには高さ15Mの所で墜落してゆく―――突然の出来事に「キャー!!」とラシメイナが泣き始める。
落ち着かせるために身を包み込む様に守るが、二人分の重さで速度が増してゆき、着床まで残り数秒となかった。
「やっと復讐を果たせるよ……パパ」と言う声に混じり、微かだが聞こえる愛娘の声に正気を取り戻したニッシャは、薄れゆく意識と涙で滲んだ視界を無理やり天井へ向けると、アイナの後方で何かが落下しているのが僅かだが見てとれ、それに気づかないのか力を緩めることはなく、段々と蒼白くなるニッシャの顔を罪悪感の欠片もなく、口角を上げながら締め上げていく。




