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正志と再会して二ヶ月経った。
相変わらず正志への違和感はなくならなかった。
何かが違う。
でも何が違うのだろう?
友人の千春に話してみた。
「久しぶりに会って、大人になった姿になれていないから、戸惑っているのではなくて?」
「そうじゃないわ。
分からないけれど、何かが違うの」
舞子は説明出来ないことに苛立ちを感じた。
「もうすぐ結納だもの。
そのことに対して不安なのではなくて?」
不安。
そうなのだろうか?
いや、違うのだ。
舞子はただ首を横に振った。
「そのうち消えるわよ。
私がそうだったわ」
千春はそう言って舞子の不安を消そうとした。
しかし不安は、違和感は消えることはなかった。
千春は舞子を心配そうに見つめた。
その日、家に帰った舞子は気分が晴れなかった。
正志に対する違和感が、胸の奥に残っていた。
だから部屋に閉じこもっていることが嫌で庭に出た。
外にいる方が落ち着くかと思ったのだ。
舞子はフラフラと庭を歩いていた。
随分と奥まで来てしまったようだ。
舞子はいつの間にか離れの前まで来ていた。
質素な離れは小さな家だった。
正面には入り口がひとつ。
入り口には注連縄があった。
まるで、何かを祀っているように。
そして、離れの周りには沢山の曼珠紗華が咲き誇っていた。
その時、舞子の脳裏にはあの夢の世界が広がった。
なぜだろう?
ここはあの夢と重なる。
柔らかく私を呼ぶ声。
私を抱きしめる逞しい体。
彼と、過ごした。
沢山の赤い花。
手をつないだ。
幸せだった。
突然、涙があふれた。
ここは懐かしい感じがする。
舞子は花の中にしゃがみ込んだ。
いつの間にか、雨が降り始めて舞子を濡らした。
そっと離れの扉が開いた音がした。
「誰だ?」
不信感を現した男の声だった。
舞子はハッとして顔を上げた。
「…アツキ?」
男が驚いた声をあげる。
ああ、彼だ。
舞子は立ち上がり、男を見つめた。
男は舞子を見て戸惑っている。
舞子は分かってしまった。
違和感の正体を。
彼だ。
舞子が求めていたのは、彼なのだ。
だから正志を物足りないと思った。
だって、私が欲しいのは彼なのだから。
「トオイ」
舞子の口から自然と名前がこぼれた。
「なぜ、その名を…?」
男、トオイは驚いた。
その名は、夢で見た男の名前だった。




