第30話【現れし闇】(蟲毒玉編その2)
【深淵の渓谷中枢】
辺りを照らす翡翠の光は、永久に続くようなこの渓谷で一体何処まで届くのだろうか?それは誰にも分からず、セリエやノーメン達にとって眩い光でも、暗所で暮らす生物達にとっては、視覚的要素は無意味である。
大柄な体ながら小心者のノーメンには伝えなかったが毒の持つ特殊な成分により渓谷中の危険種達は我先にと捕食のため【蟲毒玉】を持つセリエ達に狙いを定めるだろう。
「と、まぁ……こんな感じですよ?少しは心も晴れたでしょ?そんじゃおやすみー」
一通りの説明を終えると見飽きたのか、セリエは重いまぶたを擦り付けながら仰向けになると、指先で球体を回しながら静かに眠りについた。
終始軽快な口調で話してはいたが、【蟲毒玉】事態は特定の生物でしか採取出来ない希少素材とされ、討伐+錬成を兼ねると【入手難易度level-Ⅳ】と言ったところだろう。
先導者を自動追尾する風魔法に乗りながら眠りについたセリエに代わって、時には【王女】を守る【騎士】のように振る舞い、またあるときは垂直な岩壁を登ったりと道無き道をがむしゃらに突き進む事、数時間が経過した。
【無尽蔵】と言葉では表しているが、人である以上ノーメンにも限界というものはあり、幸いにも周囲には強力な生物反応がないため元々暴君殺戮芋の住み処であったであろう、直径7M程の穴蔵で夜を過ごすことにし、出入口には外敵が入らぬように上面を切り崩すと、瓦礫が積み重なるように塞がる。
用心のため子犬に火を吐いてもらい奥行きと生体反応の確認をすると、余程巨大な個体だったのか数秒程経過し火の玉が壁に当たる鈍い音が壁と反響しながら耳元へ届いた。
左手から魔力により、貯蔵してある日曜雑貨や寝袋含む布製品等を出すと、壁面に沿って等間隔に地面へ木材を突き刺し、子犬の息吹きで松明の様に火を灯す。
相変わらず空中で眠っているセリエのために簡易的な寝床を作り、一仕事終えた様に満足すると地べたに座り込み、人肌に近い温度の子犬を撫でながら、危険を伴う任務の事で物思いにふけていた、その時だった。
巨大な地響きと共に最奥から入り口に向かって順番に火が消えていくのが分かり、未確認の生物は目にも止まらぬ速さでこちらへ接近し、ようやくその姿を確認出来た頃には互いに必殺の間合に入っていた。