表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天の花  作者: 東亭和子
4/15

 正志と再会して二ヶ月経った。

 相変わらず正志への違和感はなくならなかった。

 何かが違う。

 でも何が違うのだろう?

 友人の千春に話してみた。

「久しぶりに会って、大人になった姿になれていないから、戸惑っているのではなくて?」

「そうじゃないわ。

 分からないけれど、何かが違うの」

 舞子は説明出来ないことに苛立ちを感じた。


「もうすぐ結納だもの。

 そのことに対して不安なのではなくて?」

 不安。

 そうなのだろうか?

 いや、違うのだ。

 舞子はただ首を横に振った。

「そのうち消えるわよ。

 私がそうだったわ」

 千春はそう言って舞子の不安を消そうとした。

 しかし不安は、違和感は消えることはなかった。

 千春は舞子を心配そうに見つめた。


 その日、家に帰った舞子は気分が晴れなかった。

 正志に対する違和感が、胸の奥に残っていた。

 だから部屋に閉じこもっていることが嫌で庭に出た。

 外にいる方が落ち着くかと思ったのだ。

 舞子はフラフラと庭を歩いていた。

 随分と奥まで来てしまったようだ。

 舞子はいつの間にか離れの前まで来ていた。


 質素な離れは小さな家だった。

 正面には入り口がひとつ。

 入り口には注連縄があった。

 まるで、何かを祀っているように。

 そして、離れの周りには沢山の曼珠紗華が咲き誇っていた。

 その時、舞子の脳裏にはあの夢の世界が広がった。

 なぜだろう?

 ここはあの夢と重なる。


 柔らかく私を呼ぶ声。

 私を抱きしめる逞しい体。

 彼と、過ごした。

 沢山の赤い花。

 手をつないだ。

 幸せだった。


 突然、涙があふれた。

 ここは懐かしい感じがする。

 舞子は花の中にしゃがみ込んだ。

 いつの間にか、雨が降り始めて舞子を濡らした。

 そっと離れの扉が開いた音がした。

「誰だ?」

 不信感を現した男の声だった。

 舞子はハッとして顔を上げた。

「…アツキ?」

 男が驚いた声をあげる。

 ああ、彼だ。

 舞子は立ち上がり、男を見つめた。

 男は舞子を見て戸惑っている。

 舞子は分かってしまった。

 違和感の正体を。

 彼だ。

 舞子が求めていたのは、彼なのだ。

 だから正志を物足りないと思った。

 だって、私が欲しいのは彼なのだから。

「トオイ」

 舞子の口から自然と名前がこぼれた。

「なぜ、その名を…?」

 男、トオイは驚いた。

 その名は、夢で見た男の名前だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ