勉強
今、俺は自分の部屋の机の上に置いてある問題集を解いていた。
朝食を食べ終えてから、かれこれ2時間は足っているだろうか、少し集中力がなくなってくるのを感じた。
「ふうー、少し疲れたな、一息入れるか」
俺は一言、誰もいない自分の部屋でそうつぶやく。
今日は休日で特にやることもなかった為、こうして俺は勉強している、勉強している内容はもちろん、小6の内容ではない、何かと言うと、中学校の勉強をしているのだ。
え、何で、?、と思うかも知れないがこれには俺なりの考えがある、まず中学に行きだしたら今の小6の時みたいにゆっくりする時間はあんまりないと思う、だって中学に入ったらテストやら部活やらで色々と面倒くさくなってくると思うので、こうして前もって勉強をしているのだ。
当初、俺は前世で一応だが、大学を出ているし、高校ぐらいの勉強だったら余裕だと思っていた、だが、いざ小6の勉強に取り組んでみると意外と難しいし、覚えていないところも多々あった。
これでは、まずい!、と俺は思い、現在に至る。
じゃあ、なんで俺が必死に勉強をしているかというと、それは楽したいからだ。
端から見れば、楽したいんだったらなんで勉強なんかしてるの?と思われるかもしれない、だが、これには俺なりの考えがある。
まず、今のご時世、結局、学歴社会だと俺は思う、なんだかんだ言って頭の良い大学出身者はどんな職業でも大体、重宝されているような気がする、まあ全部が全部というわけでもないとは思うが。
そして良い大学に行く為には勉強が出来なければ行けない、という訳で俺は今、勉強をしているのだ。
そう考えていると部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「えーと、真、そろそろ休憩したらどうかしら?、あんまり根を詰めると疲れちゃうわよ!」
「そうだね、じゃあそうするよ!」
母親である天野ゆみにそう言われ、俺は返事をすると共にリビングに向かう。
リビングに着くと、テーブルの上に紅茶とちょっとした摘まめるお菓子が用意されていた。
ちなみに、我が家の休日の過ごし方は、極々、普通だと思う。
父親こと天野一郎は、休みとなればだいたいどこかに出かけてしまう、どこに行ってんだかよくわからないが、夕食が出来るぐらいになると、ふらーっと帰ってくる。
母親の天野ゆみは出かける用が無いときは、基本、ずっと読書をしている、だがちょっと困ることがある。
それは、母さんが俺のことを構い過ぎるのだ、今日だって、朝食を終えて勉強するから!と部屋に入って暫くすると、
「真、今日のお昼はなに食べたい?」
と部屋に入ってから20分後ぐらいにそう言って入ってくるし、さらに10分後には、
「真、勉強、終わったら買い物に行きましょうよ?」
そうして、先程の休憩しないか、と声をかけてきたのでもう3回目だ!。
母さん、こんなに短い間隔で声をかけられたんじゃあ集中出来るもんも、出来なくなるよ、どうせなら妹のリサを話し相手にでもしてればいいのに。
だが最近リサは友達が出来たのか、休日に家にいることはほとんどない、今日も朝食を食べ終わると、すぐさま、友達と遊んでくると言い残し家を出て行ってしまう、まあそれでも2、3時には帰ってくるのだが。
「ねえ、真、もう勉強、終わりそう?」
「いや、母さん、まだ初めて、2時間ぐらいしか足ってないよ!、それに勉強を終わりにする時間は自分で決めるよ!」
母親である、ゆみは勉強がいつ終わるのかが気になるのか、紅茶を飲みながらそんな事を聞いてくる。
母さんは俺が勉強をしている時には基本的に教えに来たり、見に来たりはしない。
当初は、教えてあげるわよ!、とか見てあげるわね!と甲斐甲斐しく来ていたのだか、あまりにも甲斐甲斐し過ぎた為、俺が自分の力でやりたい、と言ってからは、残念そうな顔をしていたが渋々、了承していた。
母さんも少しは子供離れして欲しいもんだ、まあ、俺があーだこーだ言えることじゃないが。
天野ゆみは息子が成長していく嬉しさと寂しさを感じていた。
ゆみは休日に子供達と過ごす時間を何よりも大事にしていた、普段、仕事でストレスを感じるゆみに取って子供達と過ごす時間はそのストレスを忘れさせてしまうほどの大事な時間だ。
だけど、最近は何か物足りないのだ、原因はわかっている、子供達が私の相手をあんまりしてくれないのだ。
娘のリサはすぐ遊びに行ってしまうし、息子の真も勉強をするって言って食事以外は部屋から出て来なくなっちゃうし、私は本当はもっともっとお話したり、一緒に過ごしたいのに。
勉強といえば、あの時は驚いたわね!。
家族のみんなで近くにあるショッピングモールに行った時、私が次に読む小説を探していると、急に真が、これ、買って、と言ってきて、その物を見た時は本当にびっくりしたわ。
そこには中学1年から3年の問題集を数冊持っていて、しかもそれを買ってくれって、いやいや、ちょっとおかしいでしょう!と思ったけど、よくよく話を聞いてみると小6の問題はだいたいもう出来るから、先の勉強がしたいからこの中学の問題集を買ってくれとのことだった。
一瞬、私は茫然自失になっていたかもしれない、そして気持ちが高ぶってくるのを感じた。
ひょっとしたら我が息子は天才なんじゃないだろうか?、優秀な私立の中学校に行かせた方がいいんじゃあないだろうか、様々な考えがよぎったわ、でも子供だから最初だけ興味を持ってすぐ途中で投げ出してしまうのではないだろうか?、そうなると安易な考えはマズいわね。
まずは子供が興味を持ったことをやらせるのが一番よね!、どうせやってれば結果は付いてくるだろうし、そう思って私はその時、問題集を買ってあげた。
でも、その結果、息子の真は何もない時は部屋に閉じこもり勉強をするようになった。
悪いことじゃないんだけど、なんか寂しい、私はすぐ飽きるだろうと、思い込んでいたが、真はそんな素振りも見せない、あろう事か以前にも増して勉強するようになった気がする。
少しは娘のリサも見習って欲しいぐらいね!。
でもこうして息子の頑張っている姿を見ているとどうしても甲斐甲斐しく世話をしたくなってしまう、真からはなんか迷惑そうな顔をされたけど、この気持ちだけは抑えることはできないわ。
そう思いながら、ゆみは部屋に戻って行った息子の部屋をずっと見ているのであった。